山の声を聴け -22ページ目

ショウトステイ

 日が少し短くなり、朝晩が心持ちひんやりして、秋めいてきたように感じる。日中は真夏の陽ざしだが。その暑いさなかに、お袋を施設に連れていった。きょうから一週間のショートステイ。
 いつも感じることだが、施設に連れていったその日は、解放されたような気分でホッとするいっぽうで、そこにいるべしのお袋がいなくなって気抜けしたような、やっぱりそこにいなきゃいかんという思いが入り交じって、変な気分だ。
 俺はあす早朝、暑さでうだる京都に向かう。冬生まれの俺は暑さが苦手だ。だから二日ほどいてすぐに信州にもどるつもりだ。

麻生人気

 福田改造内閣と党四役の顔ぶれが新聞の一面を飾った。次期総理有力候補の麻生太郎はどこにおさまるのか、あるいはまた固辞するのだろうかとウォッチしていたが、党の要の幹事長におさまった。党存亡の危機に個人的なことはいってられないというようなことをいっていたが、次期総理を目ざす麻生としては引き受けたほうが有利だという計算が大いに働いたのだろう。
 どうもこの男、おかしくもないところで大声で笑ったり、受け狙いからというより、本音から出たんだろうと思われる失言の数々をみても、どうも品位にかけると、前々から感じている。血筋はいいようだが。
 前政権の外相のとき、安倍と手を組んで価値観外交なるものを展開しようとした。要するに、自由、人権、民主主義という価値を共有できるアメリカ、オーストリア、インド、日本が連携していこうという外交である。価値観の異なる中国はもちろん入っていない。というより、封じ込めようという戦略が透けている。この4カ国が軸となって新たなアジアを構想していこうというわけである。安倍はインド、麻生はオーストラリアを訪問して、呼びかけるのだ。ところが、オーストリアにもインドにも断られてしまう。おまけに、ライス米国務長官には、「もうちょっと慎重にやったほうがいいよ」とたしなめられてしまう。大いに日本のメンツを失った外交の失態である。
 麻生が訪れたオーストリアには、戦中に麻生炭坑で働かされた捕虜が200人近くいた。どうも、麻生と会った政府高官の父親もその一人だったようだ。朝鮮人にいたっては一万を超える。子どものころだから、太郎自身に直接的責任はないが、だから関係ないとはいえない。どうもそのへんのところを麻生ははっきりした態度を示していないのではないか。
 麻生は国民には人気があるようだ。コミック好きとか、アキバ系などといわれ、強い支持層をもつ。そんなところで親しみやすさをうまく強調しているようだ。そのうえ、「ヨンさまー」という感覚で「純ちゃーん」と手を振っていたおばさんたちが、こんどは「ローゼンあそうー」などと叫んで、支持してしまうのだろうか。堪忍してほしいねえ。

肺がん

 幼なじみが肺がんと診断され、6日に手術を受けることになった。早期であるが、やはりいちばんの心配は転移だ。十以上若い奥さんの、不安で心配している様子が浮かぶ。
 彼のお袋さんと俺のお袋が幼いころからの友だちで、俺たちは家族ぐるみの付き合いをしてきた。5年前お袋がたおれて植物状態になったとき、彼のお袋さんは末期癌で余命幾ばくもないという状態だった。お袋の危急を知ったとき、彼女は「私が行って、チーちゃんの手を握れば必ず意識は戻る」といいはって、お袋のもとへ連れていくように懇願した。しかし、自らが激痛と闘っているときで、とてもその願いをかなえられる状況ではなかった。
 彼女はお袋に最後の別れを言いたかったのかもしれない。それから一カ月あまりで、息をひきとった。その病床で、俺は彼と30年ぶりの再会を果たした。一方は京都、一方は横浜と疎遠になっていた俺たちを、彼女が引きよせてくれたように思えた。それから親しい交わりが再開した。
 彼には完治してほしい。
 来週俺は京都に行く。手術前日に叡山の登り、根本中堂で護摩木を焚いてもらうつもりだ。彼の癌を根治してほしい、心の底からそう願いながら……。俺にはそんなことくらいしかできない。

腹式呼吸

 お袋がたおれて丸5年が過ぎた。初めの2年ほどは笑顔を見せたり、「痛い」といって顔をゆがめたり、ということがあったが、いまは笑顔は消え、言葉を発することもない。機嫌が悪いのか、頭痛なのか、最近は眉間にしわを寄せた表情を見せることも多い。なにはばかることもなく、思いきり口を開けてあくびをしたり、おならをしたり、ため息をついたり、大きなうなり声をあげたり、われここにありとばかりに自己主張をする。
 たおれる前はおそらくしていなかっただろう、呼吸法をしている。呼気のとき臍下丹田に力を入れながら息をじゅうぶんにはき、その反動で息を吸う。赤ん坊がしているような腹式呼吸である。これも健康を保っている一つの秘訣かもしれない。
 ときどき通じがない日もあるが、内臓は順調に機能している。脳幹部の損傷はいかんともしがたいが、心臓が少し弱いということ以外は、健康体なのだ。大正の女は強いということか。思いっきり長生きしてしまえ。

大辛好き

 一段と暑くなって、青唐辛子が出まわりはじめた。信州ではこしょうともいう。大辛と中辛があって、俺はいつも大辛を味噌和えにする。フライパンで、みじん切りにした青唐辛子を油で少し炒め、味噌、みりん、砂糖、鰹節を加えて、あえる。簡単な調理だ。熱を通すと辛味は甘みになって、ちょうどころよいの辛さに仕上がる。熱いご飯によくあう。ということは、酒の肴にもなる。飲み過ぎてしまうわけだ。
 辛さが足らないという人がいる。辛さをそのまま生かすには青唐辛子のみじん切りを生のまま、熱を加えずあえなければならない。最近、たいへん美味い「青唐辛子味噌和え」という製品を見つけた。市場ではほとんど見かけない珍味だ。それに生の青唐辛子を加えるのである。味噌味がだいぶ濃いので、青唐辛子を適度に入れると甘み、塩加減もちょうどよくなる。絶品大辛に仕上がった。大汗流しながら食わねばならない。
 この大辛を待っている御仁が九州にいるのだ。きょうつくった絶品大辛をなじませてから、来月早々送ることにしよう。