単語の意味や語感が争点になる場合、その単語の用例が問題になります。

 「うけばる」=① 他人に遠慮せずにふるまう ② でしゃばる。自信を持ってふるまう

 この語を含む「うけばりて飽かぬことなし」が、光源氏の慕う藤壺宮の所作として果たして妥当かどうかということですが、この語「うけばる」が他の用例でどう使われているかも検討しなくてはなりません。


 以前は、こういった語の用例は、探すことから始めなければなりませんでしたが、今は、索引とか総索引という名で、すぐ探すことが出来ます。


 「うけばる」の用例は、「新 日本古典文学大系 源氏物語索引」によると、先の「桐壺」の例を除けば、15例あります。


 そこで、その用例に当たりました。その結果の報告です。


 男性が「うけばる」のは問題にはなりません。語感から、意味も含めて、男性なら当たり前の語でしょう。

 全15例のうち、12例が光源氏他の男性の動作に関するものでした。そして、女性に関するものとして、


1 (空蝉は)うけばりたるさまにはあらず、かごやかに局住みにしなして(初音)

  【口訳】(空蝉は)我こそはと主人顔をするでもなく、ひっそりと部屋住みのような  体で、

 

 2 (明石の女御は)心の中には、わが身は、げにうけばりていみじかるべき際にはあらざりけるを、(若菜上)

  【口訳】(明石の御方は)お心の中では、いかにも自分は大きな顔をして高い地位にいられるような身分でありえなかったのに、


 3 (明石の君の)憎らかにもうけばらぬなどをほめぬ人なし。

  【口訳】(明石の君の)憎らしくわが物顔にふるまったりすることがないのを、ほめたたえぬ人はいない。


 以上3例が女性について述べた「うけばる」ですが、すべて、否定の形で示されています。すなわち、「うけばる」という動作は、選ばれた女性は行わないというのが『源氏物語』の用例ではないでしょうか。


 この検討は、紙数の都合で『「無理題」こそ「難題」』に加えることが出来ませんでしたが、今ここに書いておきます。あの「うけばりて飽かぬことなし」は「藤壺宮」のことでなく「帝」のことではないかと。


 この検討が正しいかどうか、第一章「例八」の説明も加えて、是非、これをお読みの皆様のご意見をお聞かせ願いたいと思っています。