第二章 ラブレター
<ルーク・クリフォードside>
5
次の日の放課後。
ホームルームも終わり、一旦、物理室で待ち合わせたクリフォード兄弟は、クラブのメンバーに「兄弟で先生に呼ばれたから」と言い訳し、ルークの靴箱が見える位置の昇降口の階段下の隙間に身を隠した。
「もし、相手が現れなかったらどうするの?」
ルークがビリーに問いかけた。
「いいや、絶対に現れる。もし見かけたら、オレは正面から、お前は後ろから相手を逃げないよう見張り、相手を確かめるんだ。いいな?」
口調はまるで、犯人逮捕を部下に指示する刑事のようだ。
「兄さん、それじゃまるで犯人を逮捕するみたいだよ」
「まあ、似たようなもんだ」
すっかり犯人を突き止める刑事になったつもりのビリーは、意気揚々と隠れた。
そんな会話を交わしながら待つこと約一時間。ようやく他の生徒も帰宅をするか、部活に行くかで昇降口に人影がなくなった。
「暗くなってきたな」
「うん。それに、ここちょっと寒いよね」
「付き合わせてわりぃ。もうちょっと我慢しろ。こうすれば寒くないか?」
コンクリートの上に直貼りになったリノリウムの床は冷たい。床の上に体育座りで待つルークの足の間に、遠慮なくビリーは入ってくる。そう、いつもルークがビリーに甘える時にとるようなポーズだ。
「兄さん……」
「ルークはこうすると機嫌がよくなるからな」
もう……この人は。
まったく自覚していないのにもほどがある。
ルークがビリーを恋しすぎて、たまにスキンシップとるポーズを、ビリーは子供がだだをこねた時に母親機嫌をとるようなものだと解釈しているのだ。
形のよい兄の後頭部と、自分と同じ艶やかな金髪が急に目の前に現れ、ビリーのにおいがルークの鼻孔をくすぐる。
自分より一回り小さい学ランの背中を見ると、つい後ろから抱きしめたくなる衝動にかられる。
「兄さん、それってボクがまるで小さな子供みたいじゃない」
「だって実際そうだろ? ナリはオレよりデカくなってるクセに、いつまでたってもお前は甘えん坊なんだから」
ビリーは当たり前のように言うと、後ろに座るルークに、座椅子のようにもたれかかった。
「もう……兄さんたら」
いつも俺様な態度ばかり取るけれど、それはポーズで、弟想いの優しい兄さんだ。ルークはビリーの態度は嫌ではなかった。
その時だった。
誰もいない昇降口の階段下で、ビリーとルークが待ち伏せしていると知らない手紙の相手が姿を現した。誰もいなくなった昇降口に、足音のしないように現れた相手は、ビリーの靴箱の前にやってくると左右を見渡し、素早く手紙を放り込んだ。
「兄さん。あれ……」
ビリーも、ルークも動けなかった。想像していた相手と、まったく違ったからだ。
「ルーク。どうしよう」
きっと手紙の相手は女子生徒だと疑わなかったのに、手紙の相手は男子制服を着ていた。しかもビリーとルークのよく知る相手だ。
「兄さん、どうするの? 捕まえる?」
心なしか、ルークの声が震えている。
「まさか。捕まえることなんてできないだろ」
結局、男子生徒がビリーの靴箱の前から姿を消すまで、二人は動けなかった。
手紙の相手は物理研究クラブの新入部員である三年生の男子生徒だった。ビリーとルークからすると、新入部員とはいえ、自分達の先輩にあたる人。
中学生の縦割り社会は絶対だ。
スポーツ部ほどではないけれど、少なからず後輩は先輩に逆らえない風潮は、物理研究クラブでもあったので、手紙の相手が先輩だと知って声をかけるなど出来なかった。
「兄さん……どうするの?」
ビリーは何も言わなかった。
ただ、黙って困った顔をしていた。
きっと相手は女の子だと思っていただろうし、相手はビリーのよく知る相手だ。断るにもどう話を切り出してよいか悩むだろう。ルークは自分に置き換えてみても、きっとビリーと同じ反応しかできないだろうと考える。
「どうも出来ないよね……」
結局、その日はクラブに顔を出すのも躊躇われ、クリフォード兄弟は黙って帰宅した。
to be continued……