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アルフレッド・ニーア


さまようブログ  The National Academies Press より

アルフレッド・オットー・カール・ニーア(Alfred Otto Carl Nier)、1911-1994、アメリカ

同位体質量分析装置の父


 これまで列伝で登場した科学者たちは一般の人にもかなりの知名度があると思いますが、このあたりから、まず名前を知られていないだろう科学者たちが続くことになります。過去形の科学ではなく現在進行形の科学になってくることを意味するのかもしれません。科学が細分化・分業化してきて周りからは分かりにくくなってきたことを示すのかもしれません。


 ミランコビッチの項 でも少し触れましたが、気候変動研究のためには過去の気候を理解する必要があります。20世紀前半には年輪年代法花粉分析法 が確立していましたが、過去数万年などにさかのぼって分析するのは困難だったり、漠然とした気候しか分からなかったりする問題がありました(ただし、小気候の再現や植生など気候以外のことも含めた再現が可能なので、現在でも幅広く使われています)。

 これらの問題を解決するために、現在では同位体比を用いた古気候の再現法が開発されています。これまでにも何度か出てきている過去の気温変化を示す図は、同位体比を用いた分析なしには作れません。同位体比分析というツールを持つことによってはじめて、過去数億年におよぶ気候変化を論じることが可能になったのです。

 ではいったい同位体とは、同位体比とは何か、そこから説明してみます。


○同じ原子であっても質量は異なる物があり、これを同位体と呼ぶ。

 例えば炭素原子を考えます。炭素は原子量12と高校で学びますが、実は原子量13、原子量14といった炭素も存在していて、これらを同位体と呼びます。

 同位体は原子量が違うだけで、化学的性質はほとんど同じと言ってもいいものです。例えば、普通のガソリンと原子量13の炭素を多く含むガソリンの間にはほとんど化学的性質の差はありません。

 なお、同位体の質量を表す場合、元素記号の左肩部分にその質量数を書くことになっています。質量数12の炭素なら12C、13の炭素なら13Cと表記します。

○試料に含まれる元素の同位体の割合を同位体比と呼ぶ。

 炭素の例で考えると、自然界に存在する炭素は、12Cが約98.9%、13Cが約1.1%です(14Cは極微量しか含まれていません)。この12Cと13Cの存在比を同位体比と呼びます1)。この割合を決定するために開発されたのが同位体質量分析装置です。

 分析の原理自体は単純なものです。

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図1:ニーアが開発した同位体質量分析装置の概念図。Sustainability of semi-Arid Hydrology and Riparian Areas HP より。

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 イオン源(ion source)で試料をイオン化して飛ばします。その先には強力な磁石(magnet)が置かれていて、イオン化した試料に磁場がかかります。

 さて、同位体の場合、化学的性質はほぼ同一だが質量には差がある、と書きました。ちょっとイメージしてほしいのですが、重い鉄球と軽い鉄球を同じ速度で転がし、その途中に磁石を置いたとしたらどうなるでしょうか?


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図2:磁石のあるところに重さの違う鉄球を同じ速度で転がしたと考えると・・・

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 大雑把な図ですが、軽い鉄球は大きく曲がり、重い鉄球はあまり曲がらないことが予想できます。これと全く同じで、イオンを磁場に通すと、軽いイオンは大きく曲がり重いイオンはあまり曲がらないことになります。

 磁石の強さは比較的容易にコントロールできます。ということは、強度を調整した磁石を設置し、イオンが飛んでいく先に検出器(detection)を設置しておけば、飛んでくるイオンの量を分析できることになります。たとえば炭素なら、質量数12と質量数13のイオンの飛行経路の先に検出器を設置すれば、その量が分析できることになります。2)

 ニーアはこの質量分析装置を同位体質量分析用に改良し、誤差がわずか0.01%という極めて高性能な装置を開発しました。1930年代にはアルゴンやカリウムなどの同位体比を決定することに成功します。そして1938年、炭素の同位体比の分析に成功しました。これが、古気候の再現の上で決定的な役割を果たすことになり、後に続く科学者たちが次々と重大な発見を成し遂げていく契機となります。3)

 

 ところで、ニーアの技術は、軍事的に極めて重要な意義を持っていました。ウランにも同位体が存在します。このうち238Uは自然界に最も多く存在し比較的安定なのですが、235Uは容易に核分裂を起こし原子爆弾の材料として利用できます。同位体分析により235Uを分離・分析できる技術は、核兵器開発に応用されたのです。ニーアが喜んで協力したのか、やむを得ず協力させられたのかは分かりません。しかし、ニーアが235Uと238Uの分離回収に成功した(1940年)ことが後のマンハッタン計画への道を開くものであったのも、やはり忘れてはならないことだと思います。 




1) この説明は相当に簡略しています。興味のある方は、既に紹介しているチェンジング・ブルーP37をご覧ください。また、帝京大薬学部の方のページ (公式ページではないようです)も分かりやすいと思います。

2)この原理自体は、同位体質量分析に限らず通常の質量分析でも用いられており、この原理の発明者はニーアではなくアストン に帰せられると思います。アストンは質量分析装置の開発の業績によりノーベル賞も受賞しています。

3)古気候に関する発見については今後書いていこうと思いますが、例えば、同位体質量分析により地球の年齢は45億年±1億年程度だろうと算出されました(1944年)。これは現在知られている約46億年という値と非常に近いものです。

二酸化硫黄

 二酸化硫黄(SO2) といえば「ワインの酸化防止剤」と真っ先に思い浮かぶ私は酒飲みです。


 SO2は石油や石炭の燃焼によって大気に放出されていて、光化学スモッグや酸性雨の原因になります。ですので、その排出には規制がかけられていますが、船から出るSO2についても規制されることになりました。

 http://www.newscientist.com/article/mg20527522.500-polluting-ships-have-been-doing-the-climate-a-favour.html

 船の燃料は多くの場合重油です。重油はガソリンや軽油に比べ硫黄を多く含むため(船の燃料の重油には4.5%の硫黄が含まれますがガソリンには0.001%しか含まれていません)発生するSO2の量も多くなります。これまで規制されていなかったのがおかしいことだったのかもしれません。


 ところが、こと地球温暖化の観点からは、SO2は、ある意味「よいはたらき」をしています。SO2は地表付近の温度を冷却する方向に働いているのです。


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図1 1750年時と比較した各種気体の放射強制力の変化。このうちSO2の放射強制力への寄与は約-0.4W/m^2と見積もられ、地表付近を冷却する方向に働いてきた。IPCC AR4 WG1 fig.2.21参照。

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 今回の規制により、船から排出されるSO2が減少します。これにより、今まで温暖化を鈍化させる方向に働いていたSO2が減少し、温暖化が加速される可能性がある、とのことですから皮肉なものです。


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図2 上図:船から排出される排気ガスが現在と同じと仮定した場合の気温への寄与、下図:同じくSO2を規制した場合の気温への寄与

 緑の線がSO2の気温への寄与を示し、太い青線が全てのガスの影響を考慮した場合の気温変化予想。排気ガスが現状と同じ組成であれば、実は船から排出される排気ガスはむしろ気温を下げる方向に働く。一方、SO2を規制した場合、70年後には逆転し気温を上げる方向に働くようになる。

DOI: 10.1021/es901944r より。

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 ではどうするか、SO2を今までどおり排出させるほうがいいのかというと、当然そんなわけはありません。酸性雨も光化学スモッグも重要な問題であって、これらを無視してまでSO2を排出できるはずはありません。以前、オゾンホールが南極の温暖化を抑制しているという記事 を紹介しましたが、それと同じで、「温暖化につながるから別の環境破壊を認めていい」という話にはなりません。

 おそらく唯一の方法は、船舶の航行時に排出されるSO2の削減と同時にCO2の削減も実施することだろう、とnew scientistではまとめられています。容易なことではありませんが・・・。

鉄をばらまけ!?2

以前、「鉄をばらまけ!? 」という記事を書きました。その際、

○鉄散布実験では、増加したプランクトンは特定の種類に限られました。特定のプランクトンばかり増えるのは、かえって生態系の混乱をもたらします。一歩間違えると赤潮・青潮と同様のことになりかねません。

○二酸化炭素固定の観点からは、二酸化炭素を吸収した植物プランクトンが海底に沈降しないといけません。しかし、実際に測定してみると、鉄散布でプランクトンが増加しても沈降量の増加は見られないという報告があります(海と環境 、日本海洋学会)。プランクトンが増えるとそれを餌にする動物が増え、またそれを餌にする動物が増え・・・と、海面近くでの循環が加速するだけで固定にならないのではないかと考えられます。そのあたり、硬い木質を作り炭素を固定できる陸上植物とは違います。


 と、問題点を挙げました。今回、新たな問題点が浮上したようです。

○鉄を散布した際に有毒の珪藻が大量発生する(doi:10.1073/pnas.0910579107)

 珪藻が大量発生するという意味では、前述した赤潮・青潮と同じと言えば同じですが。

 今回報告された、鉄散布実験により発生した珪藻はPseudo-nitzschia という属に分類されるようです。この仲間は、ドウモイ酸という物質を生産します。




さまようブログ ドウモイ酸

 
 ドウモイ酸は貝毒 の原因物質の一つです。ドウモイ酸を生産するプランクトンを貝が食べ、それを人間が食べることにより、中毒症状を引き起こします。実際に鉄散布実験後の海水を分析すると、珪藻個体数の増加だけでなく、海水中のドウモイ酸濃度も確かに増加していたようです。

 これをもって「鉄散布は使えない」という結論にはなりませんが(増加といっても直ちに人体等に影響があるほどではない)、懸念すべき要素が増えたことは間違いありません。もし大々的に鉄散布を実施するなら、有毒物質の増加も考慮する必要がある、という段階だと思います。

2010年2月の気温



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 気象庁によると、2010年2月の世界平均気温は、1971~2000年までの30年平均気温に対し+0.33℃でした。これは観測史上第7位の高温にあたります。寒波が北半球中緯度を襲うニュースは2月に入っても多かったのですが、やはり全球平均では暖かい2月だったと言えるでしょう。


 ところで、イギリスの気象庁の予想では、「エルニーニョ現象の突然の終わりなどない限り、2010年は観測史上最も暑い年となる可能性が高い」とされていました。

http://www.metoffice.gov.uk/corporate/pressoffice/2009/pr20091210b.html

環境問題補完計画さんでも紹介されています。

http://blogs.yahoo.co.jp/eng_cam_fld_tgs/38956345.html

 その後、エルニーニョ現象は、どうもこの春に終息しそう、との予想が出ました。

http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html

 どのような推移を辿るか要注意です。

春の雨

 陽気に誘われて諏訪崎 というところを歩いてきました。「森林浴の森100選」に選ばれている、海に突き出た小さな岬です。雨の後の森は、散歩するのにもってこい。人の手の入らない鬱蒼とした森ではなく、ここのように人の手の入った森なら。

 携帯で撮影した写真なので画質悪いです。デジカメ持っていくべきだった・・・


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 もう桜が咲いています。ソメイヨシノではなくオオシマザクラ ですが。もとからソメイヨシノよりは早く咲きますが、それでもここまで早いのは記憶にないです。


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ツツジ。

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アセビ 。すっかり春です。


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OK。気をつけよう。


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 怪しげなキノコ発見。名前不明。

 私もいちおう科学で生計を立てる身ですので、草木禽獣に詳しくありたいとは思うのです。そうでないと片手落ちではないか、と自問してしまう私は、古いタイプの人間でしょうか?こういうキノコの名前でもすっと出てくるようになりたいです。


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 ジブリっぽい木


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 だいぶ岬の先端に近づいてきました。ヤブツバキ の花が地に落ちて、何やら妖しい雰囲気です。

 四国の海岸沿いは、ヤブツバキやウバメガシに代表される照葉樹を基本とする植生です。その名もずばり「ヤブツバキクラス 」と称されます。


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 激しい浸食を受け垂直にそそり立つ崖。この日は曇りでしたが、それでも海が青いです。

 このあたりは、緑色片岩 という青緑色の石で構成される岩盤を持ちます。それが砕けて砂礫浜を作ると、このようになんともいえない「青緑」を生み出します。
 青緑といえば、のだめカンタービレの黒木くんの色。フランス語で根暗・陰湿を意味する色です。ネガティブです・・・


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 岬の先端です。天気がよければ鮮やかな青が見られるのですが。


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 というわけで、別の日に撮った「鮮やかな青」の写真を。

 中央やや左の島は佐島 という島で、かつては銅の精錬所がありました。画面奥、横方向に伸びているのが佐田岬半島 。今は風力発電の風車 が数十機も回っています(天気がよければ見えるのですが)。 

 

 

 さんぽはいいですね。


 年寄りみたいとか言わないで。