備前長船刀剣博物館で「山鳥毛」展が始まりました。
上杉家御手選三十五腰の一つであるこの太刀は、重華丁子の刃文が特徴で、
日本刀中、最も華やかな刀として知られています。
これまでも、岡山県立博物館で何度も見る機会はありましたが、
この度の長船博物館での展示は、コロナの影響で入場制限もあり、
キャンセル待ちの状態だそうです。
写真は昨年秋の特別展で撮影しました。
誰もいない会場で(正確には、警備員が私のそばにずっといましたが、、、)
30分間、山鳥毛と対面しました。今思うと、贅沢な時間でした。
山鳥毛の焼き入れ方法は、防府の故杉田刀匠が取り組んだ「裸焼き入れ法
(焼き刃土を塗らない方法)」ですが、これを焼き刃土を駆使して完成させたのが
同じ吉原一門の先輩・大野義光刀匠です。
裸焼き入れで太刀をまとめるのは至難の業ですが、短刀や脇差など短めの物なら
少しは成功率が高くなります。と言っても、裸焼き入れは、刃切れ(焼き割れ)が
起き易いので、作品になる確率は2~3割程度です。
せっかくですので、私の裸焼き入れの短刀を紹介しましょう。
拡大すると、樋の上の方に、鮮明な乱れ映りが見えます。
普段見る事の出来ない裏面も紹介します。
この短刀は、長野県坂城町鉄の展示館で今日から始まった
「お守り刀特別展~願いを込めて~」に出品していますので、
お近くの方は是非会場に足をお運びください。
ちなみに、この短刀は、俳優の森繁久彌さんのお守り刀で、
展示会のために特別にお借りしました。
山鳥毛の太刀は鎌倉時代から800年以上の歳月を経て今日に
伝えられてきました。鎬にかかる程の高い刃文は実用面からは危険です。
正直、私はこの太刀を戦場に持って行こうとは思いませんが、歴史上の
武将たちはこの美しい太刀を大事にしてきました。
私は美しさを追求して日本刀を製作していますが、美術品としての
日本刀のあり方に否定的な一部の武道家(居合道や抜刀道)がいます。
美しさを追求すると言っても、不純物の少ない鋼を造り鍛え、焼き入れを
適正にすることを常に心がけており、実用についても考慮しています。
日本刀の魅力は切れ味(機能)だけではありません。切れ味を要求するのは
結構ですが、美しさを追求する事を否定するのはいかがなものでしょうか?