緊急で日本に一週間ばかり一時帰国した際に機内で観た映画は『Boyhood/ 6才のボクが、大人になるまで』(2014) と『C'mon C'mon/カモン カモン』(2021)。どちらも子供を主題としたアメリカ映画の割に静かな説得力がある作品だった。『Boyhood』の方は同じ俳優陣で数年置きに12年に渡って撮影された映画なので、主人公の男の子は最後の方では大学生になり、すっかり親目線で観てしまった。共演の有名俳優たち(パトリシア・アークエッドやイーサン・ホーク)もそれ相当に年齢を重ねていくし、原作者でもあるリチャード・リンクレイター監督ら制作陣の我慢強さに脱帽。一方、『C'mon C'mon』は数週間くらいの短い間、ニューヨークに住む伯父さん(ホワキン・フェニックス)がカリフォルニアに居る妹の子を預かる話。どちらも仕事ができるシングルマザーが周囲を巻き込みながらも、子供を育て上げるのだが、ある意味しなやかでありながら逞しくて、流石アメリカ女性は強いなあと感心した。『Boyhood』のあらすじは...

 

  メイソンJrと姉サマンサは12年間にわたって、母親オリビア(パトリシア・アークエッド)と荒れた生活を送っていた。メイソン・シニア(イーサン・ホーク)とは離婚。父親は週末一緒に過ごすときに、常にシンプルな生活を送るよう子供たちに勧める。メイソンJrは、アメリカ的人生の旅の中で、両親がそれぞれ他の人と再婚することを選んだときから、二人が元の鞘に収まることは決してないという現実に直面しなければならなかった。いかに状況がひどく、醜い真実に満ちている場合であっても、彼は自分のキャリアに焦点をあてて夢に向かって一歩一歩進んでいくのだった…(IMDbより翻訳)

 

 少しチャランポランではあるけれど、イーサン・ホーク演じる父親は離婚後もきちんと子供たちに向かい合い、時には励ましたりアドバイスしたりしながら親子関係を築いていて好感が持てる。ところが母は男を見る目がないのか、再婚する相手はどいつもこいつもアル中になってしまったり、子供たちを虐待したり。立派な家に住んで職業も大学教授という継父が碌でもない男であるという現実。オリビアがあまりにしっかりしているので、一緒に居ると男はダメになってしまうのかもしれないけれど…子供たちにとってはよほどメイソンパパの方が安定するのに、母とはうまく行かなかないという不条理を突きつけられ、人生が決して甘くないことを痛感させられる。ある意味サバイバル映画とも言えるかも。

 

 

『C'mon C'mon』のあらすじは...

 ジョニー(ホアキン・フェニックス)は感情的にはやや子供っぽく難があるけれど、穏やかな口調で話すラジオ・ジャーナリスト。アメリカ中を旅しながら、多くの子どもたちと彼らの世界や将来についてインタビューしている。ある日突然妹(ガビー・ホフマン)の子供ジェシーを預かることになったが、ジェシーはジョニーに新たな視点をもたらす。州から州へと移動していくジョニーの感情のあり方を効果的に変化させて行く。(IMDbより翻訳)

 
 『Boyhood』と比較すると『C'mon C'mon』はずっと優しい映画。そもそもジェシーを預けなければならなくなる原因は精神を病んだジェシーの父を入院+退院治療させることになって、妹ヴィヴは子供の世話まで手が回らなくなったから。ジェシーの父親とは離婚、あるいは少なくとも別居していたらしいのに。しかも、この状況の前に兄妹は高齢の母を看取っている。独り者で孤独なジョニーが突然子持ち状態になったときは戸惑うけれど、色々な事がありながらも次第に二人が愛情で繋がっていく様子は観ていて心地良い。敢えて白黒映画にしたことで、余計な情報を捨て、二人の関係に焦点が当てられたようだ。まるで別の国であるかのような、アメリカの二大都市(ロサンゼルスとニューヨーク)の比較も見られる。ジョニーの仕事の描写で使われるニューヨーク、ニューオリンズやデトロイトの子供たちへのインタビューがこの映画の宝でもある。マイク・ミルズ監督がきっと繊細な感性の持ち主なのだろう。