『The Strenger/ 異邦人』(2025)@Hackney Picturehouse
Hackney Picturehouseでアルベルト・カミュ原作、フランソワ・オゾン監督の『The Strenger/ 異邦人』(2025)を観た。若い頃に原作を読んだので、冒頭の「きょう、ママンが死んだ。」は覚えていたが、それに続く「もしかすると、昨日かも知れないが」はすっかり忘れていた。当時はフランス植民地というよりフランスの一部(海外県)だったアルジェリアは遠くの未知の国で頭の中で焦点が合わない感じだった。比較して今は、知り合いに当地出身者もいるし、いくつかの映画を通じてその歴史も昔よりは分かっている。実は昨年教えた学生の中にアルジェリア出身のアラブ系の子が居て(映画の中で殺された青年に顔が似ている)、アラブ人の立場から見たVernacular(土着)建築への愛着、及び宗主国フランスの建築家がもたらしたモダニズム建築に対する批判を鋭く描いたエッセイに舌を巻いたばかり。政治的にも文化的にも複雑な状況を端的に説明し、大学2年生でここまで書けるとは…と、これまで10年以上採点してきた学生たち中で最高点にした。また、映画では古くはジュリアン・デュヴィヴィエ監督ジャン・ギャバン主演の『望郷』(1937) あるいはミヒャエル・ハネケ監督による『Caché/隠された記憶』(2003)は植民地支配の暗黒面の一端を描いていて強烈な印象を持った。さて、『異邦人』のあらすじは… 1938年、アルジェ。30代前半の、物静かで目立たない会社員ムルソー(バンジャマン・ヴォワザン)は、涙一つ流さずに母親の葬儀に参列する。翌日、彼は同僚のマリー(レベッカ・マルダー)と気ままな関係を持ち始め、すぐにいつもの日常へと戻っていく。しかし、その平穏な日常は、隣人のレイモン・サンテスによって乱される。サンテスはムルソーを怪しげな取引に引き込み、ある灼熱の日のこと、浜辺で悲劇的な事件が起きる。(ベニスビエンナーレのサイトより) 最近知り合ったベトナム出身の知人に「私の名前って、らしくないでしょう?フランスの植民地だった頃の名残」と言われ、「そうね」とも言えず返答に困った。宗主国の言語を強要される植民地では良くあることだけれど。実は原作ではレイモンの情婦も彼女の弟も「アラブ人」と呼ばれるだけで、名前さえ出て来ない。そして、弟はまるで虫けらのように殺されてしまう。しかし、今回の映画では二人の名前もあるし、弟の墓も出てくる。時代の要請による若干の補正はかかっている。でも恐らく常態化していたであろう、「先住民(Indeginous)お断り」の注意書きやら、フランス人しか居ない海水浴場などは史実に沿った描写かも。オゾン監督はアラブ人をみる西欧の視線が現在でもさほど変化がないことをこの映画に投影したかったのだろうか? 全編白黒映画なので、陽の光の強さと乾いた土が強調されている。俳優たちもまるで20世紀前半のフランス映画に出てきそうな顔立ちだし。特に主演のバンジャマン・ヴォワザンは細面で仏名優ジェラール・フィリップを彷彿とさせる。彼らの演技とアルジェの街やアパートの描写は見るべきところがあるのだが、主人公のムルソーが内面をほとんど見せない人なので、全般的に突き放されて、観客も置いてきぼりになる印象。もう少し編集等で上手く対応できていたら良かったのに…Biennale Cinema 2025 | L’étranger (The Stranger)Director François Ozon Main Cast Benjamin Voisin, Rebecca Marder, Pierre Lottin, Denis Lavant, Swann Arlaud / France / 120’www.labiennale.org日本語版の予告編がまだ見当たらないので、英語版 Rotten Tomatoから