第二章 ラブレター
<ルーク・クリフォードside>
11
ビリーはまったく自覚も何もないのだろう。それが解るだけに、ルークは苛立った。
兄に少しでも好意を持つものならば感じてしまう。何に対しても自信ありげな態度で、オレ様節をふかせているクセに、時折みせる優しさ。何にも判っていないようなのに、痛みは人一倍感じて、努力するところは誰にも見せない。
ルークは一度沈めようと思った火種が、段々と大きくなるのを自覚しないわけにはいかなかった。
薄暗くなる物理室。
自分達の他には誰もいない。
目の前には大好きなビリーの瞳。
ルークにはそれだけで理由は十分だった。
再びビリーの唇をふさぐと、ゆっくりと口中に舌を侵入させて吸い上げる。
ビリーは驚いて、最初は手をばたつかせていたが、角度を変え、ルークが深いキスを落とすうちに抵抗はしなくなった。ビリーの両手を扉に押さえ、キスをしたまま、ルークは片足をビリーの両足に割り入れる。
「んっ」と、わずかながら、吐息ともとれる声を耳にしたルークは、拍車がかかったように唇をビリーの首筋に移した。塞がれていたビリーの唇が開くと、唇から、小さなつぶやきが聞こえた。
「……ルーク。オレでいいなら、……お前にくれてやる」
「兄さん……?」
「覚えてとけ。お前だから好き勝手、許すんだからな」
それまで強張っていたビリーの身体から、力が抜けた。
どうやら、ビリーはルークの意図を汲んで、好きにしろと言いたいらしい。薄暗い物理室で暗闇になれてきた目をこらすと、ビリーはじっと瞳を閉じていた。
「兄さん……」
ビリーの頬に、一筋の涙がこぼれるのを、ルークは見逃さなかった。
「兄さん、ごめん……」
ルークには、ビリーの涙の意味がわからなかった。
大好きな兄さんなのに、泣かせてしまった。拒絶されたのかもしれない。たった二人の家族なのに、自分本意の我が儘に付き合わせてしまうのかと思うと、この先に進むことはルークにはできなかった。
ルークは押さえつけていたビリーの手を離し、乱れた制服を元に戻す。すっかり自分より小さくなったビリーの身体を、正面から抱きしめた。
「お願いだから、ボクを嫌いにならないで――」
抱きしめながら、ルークはビリーに小さく願い出た。
「ごめん……。目の前で知らない誰かが兄さんにこうするのを想像したら、ボクは我慢できなかったんだ」
「いいのか?」
「うん。ごめんね。ボクは兄さんだけには嫌われたくない。一生、兄さんの弟でいたい――」
ルークは心からほっとしていた。
一生、ビリーには自分の本当の気持ちを言わないつもりだったのに、勢いでキスまでしてしまった。自分を拒否されなくてよかったと思うし、あんな状況で自分を受け入れてくれた兄を心から尊敬するしかなかった。
この先、ずっとビリーと一緒にいれるのなら、一生、兄弟のままでいい――。
ルークは、心に決めた。
「兄さん、ありがとう」
自分達は男同士、その前に血の繋がった兄弟。好きだという気持もさながら、告白しても以前と同じ態度でいてくれるビリーに、ルークは感謝の気持ちで一杯だった。
ルークは、抱いていたビリーを身体から引きはがした。
「覚えとけ。お前にだけ許すんだからな」
ビリーはにかりと笑い、「帰ろう」と、ルークの手を引いた。
to be continued……