第二章 ラブレター
<ビリー・クリフォードside>
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ビリーは想像すると、心配を通り越して腹がたってきた。
「オレは心配してくれなんて一言も言ってないぞ。それにお前……仮にも部活の三年生の先輩だ。一年生のお前が先輩にそんな態度とって、もし、目をつけられたなら、どーすんだよ!」
強い口調で窘め、ルークを睨み付ける。ルークは眉一つ上げなかった。
「兄さんらしくない発言だね。そんなのちっとも問題じゃないよ。考え方をかえれば、三年生だったら、あと半年もすればいなくなるじゃない? ボクの事を心配してくれるのは嬉しいけど、そんな余裕があるのなら、もっと自分の身を心配した方がいいんじゃない?」
ルークはビリーに近づくと、教室の戸までどんと背中を押す。ビリーはドアを背に張り付けられたような格好になった。
「ルーク……?」
「兄さんも悪いんだよ。ホラ、こんなに隙だらけじゃない」
表情はいたって普通に見えるのに、口調は静かに煽っている。こんな時のルークは、要注意なのだ。一見、物静かに見えて、内心はとても怒っている。小さい時から、ルークが心の底から怒る時は、いつもこんな風だったなと、ビリーは思い出していた。
「確かにお前が来てくれたから助かった。それは礼をいう」
謝るのが、なんとなく口惜しい。悔しい気もするが、何かをしてもらったら、礼を尽くすのがビリーの心情だった。ルークはビリーの礼を無視して、更に間を詰めた。
「もし、ボクが来るのが遅かったりしたら、兄さん……わかってる?」
「え?」
「今頃は……」
ルークは苦汁に満ちた顔をしていた。何か物言いたげな表情だけれど、黙っていた。見ていると、こちら側まで辛くなってくる。
「何か言いたいことがあるなら言えよ!」
「良いの? 言っても」
「ああ」
「なら、言わせてもらうけど……」
ルークは大きく息を吸うと、思いの丈をビリーにぶつけた。
「ボクは兄さんが、必要以上に誰かに触れられるのも嫌なのに、ましてが押し倒そうとしていたなんて想像するだけで、悔しくてたまらないんだ。誰かに兄さんをを奪われるぐらいなら、このまま自分が押し倒してしまいたい」
「ルーク? お前……」
ビリーは、正面に見えるルークの瞳をじっと見つめていた。落ち着いて見えるけれど、本気で怒っているようだ。
ルークが心配してくれるのはありがたかった。流石に何を言うとしているのか判ったが、中学生でそんな事はありえないだろうと、ビリーは楽観していたのかもしれない。
「そんな……いくらなんでもお前が心配していたような事にはならないさ」
「兄さん、本気でそう思うの?」
「だって、そんな……」
「兄さんだって、男だからわかるでしょ。まだ中学生同士だからだと思ってそんな風に思っていると、いつか痛い目にあるよ」
ルークは戸に両手を付き、間にビリーを挟み込む格好になった。
ビリーだって一応、思春期の健康な男子だ。ルークが何を心配して言っているのかぐらいは察しがついた。
「ボクがもう少しくるのが遅かったら、このぐらいの事はされていたかもよ」
ルークは静かに言うと、ゆっくりとビリーに唇を重ねた。
オレは一体、弟に何をされている?
今まで触れるようなキスはお互いした事はあったけれど、それは家族同士でするハグの延長みたいなものだった。一瞬それかとビリーは思ったが、この状況は明らかにそうゆう類のものと違うだろう。
重ねたルークの唇は、なかなかビリーの唇から外れてはくれなかった。それどころか重ね合わせた部分から、ルークの柔らかい舌が自分の口中を押し分けて侵入してくる。
ビリーは息継ぎさえも、どこですればいいのかわからず、苦しくて口を開けようとすると、余計にルークの舌が口中の奥へと入ってきた。
こほっ。こっ……。
ビリーはむせた勢いで、ルークの胸を突き飛ばす。
自分から遠ざけようとすると、自分の唇から引かれた銀色の糸がゆっくりとのび、ルークの唇とをつなぐ。それを残念そうに眺めるルークの顔は、今まで見たことないぐらいに大人びて艶っぽかった。
「な、何するんだ!」
「わかったでしょ? 兄さんは隙がありすぎなんだよ」
「隙って言われても……」
ルークに隙があるといわれても、ビリーは訳がわからなかった。
今のはなんだ? キスなのか?
自問自答しても、ビリーはなぜルークがキスをしたのかわからなかった。
to be continued……