鉄をばらまけ!?2 | さまようブログ

鉄をばらまけ!?2

以前、「鉄をばらまけ!? 」という記事を書きました。その際、

○鉄散布実験では、増加したプランクトンは特定の種類に限られました。特定のプランクトンばかり増えるのは、かえって生態系の混乱をもたらします。一歩間違えると赤潮・青潮と同様のことになりかねません。

○二酸化炭素固定の観点からは、二酸化炭素を吸収した植物プランクトンが海底に沈降しないといけません。しかし、実際に測定してみると、鉄散布でプランクトンが増加しても沈降量の増加は見られないという報告があります(海と環境 、日本海洋学会)。プランクトンが増えるとそれを餌にする動物が増え、またそれを餌にする動物が増え・・・と、海面近くでの循環が加速するだけで固定にならないのではないかと考えられます。そのあたり、硬い木質を作り炭素を固定できる陸上植物とは違います。


 と、問題点を挙げました。今回、新たな問題点が浮上したようです。

○鉄を散布した際に有毒の珪藻が大量発生する(doi:10.1073/pnas.0910579107)

 珪藻が大量発生するという意味では、前述した赤潮・青潮と同じと言えば同じですが。

 今回報告された、鉄散布実験により発生した珪藻はPseudo-nitzschia という属に分類されるようです。この仲間は、ドウモイ酸という物質を生産します。




さまようブログ ドウモイ酸

 
 ドウモイ酸は貝毒 の原因物質の一つです。ドウモイ酸を生産するプランクトンを貝が食べ、それを人間が食べることにより、中毒症状を引き起こします。実際に鉄散布実験後の海水を分析すると、珪藻個体数の増加だけでなく、海水中のドウモイ酸濃度も確かに増加していたようです。

 これをもって「鉄散布は使えない」という結論にはなりませんが(増加といっても直ちに人体等に影響があるほどではない)、懸念すべき要素が増えたことは間違いありません。もし大々的に鉄散布を実施するなら、有毒物質の増加も考慮する必要がある、という段階だと思います。