私は一心不乱に走っていた。
きっと本能的に理解していたのだろうと思う。
後ろから迫る何かに捕まれば命はない事を。

私と同じ様に逃げていた人は沢山いた。

いたのであった。

そのほとんどが殺された。

家には火を投げ込まれた。
木造建築が立ち並ぶ小さな村では一軒の家屋の火事が村を包む業火へと変化するのに十分とかからずに広がった。

「はぁ!はぁ!はぁ!」

私が走る道の両脇に並ぶ家は火に包まれ、道の中央を走っていても火の熱を感じて体は汗を放出する。
その熱で体が燃えるような錯覚に陥る。
周囲にはまだかろうじて生きることが出来ている人たちがいた。
でも全員が女性や子供、
今追いかけている奴にはどう足掻こうと適わない。

私達には逃げるしか方法が無かった。

ドスン、ドスンと地響きのような足音と共に巨人が火に照らされて現れる。

私の数倍はあろう背丈を持つ巨人は規格外の大きさの斧を軽々しく持ち上げる。

巨人が持つ斧には村人の血が滴り足元に池を作っていた。

巨人が斧を高々と掲げて大地へと叩きつけた。
叩きつけた衝撃で大地が震えるのに呼応してズザザザ、と信じられないことに私達の行く先に土が盛り上がって数メートルの土壁が出来て上がった。

「なに?これ!」
「何で!?」

不意に起こった天変地異により逃げ道を失ったあたし達は思考と行動を停止させていた。
一人の女が土壁を叩いてみても巨壁がブレもせずにそこに存在していた、幻ではなかった。

ドスン、という音で覚醒した私達が振り無と燃える家の側壁と土壁の袋小路に悠然と巨人が立ちはだかっていた。

Ugaaaaaaaha!!

文字にならない叫びを上げた巨人に私は例えようの無い恐怖心を抱いた。

ブン!

巨人がいつの間にか斧を振り下ろしていた。その瞬間に隣にいた女の体は真っ二つにされていた。

「きゃぁぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁ!」

その様をまじまじと見せられた者達が足元から巨人から逃げるように一斉に散った。
しかし巨人は目だけで散った者達を逃さずに追いかける。

「ひ、ひええぇ。」
「助けて!」

逃げるものたちを追う為に後ろを向いて巨人がその巨体からは信じられない俊敏さで追いつくと斧を横へ振りぬくと逃げていた者達を一掃する。
建物が壊れるのと同時に上半身を失った体は次々と倒れていった。
残された私はと言うとマヌケにも逃げる者達と一緒に走るつもりが、拳ほどの大きさの石に躓いていた。
そのおかげか巨人はこける私には目もくれずに逃げる者達を追いかけて飛び越えていったおかげで難を逃れていた。

生き残ったのは私だけ・・・しかし

巨人は斧についた血を振り払うとゆっくりと私の方に振り向いて目が合った。
巨人の表情には多量の憤怒と少しの哀愁が表われていた。
逃げた者達が一瞬で殺された事と目が合った事でアタシは腰が抜けてしまって身動き一つ取れなかった。

「ど、どうして、私達を。」

苦し紛れの質問が聞こえていないのか、それとも聞いても答える気が無いのか。

巨人は目の前に立ち尽くして目標を定めるとゆっくりと斧を振り上げた。

あぁ、死ぬんだ。

私は逃げるのも諦めて目を瞑った。

暗闇が支配する世界でシュッと風を切る音がした。

ガギィン!

その後の音は肉に斧がめり込む音でも血が吹き出る音でもない金属と金属がぶつかり合うすさまじい音がした。
数秒経っても何の変化も無いことに疑念を抱いて私は目をゆっくり開いた。

私の前に見知らぬ男が立っていた。