笑顔とありがとうを~大切な人たちへ~ -62ページ目

第2話 遺書



告知を受けた母。

年は越せないかも知れないと言われて

自分の余命が2、3ヶ月しかないとわかった母は

同じ病院に入院している父とも色々話をしていたようで

ある日妹と私が病院に行ったら

父が私達二人を連れて

病棟内にある話し合いが出来る部屋に連れていかれた。

そしてホワイトボードに書き始めた。


お母さんは自分の余命を知って

色々と身辺整理をし始めようとしている。

本当はまだ見せるべきものではないのだけれど

お父さんに遺書も書いて渡してきた。

それをお前達にもみてもらいたい。



そして封書を私達に差し出した。


「本当に見てもいいの?」

「見ない方がいいんじゃない?」

そう私達は言ったが

父はいいから見なさいと書いて封書を開けた。










~お父さん。長い間ありがとう~

最初の一文・・・







それを見た妹と私は

堪え切れずに涙がこぼれた・・・・

そして今ではその一文しか覚えていない・・・





父も涙を流していた。




父の涙を見るなんて・・・



父が涙を見せるなんて・・・





なぜ遺書なんか書かなければならないのか

なぜこんな悲しい出来事が

私達家族に起こるのか

なぜ母が死ななければならないのか



夕暮れの部屋で

父と妹、そして私は

涙を流すことしか出来なかった・・・




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第1話 母の癌


母の癌がわかってから

原発巣を調べるために様々な検査をしたが

結果的にはわからないまま・・・

症状としては、腹水が溜まり食事を取るとお腹が痛む。

直腸からカメラを入れて検査したところ

腫瘍に圧迫されてるせいで

腸が通過障害を起こしていることがわかった。

入院してから先生には

なるべく口から物を食べないように言われていて

わずかな流動物と

24時間の栄養点滴を摂っていた。



口から食べられないのは辛い・・・と、

しきりに母は言っていた。




主治医の先生はとても親身になって

母の癌の種類を色々と調べてくれて

私たちに先生が調べた資料まで渡してくれた。

今はよく知られるようになった

中皮腫ではないか・・・

症例が少ないけれど

子宮ガンの稀なタイプではないか・・・

そうやって色々調べて頂いたにも関わらず

結果的にはわからなかった。



母の入院先は大学病院。

先生が調べることにも限界がある。

そんな時に先生から

癌専門の病院に転院して

そこでしっかり調べてはどうかと、打診があった。



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第16話 母への告知Ⅲ



少し落ち着きを取り戻した母は

涙を拭っていつもの母に戻った。

先生からの病状の詳しい説明も

取り乱すことなく聞いていた。



そのうちベビーカーで眠っていた次男が

ぐずり出して泣き始めた。

抱き上げてあやしていると

母は次男を見ながら笑顔を見せた。




母はなんて強い人なんだろうと思った。

自分の余命を告げられたというのに

時間に限りがある命だって言われたのに

すぐに冷静さを取り戻せる母を

私は心底強いと思った。



主治医との話を終え

私たちは母の病室へ戻った。

その時母が次男に向かって言った。





「おばあちゃんの分まで生きてね」






その一言は今でも忘れられない・・・・







次男は今3歳。


母によく似た次男は


当然おばあちゃんの事は憶えていないけど


きっとココロの奥深くで


おばあちゃんの気持ちを受け止めていると


私は信じている。




第2章完結


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第15話 母への告知Ⅱ




「冬を越すのは難しいかもしれません」

母の主治医はそう言った。




「もう・・・・もういいです!・・・何もしなくていいです!

このまま何もしないで死にたい!」



それを聞いた母は、こう言って泣き崩れた。



「お母さん・・・お母さん大丈夫・・・落ち着いて・・・」


「だってお母さん死んじゃうんだよ!

あと何ヶ月かでみんなとお別れしなきゃならなくなるんだよ!」



母の横に座っていた父も

筆談で母に何かを伝えていたが

母はそれを見る余裕もない程、混乱していた。



当たり前だと思う。

自分の余命を宣告されて正常でいられる訳がない。

混乱した母の姿を見ていても

私は何も出来なかった。

何て言葉を掛けていいのかさえもわからなかった。




しばらくして先生が落ち着いた口調で話し始めた。

「Kさん、あきらめないで下さい。

治療が何も無いわけじゃありません。これから私も治療の検討をします。

いい抗がん剤があれば完治は難しいですが癌が小さくなる可能性もあります。

Kさんにはご家族もあってお孫さんもいらっしゃる。

ご家族のためにもあきらめないでください。」


「そうだよお母さん!」

「この子(私の次男)だって生まれたんだから・・・

お母さんは4人の孫のおばあちゃんでもあるんだよ!あきらめないで!」




私たちの言葉に母は少し落ち着きを取り戻した。

父も筆談で必死に話しかけていた。


涙を流しながら父の筆談を読む母。

必死にペンを走らせる父。

その両親の姿に私は涙がこぼれそうだった。





悲しかった。

本当に・・・悲しかった。

泣けるものなら今すぐここで泣きたかった。


でも私は泣かなかった。

泣いてはいけないと思った。

本当に悲しいのは母なんだ。

だからここでは絶対に泣かない。

母の前では絶対に泣かない。

そうココロに決めた。


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第14話 母への告知Ⅰ

母への告知の日が来た。

私は長男を夫の実家に預け、生後2ヶ月の次男を

妹は甥たちを義弟の実家に預けて両親の入院している病院に向かった。

病院に着いてから、先に父の病室に向かい

父と一緒に母の病室へ行くと

「あら、お父さんも来たの?めずらしいね~」

と、嬉しそうな母。

母にはまだこれから先生と話しをすることは言ってなかった。


「お母さん・・・今日ね、先生からお母さんの検査結果が出たから

家族で来てくださいって言れたの。これから行くけど体調は大丈夫?」



そう妹が切り出した時、母の顔色が少し変わった。


「みんなで来てって言われたの?」


「うん・・・」


「そう・・・わかった・・・もう先生待ってるんじゃない?行こうか・・」


明らかに母は何かを悟っていた。

そんな母の姿を黙って見ていることしか出来なかった。



ナースステイションに行き主治医との約束を告げると

少し奥まった所へ通されて、待つように言われた。

しばらくして母の主治医が来た。

母の主治医は女の先生で、物腰が柔らかい人だ。

「お待たせしてすみません」

そう言って私たちの前の椅子に座り話を始めた。

「今日はわざわざすみません。

K(母の名前)さんの検査結果が出ましたので、お話します。

まず一番初めに腹水を抜いて検査しましたよね。その結果なんですが・・・

そこから癌細胞が見つかりましてね・・・・その後も色々検査しましたよね?

その検査は、癌の原発巣を探すものだったのですが、どうしてもわかりませんでした・・・」



「最初は子宮ガンの疑いが強かったので、婦人科の方でも検査しましたが

どうも違うようなんです・・・」


「・・・・・」

母は黙ったままだった。

私たちも何も言えなかった。



「手術は出来るんですか?」

「・・・・手術は・・・体の負担を考えると難しいです・・・」

「手術が出来ないなら、どうなるんですか?」

「抗がん剤の治療も選択肢にはありますよ・・・

ただ原発巣がわからないので、どの抗がん剤を使うかはまだわかりません。」


「手術もせずに抗がん剤も使わなければあとどれくらいなんですか?」

「・・・・そうですね・・・・冬を越すのは・・・難しいかもしれません」



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