信じられない光景だった。

十九間近の私と変わらない青年が悠然と立っていて、その青年は命を奪おうとしていた斧の一撃を火事にあったかのように焦げて柄が炭化している刀で防いでいた。
巨人の圧倒的な力と規格外の大きさの斧を刀一本で止めてしまったのだ。

周囲を見渡す青年の目に映っているのは熱を放射し続ける炎と熱を帯びていない死体。
その状況を観察しながらも、

「随分と殺したな、」

青年の声には何の感情も聞き取れなかった。
巨人も突然現れた異邦者の不気味さに気付いたのか、

Uraaaaaha!

叫び声を上げて一歩分、人から見れば十歩以上の距離を大きく後ろに跳んだ。
そして村人を蹂躙した時の無防備な構えから空気が揺らめきそうな殺気を放つ戦闘体勢に移った。
青年はそれに対しても戸惑いを見せずに後ろにいる私に話しかけた。

「この村に人間が何人いた?」

話の意図が分からず戸惑う私に青年は一瞥して答えを促した。

「ろ、六十人ぐらい?」
「そうか、」

答えると青年は私から目線をはずして巨人へと足を進めた。
ただ青年が巨人に向って歩いているだけだが巨人も、そしてアタシも動けずに立ち尽くしていた。
そしてアタシと巨人のちょうど中央で青年は立ち止まる。

「お前も禊目当てか?」

青年が年相応の声を発すると巨人は叫び声で返した。

Ugaaaaaaha!

私が巨人の吐き出した風で揺らめく髪を手で押さえても青年はやはり感情を表に出さずに声を出す。

「もう、人の言葉をもなくしたか。随分と苦しんだんだな。」

その声は本当に同情しているようだった。
青年が刀を構える。
すらりと伸びた刀身に紅蓮の炎が写っていた。
だが紅蓮だった炎が段々と青色の炎へと変わっていく。
そして何時の間にか刀に移るだけの炎が刀身から吹き出るように青い炎が渦巻いていた。
私の目にハッキリと映る青い炎が巨人の目にも映っていた。

Daaaaaaaaaaaaaa!

異邦者を敵と認識した巨人はそれが会戦の合図だといわんばかりの大声を上げる。
巨人は掲げた斧をそのまま大地へと振り下ろした、
何か来る!そう感ずいていたが何がどう来るか私には見当もつかなかった。
その結果は意外にも数秒遅れて見せ付けられた。
斧を大地へ叩きつけた数秒後に青年が立っている周囲の大地が光った瞬間に大爆発を起こしたのだ。
青年が立っていた大地が噴水のように吹き出たことで土や石が雨のように降り注いだ。
その一部である大きな石が私の近くに落ちる。

「ひぃぇえぇ。」

自分でも情けない声を上げて近くの崩壊寸前の家へと逃げ込んだ。
小さな石と大量の砂が降り注ぐことで村の火災が収まったものの一寸先も見えないような砂煙に村が包まれる。
数分たって砂煙が収まると影で巨人が顔を動かして何かを探しているようだった。
すると先ほどの爆発とは相反する冷静さの声が聞えた。

「凄まじいが、当たらなければ意味は無い。」

目をやると火災と土塊の雨で崩れ落ちた家の屋根に青年が立っていた。
巨人が振り向くより早く青年が青い炎を帯びた刀を振る。
切り捨てられた青い炎の固まりが巨人に襲い掛かる。
青い炎が巨人に衝突した瞬間に拡大して巨人を包み込んだ。

Ugaaaaaaaaa!

巨人が全身を包む炎を振り払おうとするが効果は余り無いように見えた。
青年は屋根から飛び降りて炎に包まれている巨人に向って走った。
苦しみもがいている巨人の股の間を走りぬく際に足の健を切り裂く。

Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!

立つことも出来なくなり倒れる巨人の切られた傷口から更に濃い青い炎が広がる。

それは正に地獄絵図だった。


沈黙が訪れた後に安全を確認した私は土の雨宿りに使っていた建物から出た。
そして目撃したのは、跡形も無く炭となった巨人の亡骸を表情がなくとも物悲しげに見つめる青年だけだった。