今日の一曲!APOGEE「ゆりかご」 | A Flood of Music

今日の一曲!APOGEE「ゆりかご」

 「今日の一曲!」は、APOGEEの「ゆりかご」(2009)です。3rdアルバム『夢幻タワー』収録曲。


 当ブログに於ける直近のアポジーの記事は、「今日の一曲!」が【テーマ:雨】だった時に「Rain Rain Rain」(2008)を取り上げたものがあり、それ以来約4ヶ月ぶりです。通常ディスクレビューとしては、5th『Higher Deeper』(2018)の記事以来ですが、いずれにせよこの間にバンドにとって非常に重大な事柄がアナウンスされました。それは、Ba.内垣洋祐さんの脱退表明です。これをひとつの節目として、来年の3月にはオリジナルメンバーでのラストライブが開催される予定になっています。…残念だとしか言いようがありません。

 僕がアポジーを知ったきっかけは、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2009での移動中に、漏れ聴こえて来たキーボードの音で気になったという間接的なものですが、その後に音源で初めて聴いたのは「ゴースト・ソング」(2006)で、そのあまりにセクシーなベースラインに心を鷲掴みにされたことをよく覚えています(当ブログが第一期の頃の拙い文章ですが、前者はこの記事に/後者はこの記事にその旨が記してあります)。つまり、実質的なファーストインプレッションは内垣さんのプレイだったと言っても過言ではないため、その御仁が退くことに寂しさを覚えないわけがないだろうという感じです。


 この想いは「次にアポジーの記事を更新することがあったらそこで明らかにしよう」と考えていたためここに掲載しましたが、今回「ゆりかご」を紹介しようと思い至ったのは単なる気まぐれなので、以降は普通に楽曲レビューをしていきます。

 後付けの理由としては、3rdの収録曲には今まであまり言及したことがなかったからということと、MVが公式にアップされていて音源付きで紹介出来るものに絞った結果の選曲だという面もあります。また、当ブログ内を「ゆりかご」で検索したところ、アポジーの記事にていくつかの言及は認められたものの、その全てが「ライブで披露された新曲を形容するための引き合いとして曲名を出した記述」ばかりだったので、これは一度きちんと取り上げるべきだったと反省の意味もあります。

 ちなみにこの「ゆりかごに似た曲」は未だに音源化されていない(はず)です。「ランランランラー なんとーかかんとーか(英語) ランランランラー↑」のメロを徐々に変化させながら繰り返していくナンバーで、未だに口遊めるぐらいには印象的でした。この記事によれば「詩の内容的には正反対のゆっくり起こす感じだったような」らしいですが、歌詞まではもう覚えていません。





 優しさの裏に秘めた激しさを仄かに滲ませたようなギターサウンドで幕開け。しかし、ゆったりとしたテンポで"ゆりかごで子守唄 聞いていたあの頃は"と歌われる序盤は、まだ曲名通りのイメージだと言えるでしょう。

 イントロの二面性は、サビ前の"Rock me with your lullaby"というフレーズに集約されていると思います。このうち"Rock"の要素(「激しさ」)が徐々に強まっていくのが本曲の肝であるとして、以降のレビューを展開させていきますね。

 ただ、1番サビまでは依然穏やかなままです。"夜明けの海へ行こう この街を抜けて/昼間の太陽が眩しすぎるなら"はとりわけ好みの歌詞で、強烈な明るさを手放しで良しとせず、かと言って闇に身を窶そうとしているわけでもない、緩やかな前向きさを気に入っています。


 1番後の間奏はキラキラしたシンセが印象的で、非常にドリーミーです。2番頭の"僕はまだ揺れている ゆりかごで揺れているんだ"へ繋ぐに相応しいサウンドであると評します。続く"振れ幅が大きくなったり 小さくなったり"の部分は、アレンジが歌詞内容を反映させたメリハリのあるものになっていて技巧的ですが、次第に「秘めた激しさ/Rock」が顔を覗かせていることがわかるセクションでもあります。

 その後の"子守唄を聞かせてよ"からはメロディに変化が起きて1番とは異なる印象になりますが、続く"君の声で聞かせてよ"まで含めると、「懇願」の意が増している(=単なる「お願い」ではない)ように聴こえ、永野さんのボーカルも少しの切なさを含ませた状態でアウトプットされていると感じるので、これは"僕"のメンタルが徐々に変化していることの表現だと捉えました。

 2番サビの歌詞も好みで、"夜明けの海へ行こう 眠らない街抜けて/真夜中の星は綺麗すぎるから"は、1番の項に記したポイントを別の面から描き出していて流石と言えます。普通であればポジティブなファクターであろう"昼間の太陽"および"真夜中の星"を、そのイメージ通りに描いていない点を素敵に思うからです。


 2番後の間奏からは楽曲のベクトルが変化し、いよいよ激しさが表層に出てきます。エンディングとして新たなメロディが登場しますが、この旋律による畳み掛けが真に迫る趣を演出していて、一層の切なさが駆り立てられる楽想です。

 "La La La"は共通部分なので便宜上省略して引用しますが、"ゆりかごで/子守唄/聞いていた/あの頃は/夜明けの海へ/優しい気持ち/思い出すんだ"と、展開するにつれて痛切な色彩が濃くなっていくところは、1番Aの歌詞に対するアンサーとしては意味深長な背景を伴って響いてきます。

 歌い出しの"ゆりかごで子守唄 聞いていたあの頃は/誰もが気まぐれな天使だったはずさ/いろんな人がいて いろんな事があるけど/優しい気持ちでいられたらいいのにね"は、素直に受け取れば「回顧と理想」を描いているように思いますが、同時に「そのままでは居られない」ことも理解した上での表現に映るので、ラストの畳み掛けは両者の鬩ぎ合いを表現している;つまり優しさと激しさを同時に発露させたものになっているとの解釈です。


 やや後向きな思考を披露してしまいましたが、勿論「最終的には優しさが勝っていてほしい」という希望に満ちた歌だと捉えています。父子の絆や愛が感じられる素敵なMVの内容も、"優しい気持ち"を維持するためのひとつの答えとして、美しい形が提示されたものだと言えるでしょう。


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