デヴィッド・クローネンバーグ監督の『イースタン・プロミス/Eastern Promises』をBBC iPlayerで観た。監督お気に入りのヴィゴ・モーテンセンがロシアンマフィアを演じていて、彼のロシア語とロシア訛り英語は完璧だったとか。言語耳が良くない私にはその違いは分からないけれど、例えば中国語ネイティブの話によると、同じ北京語でも台湾訛り、香港訛り、マレーシア訛り各々異なるので俳優さんたちが自分のそれと違う訛りを使おうとすると、得てして何を言っているかさえ分からなくなってしまうとか。しかも、この映画でのモーテンセンは後の名作『グリーンブック』(2018)とは違って肥ってないし、ニヒルでクールなギャング役がめちゃくちゃカッコいい。彼がブレイクしたときの『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルン役よりこざっぱりしてるし。さて、そのあらすじは…

 

 ロンドンで、妊娠中のロシア人10代のタチアナが出血しながら病院に到着し、赤ちゃんだけが助かった。ロシア系助産師のアンナ・キトロワ(ナオミ・ワッツ)は、所持品の中にロシア語で書かれたタチアナの日記を見つけ、家族を探して赤ちゃんを引き渡すため、日記を家に持ち帰り、元KGBの叔父ステパンに文書の翻訳を頼む。だがステパンに拒否されたアンナは日記の中にロシア人経営者セミョン(アーミン・ミューラー=スタール)レストランカードを見つけ、タチアナの家族に連絡する手がかりを見つけようとレストランを訪ねる。彼女が日記の存在に言及すると、セミョンはすぐにその翻訳を申し出る。しかし、叔父のステパンは日記の一部を翻訳した結果、アンナはセミョンと息子のキリル(ヴァンサン・カッセル)が14歳のタチアナをレイプし、売春宿で売春婦として働かせていたことを発見。一方、運転手として雇われたニコライ・ルージン(ヴィゴ・モーテンセン)は組織の中でその地位をあげつつあったが、何故かアンナを助けてくれるのだった…
 
  暗くて雨の多いロンドンが忠実に描かれている映画。ネタバレになるが、セミョンがレストランのオーナーは表の顔で実は、ロシアンマフィアの親玉という話。でも東京と違って実際ロンドンにはロシア料理のレストランはとても少ない。ロシア人の友人に訊いてもせいぜい2、3軒で行ってみたところいずれも映画にでてくるような高級感のあるレストランではなかった。しかもコロナ禍でほとんど潰れてしまった。実際はロシアンマフィアが経営しているのはもっと違う種類の業種なのかも。映画の中に出てくるマフィアthe vory v zakone (Thief in law)は実在する旧ソ連の東側で国家をまたがる大組織。入れ墨の意味が重要なことは映画でも描かれている。IMDbのトリビアによれば、モーテンセンが入れ墨付きで衣装のままパブに入ったとき、彼の入れ墨を見た他の客は本物だと思い込んでとても怖がっていたらしい。また、全裸のニコライがトルコ人暗殺者に殺されかかるのはサウナではなく、ターキッシュ・バスつまり所謂本物の「トルコ風呂」で、ロンドンには数多く存在する。普通のスパにもこのターキッシュ・バスは組み込まれているが、体温より少し高めくらいで蒸気も多くはないので、ジンワリ温まる程度。この映画を紹介する日本のウェブサイトで間違っているものが多かったので、気になった。クローネンバーグの映画にしては死体などは出てくるけれどグロテスクさが少なめで、社会派映画なので楽しめる。「イースタン・プロミス」の意味は東ヨーロッパの少女が約束された幸せを求めて西側にきたのにこんな目に…ということらしい。

 

日本語版予告編

 

日本語版は解像度が低いので英語版の予告編