「『老後の年金代わり』ならリートでよくね?」問題というのをご存じだろうか?おそらく初めて聞く方がほとんどではないか。なぜなら、私が勝手にそう呼んだだけなので。(笑)
つまらない冗談はさておき、ワンルームマンション投資を勧めるセールストークの代表は「老後の年金代わり」ではないだろろうか。今回は、そのことについて検証してみたい。
例えば、次のようなワンルームマンション。資料は、某不動産情報サイトに掲載されている物件のものだ。世田谷区の三軒茶屋、表面利回り約4.4%、1998年の建築なので、築後26年である。
その他の条件を下記に整理する。
所得税の節税になる!?
この物件を、フルローンで取得することができたとしたら収支は次のようになる。ワンルームマンション投資に融資する金融機関は限られるが、ここでは年利1.5%、20年返済の条件で2520万円の融資を受けられたと仮定する。
年間のNOIは約71万円だが、元利返済後の手取り(CF:キャッシュ・フロー)は、マイナス75万円、そして、減価償却費98万円が費用計上できるので、不動産所得はマイナス64万円、最高所得税率が45%の高所得者なら、29万円が節税できる計算になる。
支払利息の額が徐々に減ってくることや、管理や修繕に伴う支出がその年ごとに異なるので、若干変動があるが、概ねこの状態が20年間続く。
そして21年目から、ローン完済のご褒美(笑)として、約71万円(実際にはその時の賃料等によるが)が手取り額となる(ただし、21年で減価償却費の計上は、ほぼ「終了~!」となるので、所得税はばっちり課税される)。
45歳でこの物件を購入したとして20年、「65歳になれば収入も半減して所得税率も下がっている」と考えるなら、これも「老後の年金代わり」と言えなくもない?しかも、無借金のワンルームマンションが資産として残っているのだ…。
???ちょっと待った! 20年間、返済額に足りない不足分を給料から補ってきたのはどうなる?75万円×20年分で、約1500万円も穴埋めしてきたではないか!? 節税にはなったにしても。
ということで、結局のところ、この投資の運命は、「20年後、つまり築45年を超えてしまったこのワンルームマンションが、いくらで売れるか」ということに委ねられるのだ。ざっくり言えば、1500万円で売れたら収支トントン、2000万円で売れたら500万円の利益…20年もかかって…。
こ ういうのを「骨折り損のくたびれ儲け」という。それはそうだ、あとで述べるように、実際の投資利回りは3%にも満たないのだから。
現金で買うなら、毎年71万円のお小遣い?
65歳で定年退職した人が、退職金で購入するのなら、これまさに「年金代わり」。
家賃‐必要経費=約71万円(これをNOI:Net Operating Incomeといいますよ)のお小遣いと思えば、わるくなくなくない?
確かに、退職金を普通預金に預けたところで、利息は1%にも満たない。2523万円(この物件の総投資額)を銀行に預けるよりも、ワンルームマンションに投資して、毎年71万円が入るのなら、その方がよほど賢明ではないか…。
と、思いたくもなるが、残念ながら答えはNOである。
そもそも、売買金額2380万円に対する年間収入は105万6000円(8.8万円×12ヶ月)、表面利回り4.4%と、一見よさそうな利回りに見えるが、仲介手数料や各種税金等の取得経費を含めると、総投資額は間違いなく2500万円を超えてくる。一方、家賃から管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険料などの支出を差し引いたNOI(純収益)は、71万円/年ほどだ。つまり、利回りは3%にも届かない。
「リートでよくね!?」問題の検証
さて、ようやくJ-リートに話は移る。
ご存じの方も多いと思うが、J-リート(REIT: Real Estate Investment Trust)は、オフィスビルや商業施設、マンションなど様々な不動産に投資、運用して、その収益を配当として投資家に分配する不動産投資信託のことだ。
現時点で、58銘柄が上場しており、予定配当利回りが4%を超えるものも少なくない。上場していることから、急に現金化したいときは、現物不動産投資よりもはるかに簡単に売却が可能だ。もちろん、価格はその時の市場状況により左右されるので、元本割れのリスクはあるが、不動産が裏付け資産になっているので、株式のように「倒産して株が紙くずに」ということにはならない。
現金投資が原則だから、低利ローンによるレバレッジ効果は期待できない、現物不動産のように減価償却費の計上による節税はできない、といったデメリットもあるにはあるが、投資対象となっている不動産は、普通の個人投資家には手が出ないAクラス物件が中心だから、暴落や運用の失敗という可能性は低いといっていいだろう。
そもそも、年金生活に入った高齢者は、節税に対する必要性は低下しているし、安定的な運用という意味でもワンルームマンションの比ではないだろう。
ということで、検証結果は、「『老後の年金代わり』ならリートでよくね?」正解! となりました!