目的地の天壌院はアタシの村からは丸々一日をかけて辿り着く位の場所にある。

私達は村が耕していた田畑を越えて山へと入っていき、 竹林の中を二人して歩いていた。
時たま強い風を受けた竹が大きくしなっていた。
太陽が勢いよく駆け上がる前に天壌院を目指して歩き始めていた私達はようやく目的地に半分過ぎまで来ていた。

二人で歩いている時に私が話しかけるとソラもまた笑い慣れてない笑顔で返してくれた。
その中で段々と私はソラのことが理解できていた。

私が行く先を指して道の説明をソラにした。

「この先に谷があって吊り橋があるの、それで河の下流に私が住んでいた村があるの。」
「そこにミコトの家族がいるのか?」
「うん、でも行かない。会ったら何を言われるかわからないし。」
「そうか、」

ソラとの会話に夢中になっていた私は足元に転がる拳ほどの大きさの石に躓いてしまう。
しかし巨人の時と違って私は地面とは接触せずにソラに抱きかかえられた。

「気をつけろ。」
「ご、ごめん。」
「気にするな、案内役が怪我されたら面倒なだけだ。」

不意の接触に顔を赤らめる私にソラは注意一つと厭味を一つ言い放った。
しかしこれが彼なりの優しさだと理解している私は笑顔で返すことが出来た。

「うん、」

刹那、私達の後ろから一段と強い風が吹いた。
風の強さでよろめいた私とは違ってソラは体を硬直させて歩くのをやめる。
歩みを止めたソラを見やると彼の顔から笑顔が消え去り、巨人と相対した時のような無表情な顔へと変化していた。

「どうしたの?」

その表情にアタシが躊躇いつつも声をかける。
しかしソラは私を見向きもせずに刀に手をかける。
そして彼は小さく私に囁く。

「隠れていろ、どうやら俺に用がある人物らしい。」

その言葉の意味を理解する前にトンッと軽い音で私はソラに突き飛ばされた。
私が突き飛ばされて数瞬もたたない内に目に見えるほど歪んだ風がソラへと襲い掛かった。
その風を浴びたソラは何とか飛ばされないように体を屈めたが風は気が抜けば大の男でさえ吹き飛ばされただろう。
それが身軽な女なら尚更だった、しかし風は少し離れただけの私には何の被害も無かった。
理由が分からず辺りを見回すと風によって一本の道が出来ていて道はアタシ達の後ろから一直線に向っていた。
その異常現象と先ほどのソラの言葉が一本に繋がった。

(呪われた武器!)

「ソラ!」

声を絞り上げて呼ぶ私の声を無常にも掻き消した風は十秒程度で収まるが安堵する前にスラリとソラは刀を抜いた。

「何者だ?」

そう言うと誰かがこちらに向ってくるのがわかった。
暗闇に包まれていた体が足元からゆっくりと日に当たり表われた人物に私は言葉を失った。
「この世には呪われた武器がある。」

そう口火を切ったソラは坦々と語り始めた。

「悪意に満ちた武器、
それは戦争の引き金になった武器、
悲劇の根源たる武器。
主君を切った刀や一国の王を貫いた槍、英雄を射った弓。
その武器は後に戦乱と災厄を招いた。」

一切の反論を許さずにソラは語っていた。

「それらの武器には魂が宿る。その魂は生への執着や無念、なお深く色濃く残る憎悪に染まっている。それらが天変地異を引き起こす強大な力となる。」

聞かされた事実に言葉を失うアタシだったがソラの目は至って真面目だった。

「先ほどの巨人の大地を震わす力や俺の青い炎のような天変地異を引き起こせる力をな。」

咄嗟に巨人の斧で引き起こされた土壁と爆発を思い返した。

「そして魂が武器を作る様に魂が武器を育てる。その武器で人を殺せば力が増大する。巨人は自分の武器を育てる為にミコトの村の人間を殺したのだろう。」
「そんな、そんな理不尽があっていいの!」

怒りに言い放つとソラは諦めを含んだ声で返した。

「あってはならない。しかしある以上は仕方ない。」
「・・・ソラも自分の武器を育てるために人を殺すの?」

静かに質問するとソラは苦々しくも答えてくれた。

「そんな事はしない。いや、出来ない。」
「どうして?」
「確かに人を殺せば武器は強くなる、だが同時に呪いも強くなる。」
「呪いって、具体的に何なの?」
私が質問するとソラは辛そうに顔をゆがめながら黙ってしまった。
そしてしばらくすると細々と言葉を綴った。

「具体的には表現しにくい。あえて言うなら悪夢だ、眠れば悪夢に苛まれる。まともに寝ることはない、一番の呪いは死ぬ事が許されない。」
「えっ・・・死ぬ事を許さないって、ソラって。」

言葉を飲み込めない私にソラは事実のみを伝えた。

「不老ではあるが不死ではない、現に巨人は死んだ。そして俺も生まれてから八十はとうに過ぎている。」。

ニヤリと笑うソラに驚きの表情を向けた。

「そんなおじいちゃんには見えないわ。」

素直な感想を言う私にソラは自身の体を指差した。

「不老だからな、だが切られれば出血し、」

自身の腕を手刀で切る真似をする。

「殴られたら骨折する。」

自身の顔を殴りつける真似をする。

「ゴホッゴホッ、風邪にだって罹る。」

ワザとらしく咳き込むソラの緊張感の無さに少しの笑みを浮かべた私だったが不意にソラは言葉を濁した。

「だが、殺されるようなことがあれば、」

その次の言葉が出てこないソラに静かに聞いた。

「どう、なるの?」
「今度は自分自身が武器に吸収される。」

唐突の台詞に言葉を失った、その私に変わらぬ声でソラは語りかけた。

「延々と武器の中で憎悪にまみれ、終わらぬ苦痛に苛まれる。いわば地獄だ。」

想像も出来ない苦行を想う私にソラは自嘲気味に呟いた。

「生きているうちも眠れぬ地獄を味わい、死ねば本当の地獄が待っている。」
「・・・そんな、」

やっとの事で一言を呟くことのできた私にソラは達観したように言い捨てた。

「天変地異の力を奮う代償には安すぎるぐらいだ。」

だろ?と同意を求めるソラに何も言えなかった。

「それで何で、天壌院に?」

話の矛先を変えた私にソラは親切に教えてくれた。

「その運命を変えるためだ。」

首を傾げると大切そうにソラが一つの単語を口にした。

「禊。」
「・・・ミソギ?」

言葉の意味と理由が分からずに反芻した。

「百年に一度だけ天壌院の巫女が穢れた武器を浄化する、それが禊だ。」

丁寧な説明に無理やり納得したアタシは残るわだかまりをソラにぶつけた。

「武器を浄化するって?」
「武器は力を失って、俺も元の人間に戻る。その時に何が起こるかは解らないが。」
「そのために?」
「俺はこの悪夢から解放されたいだけだ。」

その一言がソラの、彼の本心であると確信した。

「そしてその禊の契機まであと三日、非常に身勝手ではあるが案内してくれないか?」
「いいわよ。」

最初の命令口調から柔らかくなったソラに私は快く承諾した。
それが意外だったのかソラは私の顔を見ながら聞き返してきた。

「いいのか?」
「何よ、不服なの?」

意図的かソラは顔を隠して戸惑いながら聞いてきた。

「ミコトの家族はあの巨人に殺されたんだろう?」

そう聞かれたとき、一瞬ぽかんとしてソラの顔をまじまじと見やった。
何も言わない私に同情に満ちた目を向けていた。それを見てソラが勘違いしていることに気付いた。
座りなおして私は強く燃え続ける焚き火を見つめた。

「・・・この村に私の家族はいない。」

言うとソラは驚いて目を見開いてもかまわずに話を続けた

「十六の時に売られちゃったから。だから家族もそうだけと私にとって大切な人はいないから。」
「そう、なのか。」

言ったアタシよりも聞いた彼のほうが気まずいように焚き火をいじっていた。先程の勇ましい戦闘と違った子供らしさに微笑んだ。

「村が潰されちゃって当ても無いし、ソラと行ったほうが楽しそうだしね。」
「なら。もう寝たほうがいい。行くのなら明日は大変だからな。」
「うん、解った、ソラ。」

アタシが微笑むと困ったようにソラは目を逸らして横になった。
巨人の死を看取った青年がゆっくりと刀を鞘に納める。
僅かに刀芯に残った青い炎が鞘をチリチリと燃やて消えてしまった。
今までの目を疑いたくなるような光景に言葉を失っていると青年が何時の間にか目の前にいた。

「大丈夫か?」
「は、ひ!」

後ずさる私を不審な目で見やる青年はゆっくりと確実に伝わるように質問した。

「君、天壌院の場所を知っているか?」
「へ?」

思いもよらない質問に少しの空白と脳裏に豪勢な門が浮かぶ。
返事をしない私に聞えていないのかと思ったのか青年は音量を一段上げて問いただした。

「天壌院という寺院だ、知らないか?」
「えっと、知っていますけど・・・。」

段々と声が小さくなっていく私に対して青年はジッと睨みつけた。
その視線に込められた意図に気付いて咄嗟に天壌院がある方向へと指した。
青年が指差した暗闇の先にある山を見やった。

「道案内してくれないか。」
「は?」
「できればすぐにでも行きたいのだ。」
「ちょっと待って。」

不審そうな顔をする青年に対して私は恐怖により震える声を絞り出した。

「せ、説明してよ!なんなのあの巨人は?青い炎は何?どうしてアイツは私達の村を襲ったの?」

一旦、声が出始めると自分でも不思議なくらいにスラスラと質問が湧き出る。
怒涛の質問攻めに何の反応も示さない青年と息を荒げるアタシの間に無情にも冷たい雨が降り始めた。
二人して空を見上げると、青年がボソッと呟いた。

「説明すればよいのだな?」



私と青年は唯一、火災を免れた馬小屋にいた。
肝心の馬は巨人の襲来にいち早く反応して逃げ出していた。
その中で火を起こすと廃墟と化した村から必死に思いでかき集めた食料を火で炙っていた。
青年は串にさした魚をグイッと差し出した。

「食うか?君、」
「ミコト、」

魚を受け取りざまにアタシが自分の名前を言うと青年は意図が解からないといったように顔を傾ける。

「何のことだ?」

青年の表情をそのままの言葉にして返されてもめげずに私は言った。

「私の名前はミコト、貴方の名前は?」

すると今の今まで表情らしい表情を浮かべなかった青年は戸惑いという表情を浮かべた。

「名前、・・・勝手に呼んでくれ。」

自分の中で勝手に結論付けた青年はぶっきらぼうに言い放った。

「・・・名前ないの?」

そういうと青年は黙りこくってしまった。
それを答えに受け取って青年をマジマジ観察し始めた。
青年の黒色だと思っていた髪はよく見れば深緑に近い色をしている。
顔を覆い隠そうとするかのように黒いマントで全身を包んでいて、傍から見れば浮浪者であった。
ただ青年の持つ黒焦げの刀が異様な存在感を発していた。
今、銀の刃を隠している鞘も柄も黒く焦げて使い物になら無そうに見えるものの、何か引き付けられる力を秘めているように思えた。

その刀を振りかざす青年の姿が脳裏に浮かび、その背後には先ほど見た青い炎が渦巻いていた。
その青い炎は、
そうまるで、・・・。

「ソラ。」

口から漏れ出たその単語に青年も、何より自分自身が驚いた。

「空?」

単語を反芻する青年は不思議そうな顔をしてアタシの顔を見た。
意外と端正なその顔に不意にドギマギして私は補足した。
そういえば初めて青年の顔をちゃんと見た気がする。

「貴方の名前はソラ。良いでしょ?」
「どうして?」

微かに声が震える青年はアタシに聞いた、まっすぐに。
その問いに私もまっすぐ正直に答えた。

「貴方の火が、空色だったから。・・・もしかしてイヤだった?」
「いや、別にかまわないが、」

そういうと目を逸らして焚き火をぼんやりと見つめ始めた。
一応の自己紹介を終えたと思い青年に改めて問いただした。

「それで説明してよ。貴方の青い火は何?どうしてあいつは私達の村を襲ったの?天壌院で何をする気なの?」

青年は目線も送らずに黙っていた、アタシはただ青年を見つめていた。

「説明しなければ、」
「案内しないわよ。」

強く言い切るとソラは深くため息をついた。
信じられない光景だった。

十九間近の私と変わらない青年が悠然と立っていて、その青年は命を奪おうとしていた斧の一撃を火事にあったかのように焦げて柄が炭化している刀で防いでいた。
巨人の圧倒的な力と規格外の大きさの斧を刀一本で止めてしまったのだ。

周囲を見渡す青年の目に映っているのは熱を放射し続ける炎と熱を帯びていない死体。
その状況を観察しながらも、

「随分と殺したな、」

青年の声には何の感情も聞き取れなかった。
巨人も突然現れた異邦者の不気味さに気付いたのか、

Uraaaaaha!

叫び声を上げて一歩分、人から見れば十歩以上の距離を大きく後ろに跳んだ。
そして村人を蹂躙した時の無防備な構えから空気が揺らめきそうな殺気を放つ戦闘体勢に移った。
青年はそれに対しても戸惑いを見せずに後ろにいる私に話しかけた。

「この村に人間が何人いた?」

話の意図が分からず戸惑う私に青年は一瞥して答えを促した。

「ろ、六十人ぐらい?」
「そうか、」

答えると青年は私から目線をはずして巨人へと足を進めた。
ただ青年が巨人に向って歩いているだけだが巨人も、そしてアタシも動けずに立ち尽くしていた。
そしてアタシと巨人のちょうど中央で青年は立ち止まる。

「お前も禊目当てか?」

青年が年相応の声を発すると巨人は叫び声で返した。

Ugaaaaaaha!

私が巨人の吐き出した風で揺らめく髪を手で押さえても青年はやはり感情を表に出さずに声を出す。

「もう、人の言葉をもなくしたか。随分と苦しんだんだな。」

その声は本当に同情しているようだった。
青年が刀を構える。
すらりと伸びた刀身に紅蓮の炎が写っていた。
だが紅蓮だった炎が段々と青色の炎へと変わっていく。
そして何時の間にか刀に移るだけの炎が刀身から吹き出るように青い炎が渦巻いていた。
私の目にハッキリと映る青い炎が巨人の目にも映っていた。

Daaaaaaaaaaaaaa!

異邦者を敵と認識した巨人はそれが会戦の合図だといわんばかりの大声を上げる。
巨人は掲げた斧をそのまま大地へと振り下ろした、
何か来る!そう感ずいていたが何がどう来るか私には見当もつかなかった。
その結果は意外にも数秒遅れて見せ付けられた。
斧を大地へ叩きつけた数秒後に青年が立っている周囲の大地が光った瞬間に大爆発を起こしたのだ。
青年が立っていた大地が噴水のように吹き出たことで土や石が雨のように降り注いだ。
その一部である大きな石が私の近くに落ちる。

「ひぃぇえぇ。」

自分でも情けない声を上げて近くの崩壊寸前の家へと逃げ込んだ。
小さな石と大量の砂が降り注ぐことで村の火災が収まったものの一寸先も見えないような砂煙に村が包まれる。
数分たって砂煙が収まると影で巨人が顔を動かして何かを探しているようだった。
すると先ほどの爆発とは相反する冷静さの声が聞えた。

「凄まじいが、当たらなければ意味は無い。」

目をやると火災と土塊の雨で崩れ落ちた家の屋根に青年が立っていた。
巨人が振り向くより早く青年が青い炎を帯びた刀を振る。
切り捨てられた青い炎の固まりが巨人に襲い掛かる。
青い炎が巨人に衝突した瞬間に拡大して巨人を包み込んだ。

Ugaaaaaaaaa!

巨人が全身を包む炎を振り払おうとするが効果は余り無いように見えた。
青年は屋根から飛び降りて炎に包まれている巨人に向って走った。
苦しみもがいている巨人の股の間を走りぬく際に足の健を切り裂く。

Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!

立つことも出来なくなり倒れる巨人の切られた傷口から更に濃い青い炎が広がる。

それは正に地獄絵図だった。


沈黙が訪れた後に安全を確認した私は土の雨宿りに使っていた建物から出た。
そして目撃したのは、跡形も無く炭となった巨人の亡骸を表情がなくとも物悲しげに見つめる青年だけだった。

私は一心不乱に走っていた。
きっと本能的に理解していたのだろうと思う。
後ろから迫る何かに捕まれば命はない事を。

私と同じ様に逃げていた人は沢山いた。

いたのであった。

そのほとんどが殺された。

家には火を投げ込まれた。
木造建築が立ち並ぶ小さな村では一軒の家屋の火事が村を包む業火へと変化するのに十分とかからずに広がった。

「はぁ!はぁ!はぁ!」

私が走る道の両脇に並ぶ家は火に包まれ、道の中央を走っていても火の熱を感じて体は汗を放出する。
その熱で体が燃えるような錯覚に陥る。
周囲にはまだかろうじて生きることが出来ている人たちがいた。
でも全員が女性や子供、
今追いかけている奴にはどう足掻こうと適わない。

私達には逃げるしか方法が無かった。

ドスン、ドスンと地響きのような足音と共に巨人が火に照らされて現れる。

私の数倍はあろう背丈を持つ巨人は規格外の大きさの斧を軽々しく持ち上げる。

巨人が持つ斧には村人の血が滴り足元に池を作っていた。

巨人が斧を高々と掲げて大地へと叩きつけた。
叩きつけた衝撃で大地が震えるのに呼応してズザザザ、と信じられないことに私達の行く先に土が盛り上がって数メートルの土壁が出来て上がった。

「なに?これ!」
「何で!?」

不意に起こった天変地異により逃げ道を失ったあたし達は思考と行動を停止させていた。
一人の女が土壁を叩いてみても巨壁がブレもせずにそこに存在していた、幻ではなかった。

ドスン、という音で覚醒した私達が振り無と燃える家の側壁と土壁の袋小路に悠然と巨人が立ちはだかっていた。

Ugaaaaaaaha!!

文字にならない叫びを上げた巨人に私は例えようの無い恐怖心を抱いた。

ブン!

巨人がいつの間にか斧を振り下ろしていた。その瞬間に隣にいた女の体は真っ二つにされていた。

「きゃぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁ!」

その様をまじまじと見せられた者達が足元から巨人から逃げるように一斉に散った。
しかし巨人は目だけで散った者達を逃さずに追いかける。

「ひ、ひええぇ。」
「助けて!」

逃げるものたちを追う為に後ろを向いて巨人がその巨体からは信じられない俊敏さで追いつくと斧を横へ振りぬくと逃げていた者達を一掃する。
建物が壊れるのと同時に上半身を失った体は次々と倒れていった。
残された私はと言うとマヌケにも逃げる者達と一緒に走るつもりが、拳ほどの大きさの石に躓いていた。
そのおかげか巨人はこける私には目もくれずに逃げる者達を追いかけて飛び越えていったおかげで難を逃れていた。

生き残ったのは私だけ・・・しかし

巨人は斧についた血を振り払うとゆっくりと私の方に振り向いて目が合った。
巨人の表情には多量の憤怒と少しの哀愁が表われていた。
逃げた者達が一瞬で殺された事と目が合った事でアタシは腰が抜けてしまって身動き一つ取れなかった。

「ど、どうして、私達を。」

苦し紛れの質問が聞こえていないのか、それとも聞いても答える気が無いのか。

巨人は目の前に立ち尽くして目標を定めるとゆっくりと斧を振り上げた。

あぁ、死ぬんだ。

私は逃げるのも諦めて目を瞑った。

暗闇が支配する世界でシュッと風を切る音がした。

ガギィン!

その後の音は肉に斧がめり込む音でも血が吹き出る音でもない金属と金属がぶつかり合うすさまじい音がした。
数秒経っても何の変化も無いことに疑念を抱いて私は目をゆっくり開いた。

私の前に見知らぬ男が立っていた。