<ルーク・クリフォードside>
12
「誰かな? ちょっと出てきますね」
ボクはマグカップをハイデリヒさんに手渡すと、玄関の方へ向かいドアの鍵穴から外を覗いてみた。
白衣姿で眼鏡をかけた青年が、廊下で腕組みをして睨んでいる。
誰だろう?
ボクはこんな青年は知らないし、ルカさんの知り合いなのかな。
とりあえず出てみようと決心し、ボクは玄関ドアのロックとチェーンを外すとボクは青年に尋ねた。
「あの……ウチに何かご用ですか?」
おずおずと尋ねると、白衣の青年は緊張した面持ちで答えた。
「ここにルーク・クリフォードさんはいらっしゃいます?」
ボクの名前を知っている。いったい、誰なのだろう。
「……はい。ルーク・クリフォードは、ボクですが」
「君がそうなの?」
青年は、ボクの返事を聞くなり、大げさに驚いていた。
失礼なヤツだ。当人を前にして、それはないだろう。ボクはじろりと相手を見やりながら「ええ……何か?」と、わざと不機嫌な声を出した。
青年はきっちりと着込んだ白衣の襟元をビシっとただすと、急にマジメな顔つきになり、ボクの両手を取って叫んだ。
「お願いです。ウチの研究室のサークルに入ってください!」
「はぁ?」
「いや、こんなのルール違反だとわかっています。でも、このくらいのことをしないと、僕たちサークルは生き残れないんです」
青年はいきなりボクの両手を掴むと、必死な形相で頼み込む。
「ちょ、ちょっと待ってください。何の事です?」
「僕たちのサークルの存続が掛かっているのです。是非、『物質融合サークル』に入ってください」
まるで泣きつかんばかりにすり寄って来る青年を、ボクはどうあしらってよいのかわからなかった。
物質融合サークル? なんだ? それ。物質学の研究に違いないだろうけど、なんでボクがそんなところに誘われるのだろう。もしかして、兄さんの会社関係の人だとか――。
ボクはふと、兄さんが会社で物質学関係の仕事をしているのを思い出していた。
それなら、なぜ兄さんでなく、ボクを尋ねてくるのだろう。そもそも、どこでボクの名前を調べてきたのだろうか。
ボクは話を聞きながら、もう一度相手を確かめようと考えた。
「あの……君はボクの名前を知っているようですが、ボクは君を知らないんです。君は?」
「ああ、突然すいません。僕はルークさんが今度入学する大学院の者です。教授に聞きました。まだ十代だけれど、大学を優秀な成績で飛び級で卒業した学生が入学してくると。今日はこれからミーティングがあるのですが、ルークさん、今日は何か予定はありますか?」
「予定は……特に…」
ボクはとっさに言い訳を何か考えようとしたけれど、特に思いつかなかった。
見たところ、よくわからない青年だが、どうやら同じ大学院の学生だと言うし、『物質融合サークル』と言うナンセンスなネーミングだと思うが、正直、興味がわかなかったわけではない。
「未定ですか! なら、是非! ウチの教授には、面接の時に会ったと聞いています。今日なら教授も研究室に一日いますしどうですか? 初対面でサークル勧誘と敬遠されるかもしれませんが、時間があるのなら研究室の見学だと思えばいい。是非私と一緒にまいりましょう!!」
強引だと思った。
この人、馬鹿じゃないの? とも思った。
でもその10分後。
ボクはまんまと彼の口車に乗せられて、ルカさんを一人残して、部屋を後にした。
to be continued……