この度、日本鉄鋼協会の論文誌「鉄と鋼」2023年1月号に掲載された論文が

俵論文賞を受賞しました。

「たたら製鉄では、これまで不純物と思われていた砂鉄中の酸化チタンが

ズク生成に関与している」という結論です。

10年以上前に実験は済んでいましたが、3度目の挑戦でようやく受理されました。

論文になるまで時間が掛かり過ぎてしまい、かなり草臥れました。

この論文がもう少しすんなり受理されていたら、あと1~2報提出できていたと思います。

研究機関に所属していない一介の職人が、定説を覆す論文を世に出すのは難しいと

痛感しました。

私が足踏みしている間に、海外の研究者に先を越されるのではないかと心配していました。

新井宏先生が助けてくれなければ、この論文は日の目を見ることはなかったと思います。

たたら製鉄の謎(ズク押しにおけるTiO2の役割)について、日本から発信できて良かったです!

 

タイムスリップして俵國一博士とお話しする機会があれば、酒を酌み交わしながら

たたら製鉄や日本刀の映りの原理についていくらでも話が出来ると思います。

 

受賞理由は以下の通り

 

 

もっと詳しく勉強したい方は、新井宏先生の

 

金属を通して歴史を観る

34.含Ti砂鉄の「たたら製錬研究」の画期

 

をネットで検索してお読みください。

難しいですが読みごたえがあります!

 

 

庭のつわぶきもそろそろ終わりです。

 

ご無沙汰しています。

前回の書き込みから一年以上経ってしまいました。

 

今日は国産磁鉄鉱で作った直刀の話題です。

これは、今年の日刀保に出品した直刀です。

 

9年近く前、群馬県産の磁鉄鉱を入手しました。

破砕後磁力選鉱し小型たたら炉で鉧(鋼)にしました。

何を作るべきかかなり長い間悩んでいましたが、群馬県と言えば

古墳が多く、直刀や蕨手刀などの上古刀が数多く出土していますので、

最終的に、直刀を製作することにしました。

実験考古学的にも、国産磁鉄鉱による直刀の再現は意味があると考えました。

 

鍛接性も非常によく、ペタペタとくっ付く感じでした。

地鉄も味わいがあり刃も冴えていました。

鎬地の地鉄を見て貰うために、鎬地は磨かずに仕上げて貰いました。

 

国産磁鉄鉱による刀剣制作は、かなり貴重な事例とのことで、

ある鉄の考古学者からは報告書をまとめるように勧められました。

たたらのスラグは採取してあるはずですが、残念ながら鍛錬滓は

捨ててしまいました。

 

国産磁鉄鉱は埋蔵量も少なく、品質にも問題がある場合が多いです。

国産磁鉄鉱で刀剣を作る機会はもうないかもしれません。

貴重な直刀です。

 

 

 

先日、広島県庄原市の国営備北丘陵公園でたたら製鉄イベントがありました。今回はレンガ炉と粘土製炉2基で操業しました。

コロナも落ち着いて来たので、福山の高校生が大勢参加しており賑やかでした。

島根県からは、日刀保たたらの木原村下や村下代行の堀尾さん達が指導に来ていました。堀尾さんは私の一番弟子で、刀匠資格も持っています。


たたらは昨年、NHKのドキュメンタリー番組で何度も放送され、かなり話題になりましたが、二十代の若い後継者がいないと堀尾さんが嘆いていました。

奥出雲に移り住んでたたら製鉄に従事したい方はいませんか?

たたら操業の厳しさだけでなく、寒さと雪に耐える根性も要りますが、、、



ご無沙汰しています。

気が付けばもう2年も書き込んでいませんでした。


早いもので、スイス人の弟子も修業5年目に入りました。

今月末には文化庁の研修会に参加し、

無事修了証書を貰えたら、来春には刀鍛冶になれます。

平成以降初の外国籍の刀鍛冶になる予定です。

昨年末にはスイスのニュース番組に出て、フランス語圏でかなり話題になり、取材予定も幾つか入っています。

イケメンの刀鍛冶ですので、日本でもきっと話題になるでしょう。

日本人が日本刀製作技術の凄さを気付くきっかけになればと期待しています。


今日は山陰のマッターホーンと呼ばれている烏ヶ山(からすがさん)に登ってきました。
登山口までは自宅から車で1時間40分。烏ヶ山の様相は、普段見慣れている中国山地の山々とは全く異なり、まるで北アルプスの様でした。こんな近場に北アルプスの様な険しい山がある事にとても驚きました。
登山道も山頂付近は岩場が続き、見下ろすと周りは断崖絶壁で怖いぐらいでした。
久しぶりの登山だったので、下りは脚が笑ってしまい、運動不足を痛感しました。

普段からこまめに運動しなくてはいけないと反省しました。
くたびれましたが、いい気分転換になりました。
雪を冠った大山は素晴らしかったです。

 

 

登山道から見上げた烏ヶ山

 

なんと雪渓がありました。

 

烏ヶ山から見た大山。

雪を冠した大山は見事でした。

 

自動車での帰りに振り返った大山と烏ヶ山。

左が大山で右が烏ヶ山です。

 

しょうじょうばかま

 

何で「マッターホルン」じゃないねん!と思った方も多いと思いますが、

今年で修業3年目になるスイス人の弟子・ジョハン君に言わせると

「マッターホルン」ではなく「マッタ―ホーン」だそうです。

 


 


やんごとなき理由で13日に上京しました。
用事は翌日済んだので、今日は久しぶりに東博へ名刀を見に行ってきました。
安綱や正恒など国宝の名刀がありましたが、私は重要文化財の景光の太刀に

魅せられてしまいました。

美しい姿に映りが輝き冴え冴えとした地鉄、品のある直刃調の刃文。

気品あふれる名刀でした。
昨年、大般若に挑戦しましたが、重華丁字の高い焼き刃に乱れ映りを絡める事は

技術的に困難でした。まだまだ研究しなくてはいけません。
今日見た景光は今の技術を駆使すれば上手く纏められると思います。
やってみたいと思いました。

 

皆様お久しぶりです。

もうブログを辞めてしまったと思った方もいるかもしれませんね!?

昨秋から、大般若長光再現プロジェクトなるものが始まり、寸暇を惜しんで

取り組んでいました。プロジェクトは終了したのですが、それ以来何となく

ブログが疎かになっておりました。

今日は天気も良かったので、お気に入りの山間コースを久しぶりに

電動アシスト自転車で走り回りました。

花粉が飛ばなく新緑のきれいなこの時期はとても気持ちがいいです。

 

 

さて今日は、兄弟子の故吉原義一刀匠のクラウドファンディングのご紹介です。

無鑑査・吉原義一刀匠は3年前、病気のため51歳の若さで亡くなられました。

現在、義一刀匠の友人である田中慶幸氏がドキュメンタリー番組「一期一会」を制作中です。

田中氏いわく、クラウドを使うのは資金面を支援して欲しいだけでなく、

義一刀匠について多くの人に知って貰いたいから、との事。

まだまだ目標額には届いていません。

興味のある方はクラウドファンディングCAMPFIREで

若き天才と呼ばれた男「刀匠・吉原義一」を検索してみてください。

宜しくお願いします。

 

珍しく、今日2回目の書き込みです。

仕事をしていない訳ではなく、先ほどの書き込みの後、

ちゃんと太刀を火造りました。

先ほど、森繁久彌翁のお守り短刀を紹介しましたが、昨年の

無鑑査出品の脇差の写真もありましたので、紹介させてもらいます。

 

元の方はこんな感じです。

鮮明な映りが見えます。

 

先はこんな感じです。

切先の刃文も、まとまりました。

焼刃土(粘土)を塗らずに、火加減だけで刃文を作り出すこの焼き入れ方法は

部分的に面白い刃文を焼くことは容易ですが、裏表、元から先まで、まとまりのある

刃文を焼くのは非常に困難です。

気に入らずに何度も焼き直している内に、大抵、刃切れが出来てお釈迦様になります。

 

この焼き入れ方法は、焼刃土では描くことのできない複雑な刃文を

焼くことができ、しかも鮮明な映りを出すことができるので、夢中に

なりがちですが、あまりにも製品歩留まりが悪いので、私は、年間5振り

程度しか挑戦しない事に決めています。

それで出来ない時は、その年は諦める事にしています。

深追いするとボツの山を築きかねないからです。

弟子たちにも、焼刃土で丁子を焼けるようになってから取り組むように

指導しています。

 

備前長船刀剣博物館で「山鳥毛」展が始まりました。

上杉家御手選三十五腰の一つであるこの太刀は、重華丁子の刃文が特徴で、

日本刀中、最も華やかな刀として知られています。

これまでも、岡山県立博物館で何度も見る機会はありましたが、

この度の長船博物館での展示は、コロナの影響で入場制限もあり、

キャンセル待ちの状態だそうです。

 

写真は昨年秋の特別展で撮影しました。

誰もいない会場で(正確には、警備員が私のそばにずっといましたが、、、)

30分間、山鳥毛と対面しました。今思うと、贅沢な時間でした。

 

山鳥毛の焼き入れ方法は、防府の故杉田刀匠が取り組んだ「裸焼き入れ法

(焼き刃土を塗らない方法)」ですが、これを焼き刃土を駆使して完成させたのが

同じ吉原一門の先輩・大野義光刀匠です。

 

裸焼き入れで太刀をまとめるのは至難の業ですが、短刀や脇差など短めの物なら

少しは成功率が高くなります。と言っても、裸焼き入れは、刃切れ(焼き割れ)が

起き易いので、作品になる確率は2~3割程度です。

 

せっかくですので、私の裸焼き入れの短刀を紹介しましょう。

拡大すると、樋の上の方に、鮮明な乱れ映りが見えます。

普段見る事の出来ない裏面も紹介します。

この短刀は、長野県坂城町鉄の展示館で今日から始まった

「お守り刀特別展~願いを込めて~」に出品していますので、

お近くの方は是非会場に足をお運びください。

 

ちなみに、この短刀は、俳優の森繁久彌さんのお守り刀で、

展示会のために特別にお借りしました。

 

山鳥毛の太刀は鎌倉時代から800年以上の歳月を経て今日に

伝えられてきました。鎬にかかる程の高い刃文は実用面からは危険です。

正直、私はこの太刀を戦場に持って行こうとは思いませんが、歴史上の

武将たちはこの美しい太刀を大事にしてきました。

私は美しさを追求して日本刀を製作していますが、美術品としての

日本刀のあり方に否定的な一部の武道家(居合道や抜刀道)がいます。

美しさを追求すると言っても、不純物の少ない鋼を造り鍛え、焼き入れを

適正にすることを常に心がけており、実用についても考慮しています。


日本刀の魅力は切れ味(機能)だけではありません。切れ味を要求するのは

結構ですが、美しさを追求する事を否定するのはいかがなものでしょうか?

 

 

 

 

最近、昆虫採集にはまっています。

昆虫採集と言っても、蝶やトンボを捕まえている訳ではありません。

庭木について葉っぱを食べる芋虫や正体不明の卵を採取し、下の写真のように

容器に入れ観察しているのです。

 

小さな芋虫はすぐ死んでしまいますが、大きめの芋虫は蛹になり

成虫(蛾)になります。

 

今までは、仕事場の庭に花の咲く木を植える事ばかりを考えていましたが、

植えた木の手入れについてはあまり深く考えていませんでした。

ところが、どんどん庭木を植えていくうちに、ちゃんと面倒を見ないと、病気に

なる事に気づきました。

そこで先ず、敵をよく知るために、芋虫や卵を採取して観察する事にしたのです。

 

これは数年前に植えたサルスベリの木です。

毎年可愛い花を沢山咲かせていましたが、今年は、スス病にやられて

花の数が極端に少なくなってしまいました。

夏前、枝が込み過ぎているので剪定しなくてはいけないと思っていたのですが、

花が終わってからにしようと思いそのままにしていたら、アブラムシが沢山つき

あっという間にスス病にかかってしまいました。

サルスベリの葉にも虫の卵が沢山ついていました。

盆栽ほど型にはめる気は毛頭ありませんが、放ったらかしでも植物は健康に

育たないことを痛感しています。

 

実はこのサルスベリの木は長船の鍛錬場で頑張っている四番弟子の記念樹です。

最近は、山鳥毛プロジェクトの返礼品の小刀造りで忙しい様ですが、小刀は

200本も作れば手は決まってきますので、鍛冶仕事がそれ以上上手くなる事は

ありません。まして、小刀をいくら沢山造っても刀造りが上手くなる事はありえません。

刀造りの技術を向上させるためには、やはり刀を数多く造るしかないのです。

たぶん、年に10振以上造らないと上手くはならないでしょう。

 

だれか、長船の四番弟子に伝えて下さい。

真剣に菊水刃に取り組まないと、師匠が先に完成させちゃうぞ!と