A-5 COVID-145 CODE Name RYUGU
海洋学者椎名助教は、日本海溝で捕獲したリュウグウノツカイから新たなウィルスを発見していた。
「部長。やはり、このウイルスのせいでした、ほかの生物が死滅したのは。」
「どのような機作で他の生物を死滅させたのかは確認できたのか?」
「シナプスのみを破壊する、そんな性質を持っています。その感染力は激しく、共生させていた海洋生物は動物性プランクトンに至るまでたった1週間で。」
「そうか、それだけのデータを見せれば、あのお堅いNWHOも新型と認定するしかなかったのだろう。DNAの分析はもちろん行っているのかな?」
「もちろんです。このデータです。部長。この配列不思議じゃないですか?」
「これじゃ、寄生された神経細胞は破壊されるしかないな。しかし、これだけのダメージを受けているDNA配列は自然界ではありえないのだが?」
「部長、あの海域に原子力潜水艦が沈められているという噂をご存じですか?」
「1世紀くらい前の日本の原潜の初期型が破壊処理されてという、数年前の公文書暴露事件での話だろ。その時の影響だっていうのかい。でも、ほんの微量・・・いや。」
「微量というのは生物にとってであって、ウイルスにとっては大きな変革の可能性は否定できません。」
「椎名君。このことは、内閣にも連絡した方がいいぞ。今はあの海域の僅かな生物たちへの影響かもしれないが、いつ地上の脅威となるかもしれない。」
「わかりました。全データを内閣に報告致します。」
「それがいい。しかし、リュウグウノツカイとは共生ができているのは何故だろうか?リュウグウノツカイは植物プランクトンだけで生きていけるという事か?」
「部長。でも、動物が居ての植物。連鎖の頂点であっても死滅の道しかないと思われます。」
「まずは、この事実を全世界に公表しなければ。」
しかし、この二人のレポートが日の目を見ることはなかった。
B-5 この世界の海よ
KOTA 「AMUは海が好きだよね。いつもこの場所に座っている。」
AMU 「KOTAも好きでしょ。だってこの星のほとんどが海なんだから。」
KOTA 「もう少し暖かければ、泳げるし。僕も好きだよ。」
AMU 「いつも思うんだけど、何故この星には春夏秋冬があるの?夏だけでいいのに。」
KOTA 「僕らは子どもも頃はそれが不思議だったけど、そんなものかなって思ってたりして。」
AMU 「そうでしょ。この星の事を知れば知るほど、季節の必要性がわからなくなるの。」
KOTA 「でも、おやじたちからは、それがこの星には必要なことって言ってたよね。」
AMU 「KOTAにはその意味が分かったの?」
KOTA 「僕らの遺伝子にはとても必要なことらしい。特に、季節の変化は神経細胞の活性化にね。」
A-6 終焉の狼煙
椎名は既に、教育界から身を引き、悠々自適の生活をしていたが、その画面に驚愕の表情を浮かべ両の腕で胸をおさえていた。
妻の希美は、
「あなたどうしたの?心筋梗塞の発作がまた出たの?」
「いや、十数年前に先輩と心配していたことが、現実となったんだ。リュウグウノツカイがやって来たんだ。」
希美はその話を何度も聞かされていたが、それは、弱小大学の研究者のありがちな、たわごとと思っていたのだった。
「あなたと、部長さんが言っていたことが本当に現実となるの?それはあの最悪のシナリオなの?」
「とうとう。リュウグウノツカイがこの動物世界の頂点となり、終焉を伝えにやって来たんだ。」
椎名の予測通り、リュウグウノツカイが大量に水揚げされた北欧の海洋都市から悲劇が始まった。
B-6 引き続くもの
AMU 「でも、海はいいわよね。潮騒に包まれているだけで落ち着くの。」
KOTA 「僕らは海の成分でできているから、それは当然なことだ。」
AMU 「私たちの血液と同様、この星の血液がこの海、でしょ。ママがいつも言ってたわ。」
KOTA 「でも、これだけの海を僕らだけというのが凄いよな。たった二人だけのものというのは。」
AMU 「この星を維持するため、そして私たちの遺伝子を保存するためにはこの人数でなければいけない。そうお父様が言っていた。」
KOTA 「まだ僕らの道は2000年も残されている。と言われても実感がわかないよ。」
AMU 「私たちは時代の流れの一部。生きていくこの時間を大切にしなさいって、こと?」
KOTA 「44年間、長いのか短いのか?貴重な時間だからね。」
AMU 「でも、これだけの物を作った方々、本当にすごい。それも私たちだけのために。」
KOTA 「本物の星の事はわからないけど、故郷の星を再現しているらしいよ。」
AMU 「私たちは見ることができないけれども、同じ遺伝子の私たちが、きっと見ることができる。」
KOTA 「この星の者たちの記憶も断片ながら蓄積させているようだから、僕たちの記憶もその星に到達するんだろうな。」
AMU 「とても、すごい事ね。」
KOTA 「だから僕たちはこの命を燃やし続けなければいけないんだ。」
AMU 「私たちだけの時間はあと、10年ちょっと。子どもたちが生まれる前に、引き継ぐことを覚えていかないといけないのね。」
KOTA 「僕らが親になる。考えたことはなかったけど、おやじたちがこの世を去った今、責任を感じるよ。それが運命であっても。」
まだこの星の旅路は三分の一でしかない。
<つづく>