今日の一曲!KiRaRe「Don't think,スマイル!!」「憧れFuture Sign」他 | A Flood of Music

今日の一曲!KiRaRe「Don't think,スマイル!!」「憧れFuture Sign」他

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第十八弾です。【追記ここまで】

 

 

 今回の「今日の一曲!」は、KiRaReの「Don't think, スマイル!!」(2019)です。TVアニメ『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』OP曲。

 

 

 最初に筆者の立場を明らかにしておきますと、『リステ』に関してはアニメ版の知識しか持ち合わせておらず、他のメディアで展開されている内容についてはさっぱりです。しかし、作品の音楽のクオリティが非常に高いということは、アニメを通して数曲にふれただけの自分でも、ある意味確信を持って理解出来て(いるつもりで)います。

 

 この高評価がどれほどのものかを当ブログのルールに沿って説明するなら、僕の中で『リステ』は「アニソン+昇格待機組」との位置付けです。「アニソン+」の詳しい説明は嗜好遍歴紹介記事に任せるとして、要は「音楽の上質さだけでも好む価値のある作品」と認識していることのマーカーだと捉えてください。全ての音源を聴き込んだわけではないので現時点では「昇格待機組」扱いにしていますが、最近まで同じく待機組だった別の二作品(子細は更新予定記事にあり)については音楽の理解も深まってきたため、その証拠となる特集記事(例:)をアップして当該二作品を対外的にも昇格させた後には、『リステ』の音源集めに乗り出そうかと思っています。

 

 

 

 以降に展開するのは「その音楽から光るものを大いに感じ取ったのだ」という主張の肉付けですが、その前に音楽への贔屓目を抜きにしたアニメ作品としての『リステDD』への評も載せておきますと、メディアミックスが前提のアイドルモノのアニメ化の中では結構な成功例であるとのこれまた好感触です。キャラクターの魅力は掘り下げと掛け合いを経て丁寧に明かされていった印象ですし、ギャグとシリアスのバランスも上々、芸能科のある本校に対して普通科しかない分校からのスタートというビハインドも燃える設定で、廃部寸前からのメンバー集めからのすれ違いからの地区予選からの…といった悪く言えば踏み固められまくったストーリーラインでも、それがネガティブに作用することはありませんでした。あとは細かい点だと、本編台詞引用系サブタイトルの絶妙なチョイスが毎話ツボで、「完全にミジンコ」「もう終わりだみぃ」「紫ちゃんは私のおばさん」「駄ポエムは駄ポエム」あたりは特にキャッチーで好きです。笑

 

 上掲のポニーキャニオンの公式チャンネルでは第2話までフルで公開されていますし、タイムリーなことに今まさに(2020.10.6 19:00~)ニコ生での一挙が放送中、16日にはアベマでの一挙も予定されているので、振り返るには丁度好いのではないでしょうか。さて、ざっとでしたがアニメ語りは以上で済ませて、ここからは楽曲の魅力に迫っていきます。メインで取り立てるのは記事タイトルに据えた「Don't think, スマイル!!」ですが、続けて紹介する「憧れFuture Sign」「夏の約束」「ハッピータイフーン」の三曲もレビューの対象です。

 

 

 

■ Don't think, スマイル!! / KiRaRe

 

 

 『リステDD』OP曲。歌い手のKiRaRe(キラリ)は主人公格のユニット名で、メンバーおよびCVは次の通り、式宮舞菜(牧野天音)・月坂紗由(鬼頭明里)・市杵島瑞葉(田澤茉純)・柊かえ(立花芽恵夢)・本城香澄(岩橋由佳)・長谷川みい(空見ゆき)です。お次に制作クレジットを見ますと、【作詞:高瀬愛虹/作編曲:伊藤翼】によるワークスは、過去にこの記事でも言及したことがあります。リンク先に記してあるように、両名とも『SHOW BY ROCK!!』関連のナンバーでその確かな手腕について既に把握していた存在なので、個人的にはこの情報だけでも良曲であることが聴く前からある程度は担保されていました。

 

 本記事はブログテーマを「アニソン(切ない系)」に設定していますが、本曲の全体像が湿っぽいわけではありません。幕開けはサビ始まりで勢いがありますし、いずれも万能な感情表現を行えるブラスとピアノとストリングスが目指す方向性も決して内向きではないと、Aメロ前の間奏までで十分にわかります。これを受けるAメロはセンチメンタルな向きが強いものの、賑やかなリズムセクションが耳に楽しいBメロへと続いていくため、やはりベクトルはポジティブです。これら前向きのエネルギーが効果的に弾けるのがサビで、そのエモさには特筆すべきものがあると高く評価しています。初聴時から変わらない本曲のサビへの感想として、「スタジオ音源なのにライブ音源みたいな音像…!」との驚きを抱いており、この生っぽさの演出に編曲者或いはミキサーの卓越した技量が窺えるのです。具体的にはクオンタイズ周りのパラメータの人間らしさ(cf. ヒューマナイズ)だったり、ボーカルの定位の妙でマイクとの距離感が非スタジオ的になっていたりするからだろうと勝手に想像していますが、適当に編んではい終わりとしていないこだわりが僕には感じられました。

 

 

 ここまでの文章だけだと振り分けるべきテーマは「アニソン(明るい系)」だったのでは?と思われてしまうのも無理からぬことなので、これから「(切ない系)」のファクターを掘り下げていきます。フォーカスするのは歌詞で、とりわけ"バス"に絡めた表現の巧さに感動を覚えた点が主軸です。最初に登場するのは1番Bメロ、"未来行きのバス停 いっぱいあるけれど/同じ目的地なら/駈け出して乗り込もう きっと 何か変わるんだ"で、その前のAメロで"トキメキ"の移り気な性質が考慮されているからこそ、大局観を共有しているならば相乗りの果ての化学変化に期待してもいいとの確信的なメッセージがより現実的に響いてきます。

 

 1番Aメロの"まわり道"・"遅刻"・"よそ見"や、1番サビの"道がもしも途絶えても 別のルート探して進もう"など、直接的に"バス"というワードが登場しない示唆的なフレーズを除けば、次にバス絡みの歌詞が登場するのは2番Bメロです。"過去に向かうバスなど どこにもないよ/どんな"イマ"だって かならず/繋がってる この先へ いつも未来があるんだ"は、その通りだと首肯するほかない内容で文字通り未来志向のメッセージを畳み掛けてきます。このように只管"ポジティブ"なのは結構なのですが、前出した2つのフレーズだけならそこまで独創的とは思わなかっただろうというのが正直なところです。しかし、高瀬さんの本領が発揮されていると感じたのは寧ろここから先の展開で、端的に言えば「フォローの上手さ」に本曲の延いては『リステDD』の温かい世界観が垣間見えます。

 

 

 2番サビは丸々バスモチーフと言っていい歌詞世界ながら、現実世界と大きく異なるのが"次のバスが来なくても ひとりひとつ違う時刻表"です。これが厳しめの世界観だと…というよりフォローが甘いと、「"同じ目的地"を目指すバスに同乗出来なかった人はどうなるの?そこでおしまいなの?」と、悲しい疑問が脳内を過ってしまうことがあります。しかし、本曲に於ける"バス"は"同じ空"ないし"同じ夢"に辿り着くまでの手段でしかないということが"次のバス~"で明確になるため、前後の"乗り遅れた あの夢も 間に合うよ "もう1度""および"だから何度も!何度も!何度も!思い出して"に一層の説得力が生まれ、全の力を信ずる歌であっても個を蔑ろにしていない気遣いに、真の仲間意識を見た思いです。

 

 このフォローだけでも僕としては満点を与えて良いのですが、続くCメロの歌詞には更に目頭を熱くさせられまいした。"乗り込んだバスにもしも 居場所がないなら/旅の途中 降りるのも 間違いじゃない"は、アイドルに限らず夢を追う者には必ず付いて回る「去り行く者への向き合い方」として、「否定しない」というシンプルながら行うは難しの規範が提示されており、アイドルモノにしろ部活モノにしろ光が当たらなかったほうへの言及は、質の高い作品ほど丁寧に描写されているとの経験則です。ストレートに敗者や負け犬として描かれたり、そうでなくとも挫折や諦めや妥協の象徴として扱われたりしがちな影の人達に、"間違いじゃない"と同じ目線で共感を抱ける(=「残った者」の上から目線ではなく)ことこそが、夢追い人の斯くあるべき姿ではないでしょうか。

 

 Cメロは続くフレーズも全て愛おしく、"もがいて探し出した/出会えた居場所は/胸の同じような傷跡が/強く惹かれ合って繋がった奇跡だから"に見える痛みの共有は上述したエンパシーの証左となりますし、"昔よりスキになれたよ/Breathe... 自分のこと少しだけ/キミが信じて見守ってるから"は、歌唱に於けるブレス位置をそのまま歌詞に落とし込んでいるとも、2番サビの"キミと同じ風"がそよいでいるとも(類音の'breeze'と混同しているわけではなく'breathe'にも同様の意味があります)、"もがいて"を受けて水を連想させる息継ぎとも取れ、ハイセンスなマルチミーニングだと絶賛します。

 

 

 ここで一旦歌詞に係る点ではない且つ共感を得られるか微妙なツボを開示しますと、翳が射したCメロのアレンジが次第に光を取り戻していく過程を描くストリングスが、全体的に坂本真綾の「プラチナ」(1999)のそれを彷彿させる仕上がりで、両曲ともストリングスが心情をガイドしていくのが上手な名曲だと評したいです。あとはレビューに際して「Don't think, スマイル!!」を検索したところサジェストに「間奏」と出てきたので何か特別な理由があるのかなと調べてみたら、どうやら本曲の間奏は既出のKiRaRe楽曲のメドレーになっているらしく(確かに「憧れFuture Sign」が聴こえるなとは思っていたけれども)、既出曲を全て把握している方であれば尚の事テンションの上がる神編曲でもって、作品のファンを大切にしているのだなということがよくわかりました。僕は追々気付ければいいポイントとして、この遊び心は頭の片隅に留めておきます。

 

 最後に再び歌詞に戻りまして、ここまでの着実な言葉の積み重ねがあればこそ、ラスサビの"同じ空を見上げてる キミと同じ夢 目指してる/ひとりで見上げた空よりも 輝く"が燦然たる金言として降り注いできて、語彙や表現のレベルではありふれていると言えるシンプルなフレージングに、それだけに止まらない深みと重みを載せられる作詞者はやはり強いと、高瀬さんを一段と好きになるには充分な作詞術でした。ともすれば"バス"に寄せた曲名にしそうなものをそうとはせず、ドントシンクフィールならぬスマイルでひねってきて、僕があれこれとthinkした結果拵えたこのレビュー文に展開したような美徳を、ノンバーバルな"笑顔"の一発で伝えられたならとても素敵だと思うので、なるほど納得の「Don't think, スマイル!!」です。

 

 

 

■ 憧れFuture Sign / KiRaRe

 

 

 『リステDD』ED曲。シングル『Don't think, スマイル!!』に収録されている同曲は「(Piano Strings Arrange)」となっており、アニメから入った自分は「普通のバージョンはどこ?」と少し戸惑ってしまったのですが、そちらは2017年にKiRaReの3rdシングル『憧れFuture Sign』としてリリースされており、既出曲がアニメの主題歌に起用されたパターンとわかり得心がいきました。作編曲は「Don't~」と同じく伊藤さんで、作詞はやしきんさんのナンバーです。過去のやしきんさんへの言及は、この記事この記事にあります(ブログ内検索をすればもう少し拾えます)。

 

 本曲もまた歌詞が素晴らしく、別けても1番Bメロの"はじめはどうだった? 迷子の"大好き"さん"は、折れそうな瞬間に心を優しく撫でていく名句として僕の中に深く刻み込まれました。その"はじめ"の描写も冴えており、"目がはなせないほど 息のむほど/景色があることも忘れて/つま先に合わせてリズムきざむハート/恋をするように 夢におちたんだ"は、この歌詞そのものが新たな恋と夢を生むだろうとの「憧れの連鎖」に思い馳せたほどです。

 

 切なさと温かさが同居する伊藤さんらしい作編曲術は本曲でも披露されており、リリース時期に準じて先に本曲を聴いていると、「Don't~」のCメロは「憧れ~」のCメロを踏襲したものに感じるだろうと推測します(僕はこの順序が逆ゆえに想像です)。要するにOP曲とED曲にペア的な要素が忍ばせてあると言いたいだけでして、本曲のCメロもまた歌詞・旋律・編曲の全てが美しいと感嘆したのです。逸るビートと雄弁なストリングと多層的なコーラスワークがステージ上のプリズムを鮮やかに映し出し、俄に文学性を増した歌詞―"(きらめいた)歓声の雨 余韻が/(ゆらめいた)静寂にこだました/(消えないや)指先の震えはもう止まって/(消えないよずっと)いつの間に"―で情景が紡がれ、"(会いたくて)この瞬間が欲しくて/(何度でも)何度でも繰り返したんだ/憧れだよ/未来への期待を/そんな歌歌おう とびきり"大好き"さ"で歌詞上の伏線回収を図る、この一連の流れを見事と言わなければ嘘でしょう。

 

 

 

■ 夏の約束 / KiRaRe

 

 

 『憧れFutue Sign』c/w曲。本曲はアニメには挿入歌としても使われていなかったので、アニメしか知らない自分には作中でどのような位置付けにあるのかはよくわかりません。Wikipediaを見るにアレンジの決定稿をユーザー投票で決めたらしく(課題曲投票戦?)、ポニキャンの公式チャンネルにはラフ感のある音源がアップされていました。おそらくKiRaReを上級生と下級生で二分するユニット内対抗戦的な企画で、惜しくも採用されなかったほうも「エンドレスサマー・ホームワークス」というタイトルを付されて、同様に音源がアップされています。

 

 

 上掲動画の音源は先述の通りラフ感があって歌い手の数も半分なので物足りなさを拭えませんが、CDに収録されているバージョンはきちんとブラッシュアップされており、JCSV(Joshi Chugakusei Summer Vacation)の万能感に満ちた眩しいトラックメイキングが心地好い良曲です。特に気に入っているのはラフ段階から存在しているBメロ裏のブラスで、キュートなボーカルラインの隙間を埋めるような巧みな装飾性に伊藤さんらしさを発見した気がします。

 

 お名前を出す形としては本記事が初登場となる仰木日向さんの手に成る歌詞も素直さが光っており、『SB69』の特集記事で紹介した「十六夜ゐ雪洞唄」(2016)での達者な日本語力に脱帽した時とは対照的に、ピュアな歌詞世界の構築も得意な方なのだなと別種の驚きがありました。いちばん好きなのは2番Aメロの"夜の匂い♪(ふぅ~♪)/冷えた部屋は快適♪(Fu―!!)/いつまでも このまま終わらない夏"で、夏の"夜の匂い"に着目する情緒纏綿なセンスと、文明の利器万歳の解放感が込められた"(Fu―!!)"の有無を言わせぬ説得力は、蓋し夏であると充足した表現です。

 

 

 

■ ハッピータイフーン / KiRaRe

 

 

 KiRaReの6thシングル『ハッピータイフーン』(2019)の表題曲。こちらもアニメに使われていた楽曲ではありませんが、タンバリン芸人として有名なゴンゾーさん出演のTVCMが甚く印象に残っており、バックで流れていたやけにご機嫌な本曲にも興味を持ったという経緯です。今し方ナチュラルに「バック」と表現してしまった通り、当該CMに於ける個人的なプライオリティが【ゴンゾーさん>使用楽曲>ゲーム】になっていることが図らずも明らかになってしまいましたね。笑

 

 冗談はさておき、リズムゲームの宣伝にはうってつけのノリの良さが本曲には宿っているので、この選曲は正解以外の何物でもないでしょう。アッパーなリズムセクションはラテン、有機的な楽器の使い方はファンクないしAOR、シンセは広義的にエレクトロニカ、しかし全体的な印象はしっかりポップスで、一言でジャンルを形容しにくいクロスオーバーなトラックメイキングに惚れ惚れします。伊藤さんは相当に幅広い引き出しをお持ちだと確証を得た心持ちです。

 

 作詞はやしきんさんで、自然災害をポジティブに転化させた「ハッピータイフーン」という意外性のある曲名と、歌詞には反映されていないみたいですが"びゅん!びゅん!びゅん!びゅーん!"の合いの手だけでも、本曲によって巻き起こされる幸せの嵐に自ら飛び込んで行きたい衝動に駆られますよね。天才的だと感じたフレーズは2番Aメロの"新規募集しています 心事情オムニバス/自分だけのストーリーつづってNow on sale"で、東西南北からのどんな風でも合流させる存在の強大さと懐の深さに、「ハッピータイフーン」の真髄が表れていると解釈しました。

 

 

 

 

 以上、現時点で自分が語れる『リステ』音楽のプチ特集でした。伊藤翼さん特集と換言しても構わない内容で、氏は他にも同作の音楽を多く手掛けているため、本記事を執筆したことで今後の音源を集める楽しみが更に高まった次第です。深い聴き込みにはそれなりの時間を要しますが、いつかもう少し発展的な特集記事を書けるレベルには作品の楽曲を理解したいと思います。