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一期一会

本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

第三章 コバルトブルー


ビリー・クリフォードside



    
「ルーク、帰ろう」
 放課後。誰もいなくなった物理室でビリーが声を掛けながら廊下から入ってくると、物理室に人影が二つあるのに気がついた。
 ……ルークなのか?
 短い襟足。見慣れた後ろ姿。
 オレンジ色に染まる逆光で、シルエットしかわからないけれど、背格好から一人はルークだった。もう一人は――。
 ビリーは目を凝らした。顔は解らないけれど、シルエットからもう一人は女子学生のようだった。二人は黙って見つめ合っていたかと思うと、ゆっくりと抱き合っている。
 もしかして、ラブシーンとか?
 目撃したビリーは、流石に物理室に入っていけず、廊下から盗み見るしかできなかった。
 心臓が高鳴る。自分が抱きつかれたわけではないのに、胸の奥がきゅうとなり、思わず息を詰める。
 気になるけれど、声も掛けられない。しばらくのぞき込んでいたが、罪悪感と、嫉妬で、ビリーはその場を離れた。
 まっすぐ帰宅するのも躊躇われて、そのまま屋上へと足が向いた。
 どういうつもりで、女子学生と抱き合っていたのだろう。
 元々、ルークは女子学生には人気がある。ビリーだって負けてはいないと思うが、最近のルークは、背もぐんと伸び、以前より落ちついた表情をするようになった。
 まわりの女子が騒ぐ度に、鼻が高い思いをしたのは、一度や二度ではない。
 ただでさえ人気があるというのに、ラブレター事件があってからというもの、ルークからはいつも熱っぽい瞳を向けられていた。
 当然、瞳を向けられる意味は、ビリーはわかっていたつもりだったのだが、実際は違っていたということだろうか。
 舞い上がっていたビリーは、頭から冷や水をかけられた気分だった。
 女子学生と抱き合うことぐらい、年頃の好き合った男女であれば、あり得る行為だろう。そもそも、家族で恋愛をするなど、不毛なのだ。
 頭でわかっていたけれど、いざ、目の前にすると、心の奥にぽっかりと穴が抜けたようで、たまらなかった。
 ルークから求められ、好意を向けられることに、胡座を掻いていたからもしれない。けしてルークを軽んじて見ていたつもりはないけれど、結果的にそうなるのだろう。
 屋上から見下ろすと、遠くに海が見えた。いつもルークと一緒に行っている海だ。
 黙って身体を寄せ合って海を見るだけで、幸せだったのに、いつの間にか欲張りになっている自分がいる。
 ルークは大事な弟だ。
 幸せになって欲しいと思う。
 ルークの幸せの延長戦に、いつの間にか自分が必ずいるものと思っていたけれど、これから先は違うのかもしれないと思うと、胸の奥が疼くように痛かった。
 ビリーは先程の出来事を思い出して、屋上の床の上に大の字に寝そべった。
 日を浴びた床がほんのりと温かい。じわじわと、熱の籠もった床が、ビリーの訳の分からない澱を暖め発酵させていく。時間が経てば立つほど、発酵の度合いも進むのか、ビリーは腹が立っていた。
 あれほど、ルークは好意を見せつけてくれたのに、兄弟ゆえの愛情だったというのか。
 あんなに切ない目で見つめられて。名前を呼んでくれていたのに。
 全部、勝手な自惚れだと思うと、ビリーは自分が滑稽でしかたがなかった。
 たった二人きりの家族だから、親の愛情を知らずに育った。求め合うことしか知らないのはお互い様だと思っていたけれど、それでも、ルークはビリーにとって、大事な弟だからと思い、好きにさせていた。
 キスをしたければキスを。抱きしめたければ身体を預けるつもりでいたのに。
 それなのに――。
 瞳を閉じると、当たり前のように瞼の上に小さな太陽の円を感じるように、ルークに求められること、好きにさせることが、愛情だと吐き違えていたのかもしれない。
 寂しくて、悲しくて。
 ビリーはいつの間にか一人、涙を流していた。


to be  continued……



第三章 コバルトブルー


ビリー・クリフォードside 



 物理クラブは相変わらず部員四人のまま、学年末を迎えた。このまま三年生が中学を卒業してしまえば、物理クラブはクリフォード兄弟だけになる。
 ビリーのラブレター騒ぎ以来、ルークは割り切ったのか、ビリーに対する気持ちを、隠さなくなっていた。
 ビリーもルークに思われるのはまんざらではなかった。
 以前は名前を呼ぶにも「兄さん! 兄さん!」と騒がしいものだったのが、最近は「ビリー」と一言、名前を熱っぽい目を潤ませながら呼ばれることが多くなった。その度に胸の奥がドキドキして、なんだか落ち着かない気分になる。
 ビリーもルークは嫌いではない。けれど、これを恋愛感情としてとして扱っていいのか、戸惑っていた。
 今まで《恋愛》というと、男女の間だけに存在する気持ちだと解釈していた。けれど、ラブレター事件以来、男女以外にも恋愛は成立するのだとわかると、複雑な気持ちだった。
 ビリーはいたって自分では普通だと思っている。
 男子よりも女子のほうが好きという感情を抱きやすいのは間違いないと思うが、これも定かではない。ビリー自身、誰かを本当に好きになったことがなかったからだ。
 ビリーにとって、ルークはなくてはならない存在だと思う。けれど、それが恋愛感情なのか、兄弟愛なのかは、わからない。
 ただ、ラブレター事件以来、ルークはビリーにキスを求めてくるようになった。
 ビリーも断る理由がないので、当然応じる。熱っぽい舌で、口中をなぞられると、頭が真っ白になり、ぼんやりとしてしまう。ルークはそれ以上望まないので、キス止まりで終わってしまうのだけれど。
 名残惜しそうに離れるルークの瞳を見ると、ビリーも寂しいと思うし、なんだか物足りない。
 これって、恋愛なのだろうか。男同士で? しかも兄弟同士で、恋愛はできるものなのだろうか。
 成績は優秀なビリーだが、考えてもわからない。
 誰かに相談したくても、考えたら相談したい相手がルーク以外にはいないことに気がついた。



to be  continued……





第二章 ラブレター 


ビリー・クリフォードside


12



「ごめんね……兄さん」
 何度目の謝罪の事だろう。
 すでに辺りは真っ暗になってから、ビリーとルークは施設に帰宅した。兄弟そろって門限を破り、施設長からはこってり説教をくらってしまったが、それとは裏腹に、ルークの心は晴れやかだった。
 身体はすっかり自分より大きいのに、震えながら懺悔するルークが愛しかった。
 本気で弟の事が嫌いなら、きっとどんな手を使ってでも反抗しただろう。だが、こんなに自分を慕ってくれて、欲しいと言われて。
 行きすぎた兄弟愛かもしれない。だが、ルークこうされて嫌ではなかった。
 言葉ではない。
 今まで弟を恋愛対象として見た事はなかったけれど、心のどこかでは、ルークとなら、こうなってもいいと思っている事を否めない自分がいる。
 他の誰かでは、きっと許さないだろう。ルークだから。コイツになら、何をされても嫌ではない。
 泣きそうなくらい切ない顔をされて、自分を欲しいとルークに言われたら、ビリーにはもう何も反抗する理由がなかった。
「いいって。気にすんな」
 ルークがごめんねと言ったのは、先程の行為の事を指しているのか、門限を破った事を言っているのか、どちらとの意味にもとれる謝罪の言葉と返答だと気づいて、二人は目を合わせて笑った。
「ありがとう」
「なんだよ、急に」
「なんかお礼を言いたくなったから」
「お礼? なんの事だ?」
 ビリーにはお礼の意味がわからなくもなかったが、知らないふりをした。自慢の弟だと思う。それを抜きにしても、素直で、まっすぐで、言葉だけでなく、身体でも、全身全霊をかけて自分の事を好きだと表現してくれるルークを、嫌いになるなんてできないと思う。
 男同士だからだなんて、兄弟だからだなんて関係ない。
 ルークとのキスも、気恥ずかしいけれど、嫌ではなかった。ルークだから許せたのだと思う。
 考えてみたら、ファースト・キスだった。初めての相手が、弟だというのが、少し残念な気がしたが、それでいいと思う。

 翌日の放課後。
 クリフォード兄弟がクラブに顔を出すと、部活の面々の暗い顔があった。
「どうしたんです?」
「いや、この間入部した新入部員、辞めたんだって」
「ほら、退部届」
 ビリーの靴箱に投函されていた手紙と同じ便せんに、退部届と書かれてあった。
 なんとなく同じ部員には気の毒に思うけれど、これでよかったのかもしれない。ビリーとルークは部員にはわからないように、顔を見合わせて微笑んだ。
 物理室の机の下でこっそりと手を繋ぎながら。


to be  continued……




第二章 ラブレター


<ルーク・クリフォードside>


11



ビリーはまったく自覚も何もないのだろう。それが解るだけに、ルークは苛立った。
 兄に少しでも好意を持つものならば感じてしまう。何に対しても自信ありげな態度で、オレ様節をふかせているクセに、時折みせる優しさ。何にも判っていないようなのに、痛みは人一倍感じて、努力するところは誰にも見せない。
 ルークは一度沈めようと思った火種が、段々と大きくなるのを自覚しないわけにはいかなかった。
 薄暗くなる物理室。
 自分達の他には誰もいない。
 目の前には大好きなビリーの瞳。
 ルークにはそれだけで理由は十分だった。
 再びビリーの唇をふさぐと、ゆっくりと口中に舌を侵入させて吸い上げる。
 ビリーは驚いて、最初は手をばたつかせていたが、角度を変え、ルークが深いキスを落とすうちに抵抗はしなくなった。ビリーの両手を扉に押さえ、キスをしたまま、ルークは片足をビリーの両足に割り入れる。
「んっ」と、わずかながら、吐息ともとれる声を耳にしたルークは、拍車がかかったように唇をビリーの首筋に移した。塞がれていたビリーの唇が開くと、唇から、小さなつぶやきが聞こえた。
「……ルーク。オレでいいなら、……お前にくれてやる」
「兄さん……?」
「覚えてとけ。お前だから好き勝手、許すんだからな」
 それまで強張っていたビリーの身体から、力が抜けた。
 どうやら、ビリーはルークの意図を汲んで、好きにしろと言いたいらしい。薄暗い物理室で暗闇になれてきた目をこらすと、ビリーはじっと瞳を閉じていた。
「兄さん……」
 ビリーの頬に、一筋の涙がこぼれるのを、ルークは見逃さなかった。
「兄さん、ごめん……」
 ルークには、ビリーの涙の意味がわからなかった。
 大好きな兄さんなのに、泣かせてしまった。拒絶されたのかもしれない。たった二人の家族なのに、自分本意の我が儘に付き合わせてしまうのかと思うと、この先に進むことはルークにはできなかった。
 ルークは押さえつけていたビリーの手を離し、乱れた制服を元に戻す。すっかり自分より小さくなったビリーの身体を、正面から抱きしめた。
「お願いだから、ボクを嫌いにならないで――」
 抱きしめながら、ルークはビリーに小さく願い出た。     
「ごめん……。目の前で知らない誰かが兄さんにこうするのを想像したら、ボクは我慢できなかったんだ」
「いいのか?」
「うん。ごめんね。ボクは兄さんだけには嫌われたくない。一生、兄さんの弟でいたい――」
 ルークは心からほっとしていた。
 一生、ビリーには自分の本当の気持ちを言わないつもりだったのに、勢いでキスまでしてしまった。自分を拒否されなくてよかったと思うし、あんな状況で自分を受け入れてくれた兄を心から尊敬するしかなかった。
 この先、ずっとビリーと一緒にいれるのなら、一生、兄弟のままでいい――。
 ルークは、心に決めた。
「兄さん、ありがとう」
 自分達は男同士、その前に血の繋がった兄弟。好きだという気持もさながら、告白しても以前と同じ態度でいてくれるビリーに、ルークは感謝の気持ちで一杯だった。
 ルークは、抱いていたビリーを身体から引きはがした。
「覚えとけ。お前にだけ許すんだからな」
 ビリーはにかりと笑い、「帰ろう」と、ルークの手を引いた。



to be  continued……


第二章 ラブレター


<ビリー・クリフォードside>



10




ビリーは想像すると、心配を通り越して腹がたってきた。
「オレは心配してくれなんて一言も言ってないぞ。それにお前……仮にも部活の三年生の先輩だ。一年生のお前が先輩にそんな態度とって、もし、目をつけられたなら、どーすんだよ!」
 強い口調で窘め、ルークを睨み付ける。ルークは眉一つ上げなかった。
「兄さんらしくない発言だね。そんなのちっとも問題じゃないよ。考え方をかえれば、三年生だったら、あと半年もすればいなくなるじゃない? ボクの事を心配してくれるのは嬉しいけど、そんな余裕があるのなら、もっと自分の身を心配した方がいいんじゃない?」
 ルークはビリーに近づくと、教室の戸までどんと背中を押す。ビリーはドアを背に張り付けられたような格好になった。
「ルーク……?」
「兄さんも悪いんだよ。ホラ、こんなに隙だらけじゃない」
 表情はいたって普通に見えるのに、口調は静かに煽っている。こんな時のルークは、要注意なのだ。一見、物静かに見えて、内心はとても怒っている。小さい時から、ルークが心の底から怒る時は、いつもこんな風だったなと、ビリーは思い出していた。
「確かにお前が来てくれたから助かった。それは礼をいう」
 謝るのが、なんとなく口惜しい。悔しい気もするが、何かをしてもらったら、礼を尽くすのがビリーの心情だった。ルークはビリーの礼を無視して、更に間を詰めた。
「もし、ボクが来るのが遅かったりしたら、兄さん……わかってる?」
「え?」
「今頃は……」
 ルークは苦汁に満ちた顔をしていた。何か物言いたげな表情だけれど、黙っていた。見ていると、こちら側まで辛くなってくる。
「何か言いたいことがあるなら言えよ!」
「良いの? 言っても」
「ああ」
「なら、言わせてもらうけど……」
 ルークは大きく息を吸うと、思いの丈をビリーにぶつけた。
「ボクは兄さんが、必要以上に誰かに触れられるのも嫌なのに、ましてが押し倒そうとしていたなんて想像するだけで、悔しくてたまらないんだ。誰かに兄さんをを奪われるぐらいなら、このまま自分が押し倒してしまいたい」     
「ルーク? お前……」
 ビリーは、正面に見えるルークの瞳をじっと見つめていた。落ち着いて見えるけれど、本気で怒っているようだ。
 ルークが心配してくれるのはありがたかった。流石に何を言うとしているのか判ったが、中学生でそんな事はありえないだろうと、ビリーは楽観していたのかもしれない。
「そんな……いくらなんでもお前が心配していたような事にはならないさ」
「兄さん、本気でそう思うの?」
「だって、そんな……」
「兄さんだって、男だからわかるでしょ。まだ中学生同士だからだと思ってそんな風に思っていると、いつか痛い目にあるよ」
 ルークは戸に両手を付き、間にビリーを挟み込む格好になった。
 ビリーだって一応、思春期の健康な男子だ。ルークが何を心配して言っているのかぐらいは察しがついた。
「ボクがもう少しくるのが遅かったら、このぐらいの事はされていたかもよ」
 ルークは静かに言うと、ゆっくりとビリーに唇を重ねた。
 オレは一体、弟に何をされている?
 今まで触れるようなキスはお互いした事はあったけれど、それは家族同士でするハグの延長みたいなものだった。一瞬それかとビリーは思ったが、この状況は明らかにそうゆう類のものと違うだろう。
 重ねたルークの唇は、なかなかビリーの唇から外れてはくれなかった。それどころか重ね合わせた部分から、ルークの柔らかい舌が自分の口中を押し分けて侵入してくる。
 ビリーは息継ぎさえも、どこですればいいのかわからず、苦しくて口を開けようとすると、余計にルークの舌が口中の奥へと入ってきた。
 こほっ。こっ……。
 ビリーはむせた勢いで、ルークの胸を突き飛ばす。
 自分から遠ざけようとすると、自分の唇から引かれた銀色の糸がゆっくりとのび、ルークの唇とをつなぐ。それを残念そうに眺めるルークの顔は、今まで見たことないぐらいに大人びて艶っぽかった。
「な、何するんだ!」
「わかったでしょ? 兄さんは隙がありすぎなんだよ」
「隙って言われても……」
 ルークに隙があるといわれても、ビリーは訳がわからなかった。
 今のはなんだ? キスなのか?
 自問自答しても、ビリーはなぜルークがキスをしたのかわからなかった。



to be  continued……



第二章 ラブレター


<ビリー・クリフォードside>




 ビリーが助けを呼ぼうと声を上げようとすると、それに気づいた先輩がビリーの口を手でふさいだ。
 大声で叫びたいけれど、口を塞がれてままならない。息と、低い叫び声が先輩の大きな手の中で反響するだけだ。
 近づいた足音は、さらに大きくなり、物理室の前で止まったと思ったら、ガラリと戸が開き、足音の主が現れた。
「兄さん!」
 ルークの声だ。
 ルークは先輩とビリーの様子を見ると、有無を言わさず、覆い被さった先輩の左頬に一発ぐうでパンチを食らわした。
「痛い! 何をするんだ!」
 先輩は殴られた勢いで、驚いた顔をしながらビリーを離した。
「兄さんから離れろ!」
「ルーク? お前、なんでここに?」
「いいから早く!」
 ルークは先輩の学ランの胸ぐらを掴むと、ものすごい力で先輩を無理矢理立たせた。
「もう一発いっときますか?」
 すでに薄暗い教室の中に、ひときわルークの落ち着いた声だけが響き渡る。お互い、荒い息だけがわかり、一触即発でつかみかかって来そうな勢いだったが、先に諦めたのか、「……わかったよ」と、声がした。
 渋々だが先輩がビリーの掴んだ腕を放し、ゆっくりと立ち上がった。
「兄さん、大丈夫?」
「ああ……」
 ビリーが格別ケガをしていないのを確認すると、ルークはさらに先輩に対して言葉を続けた。
「先輩、先輩が今後兄さんに手紙を出さないというのなら、今日の事は黙っておきます。先輩もこの事は表沙汰にしたくはないでしょう?」
「き、君も……手紙のことを知っているのか?」
 先輩の声が震えていた。少なからず動揺しているようだ。
「ええ。すいません。兄さんと先輩が手紙を靴箱に投函する所を見ましたから。出来ればこれからは兄さんに近づかないでください。もし、今日のような事があったら、先生や警察に相談しますよ。これからの時期、先輩だって受験で内申書の内容が気になる所でしょう?」
「汚いな……取引か?」
「汚いのは先輩の方です。兄さんに手紙を書く時間があるのなら、別にすることがあるでしょう。もっと勉強してください!」
 ルークは先輩をにらみつけた。先輩は何かもの言いたげにしばらくこちらを見ていたが、諦めたのか後退していき、やがて黙って物理室を去っていった。
「ほっ。よかった」
 今まで緊張してたのか、ルークが安堵の表情を見せると、ビリーが怒った。
「よかったじゃねーよ!」
「兄さん、そんな言い方する事ないじゃない。心配して来たのに」
 確かにルークが来てくれなかったら、今頃、自分は先輩に好き勝手、されていたかもしれない。運良く、先輩は大人しく引き下がってくれたけれど、これがもし、違う方向に行っていたらどうなる?
 もし、乱闘になり、ルークが巻き込まれたら――。
 いくらルークが身体がデカイといっても、相手は三年生だ。根本的に不利だろう。怪我でもしたらどうなる? 一時的な怪我だけで済めばいいほうだろう。これをきっかけに相手が根を持ち、継続的なイジメに発展することだってあるのだから。


to be  continued……




TIGER & BUNNY THE LIVE に行って来ました。

私が見たのは3日目の昼の部。

周りを見渡すと、若いおお嬢さん。お嬢さん。お嬢さん……。

どんだけ女子に人気なの!

男性もちらほら姿が見えましたが、ほぼ、大半が女性。

バーナビー人気なのか。納得

もちろん、おじさんも人気です。

会場に入る前には、届いた花束でいっぱい。

平田さん宛てには、KENNさんからのお花もありました。

きっと、宇宙兄弟繋がりだね。

内容は……












これから見る方もいらっしゃるでしょうし、DVDも発売されるし、ネタばれになるので内緒。

でも、これからLIVE見る方は、


1.キャラソンのおさらいをすべし!

2.できれば、サイリウム準備。

3.席によっては、冷房がガンガン効いているので、上着を1枚準備。


あとは楽しむだけ。


LIVEは、予想以上によかった……!!

私の席は1階の舞台正面にして半分より後ろのPA席のある右側通路から少し入った席。

でも、結果的にはすごくよかった。

斜め後ろに気がつかないうちに、楓ちゃんが座っていて、生平田さんが間近で見られた。

アクションシーンは多いし、歌もけっこう多い。

ラストは、会場全員で大合唱。

手話も覚えたいな。と、思ってしまった。


うん。よい舞台でした。




第二章 ラブレター


<ビリー・クリフォードside>







「先輩、話があります」
「何の話?」
「この手紙に見覚えありませんか?」
 ビリーはくちゃくちゃになった手紙を机に広げて彼に見せた。
 返事はなかった。ビリーは静かに言葉を繋げた。
「これは先輩がオレにくれたものじゃないですか?」
「ビリー君……」
「差出人名がないのに、なんでわかったんだと思ってるんでしょう? すいません、オレ今日、先輩がこの手紙を靴箱に投函するところを見たんです。違いますか?」
「見てたのか?」
「すいません。オレ、今は誰ともそういった付き合いをするつもりはありませんから。悪いけど、もう手紙は出さないでください」
 冷たい言い方だったかもしれないけれど、言いたい事は言った。今後、部活内で、先輩とは気まずくなるかもしれないな。と思うけれど、しかたがない。
 頭の中では、どこか吹っ切れた気持ちと、後悔の念が渦巻いていた。けれど、これでいいんだ。これしかないんだ。と、ビリーは自分に言い聞かせた。
 ビリーはペコリ頭を下げて、先輩の前から立ち去ろう踵を返した時だった。片手を掴まれ、反動で足がもつれた。
 うわっ!
 気がつくと、そのままビリーと先輩は、物理室の床の上に倒れていた。
「……先輩?」
 先輩がビリーの上に覆い被さる形になり、目の前に思い詰めた顔があった。
「ばれたのならしょうがない。でも、僕はいたって真面目に君の事を――」
 ビリーが慌ててよけ、立ち上がろうとする側から、先輩は制服の端を掴んでは離そうとしない。教室の床の上で乱闘になる。
 凄い力だった。小柄なビリーは、なかなか先輩の手から抜け出ることができなかった。
「ちょ……離せよ! いくら先輩でも、やって良いことと悪い事があるじゃないか!」
 ビリーは押さえ蹴られた先輩の腕を思い切り引き抜こうとするが、相手も必死なので、なかなか抜けてはくれない。
「君は誰かを好きになった事がないの?」
「そんなの先輩には関係ないだろ!」
「ねえ、僕の事はどう思う? 嫌い?」
「好きとか嫌いとかじゃなくて」
 先輩はビリーを離そうとはせず、かわりに自分本位な質問ばかりをたたみ掛けてくる。
 最初は加減していたビリーだったが、逃れようとしても、なかなかできない。ビリーは先輩相手だということも忘れて、反抗した。
「離れろ!」
「ねえ」
「嫌だ!」
 だんだん本気で腹が立ってくる。質問に答えるどころではない。静かになった物理室に、ビリーが抵抗してバタバタと床を蹴る音が響き渡るけれど、もちろん誰か助けに来るわけではない。
「そんな問題じゃねーだろ! 離せ! 離せよっ!」
 ようやく隙をみて、起きあがり、教室を出ようとするビリーを、執拗に引っ張る先輩が疎ましくてならない。これ以上迷惑を被るぐらいなら、先輩でも一発殴って逃げてやろうと考えた時だった。廊下から誰が走ってくる音がした。



to be  continued……


第二章 ラブレター


<ビリー・クリフォードside>





  


 

 ビリーはルークに言われて、すぐに答えられなかった。一体、自分は何を躊躇っているのだろう。
 相手が女子ではなく、男子だから?
 それともよく知る先輩だから?
 ルークにはああ切り替えしたけれど、このままにはしたくない。ビリーは足を再び学校へと足を向けた。
    *
 再び学校へ戻ったビリーだったが、すでに下校時間は過ぎていて、部活をする者の人影もまばらになっていた。
 急いでクラブが行われている物理室へと向かう。階段を駆け上がり、物理室の引き戸を開けると、すでに人影は誰もいなかった。
 ……やっぱりな。
 一瞬、がっくりとするが、心のどこかではホッとしていた。
 自分は此所に来て、何をするつもりだったのだろう。ホッとしたと言うことは、改めて何も決断できていないのだと気づく。
 ここまで戻って来るのなら、先輩が自分の靴箱に手紙を投函するときに声をかければよかったのだ。今まで自分の知らない所で、目立っていたのはなんとなく自覚していたが、それに格好つけて、どこかいい人でいなければならないと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
 特によく知る先輩ならなおのこと。そんな手紙を貰うのが迷惑なら、相手が女だろうと男だろうと、正直に断って謝るべきなのだ。誰かを好きになることは、罪ではない。たとえそれが女でも、男でも。大事になのは、その気持ちをどう扱うかなのではないか。
 悔しいけれど、そう気づかせてくれたのは、ルークだ。
 明日、先輩にはちゃんと話をしよう。
 暗くなり始めた物理室を出ようとした時だった。誰かの足音が近づく音がする。次の瞬間、ガラリと教室の戸が開く音がした。
「ビリー君?」
「先輩……ですか?」
 例の先輩だった。
 いきなり渦中の人が目の前に現れて、ビリーは驚いた。正直言って、今は一番会いたくない相手だ。
「こんな時間にどうしたの?」
「いや……ちょっと用があって」
「先輩は?」
「僕は君の姿を見かけたから――」
 先輩が自分の握りしめた手紙に視線を送るのを、ビリーは見逃さなかった。
「今日は部活に来なかったね。どうしたの?」
 手紙に気づいたはずなのに、先輩は普段と変わらない調子で尋ねてくる。
 思い切って話してみようか。だが、自分が手紙を握りしめているのを見ても、眉一つ動かさないこの相手に、どう切り出していいものか……。
 ビリーは少しだけ躊躇したが、先程のルークとのやりとりを思い出して思いきって自分から切り出した。



to be  continued……

第二章 ラブレター 


<ルーク・クリフォードside>




   
 帰り道もビリーはずっと無言だった。
 ルークも何も言わなかった。けれど、このまま何もしないわけにはいないだろう。
 三年生が卒業するまであと約半年。このまま手紙の投函が半年も続くとなると、それもうんざりだし、かといってクラブの先輩である男子生徒にも言いづらい。いつかこのまま手紙が来なくなるのを待つしかないのだろか。
 無言のまま、施設に着き、ビリーとルークは自室に入った。
 施設の部屋は二人部屋だった。
 毎年、部屋割は、中学生同士の中でくじ引きをして移動になる。去年までは小学生だったルークは、今年はたまたまビリーとルークは同室だったため、本当は一人きりになりたくても、そうもいかない。
 同室の相手があまり親しくない間柄なら、気にもならないのかもしれないが、あいにく相手は兄弟で同じクラブに所属し、一緒にいない時間といえば、学校で授業を受けている時間と、入浴、トイレに行くぐらいなものだ。ヘタをすると入浴だって大浴場で一緒になるのだから、日中の半分以上は一緒に過ごす相手であった。
「兄さん……どうするの?」
 ずっと黙っていたルークだが、とうとう痺れを切らしてビリーに声をかけた。
「どうも…ないだろ。まさか手紙の相手が先輩だとはな」
 結論はいわなかった。なんとなく歯切れの悪い返事からすると、相手が先輩だから悩んでいるのか、女子生徒だと思っていたのに男子生徒だから悩んでいるのかわからない。ルークは気になってしかたがなかった。
「兄さん、兄さんは何を悩んでいるの? よく知っている先輩だから? それとも女子生徒じゃなかったから?」
「どういう意味だ?」
「どういうって……言葉のまんまだけど」
 ダメだ。止められない。これ以上言って喧嘩になるとわかっているのに。
 ルークの中では、煮え切らないビリーの態度が気になって、八つ当たりだとわかっているのに暴言は止められなかった。いや、八つ当たりというより、これは立派な嫉妬なのだと思う。
 ルークだけが持つ黒い感情に、ちっと気づかないビリーに腹が立つ。
「言葉って。じゃあルークは先輩だからというのはとりあえず置いておいても、女子生徒じゃなかったからってのは、取り方にとっちゃオレが女よりも男の方が好きだとでも言いたいのか?」
「それは……」
 ルークは言葉に詰まった。聞きたいことをズバリと言われて、思わず動揺したからだ。
 ビリーだって同じ歳の女の子にまったく興味がないわけではないだろう。だが、ここでもし、女よりも男に興味があると言われたら、ずっとショックだと思う。
 自分の気持ちを伝えるつもりはないけれど、いつかビリーにも好きな女の子が出来るだろうし、つき合うようになる日が来るだろう。
 中学校でもあれだけ目立ってもてるのだから、いつそんな日が来たとしてもおかしくはない。そうすれば自分の気持ちを封印するきっかけができるだろうし、封印できると覚悟してきたつもりだ。けれど、もしも、ここでビリーが女よりも男が好きだと言ったら――。
 ルークは想像すると、心中穏やかではなかった。
 自分はこの気持ちを一生、封印できるだろうか。同じ性を持つ者として、ビリーが選んだ相手が女性でなく男性だったら、きっと嫉妬して気が狂ってしまうかもしれない。
「オレのことより、自分の心配をしろよ。お前だって、しょっちゅう女の子にラブレターを貰ってるだろ?」
「なんでここでボクの話が出てくるの? 今は兄さんの話をしているんじゃないか」
「オレのことはいい。一人でなんとかするから」
「一人でなんとか出来るの?」
「ああ、大丈夫だ」
「なんで兄さんはいつもそうなの?」
 ああ、まただ。こんな事言いたいわけじゃないのに。後悔と失念だけが心の中に渦巻いてゆく。ビリーはルークと、これ以上顔を合わせたくないのか、手紙を握りしめると、黙って部屋を出て行った。


to be  continued……