「この世には呪われた武器がある。」

そう口火を切ったソラは坦々と語り始めた。

「悪意に満ちた武器、
それは戦争の引き金になった武器、
悲劇の根源たる武器。
主君を切った刀や一国の王を貫いた槍、英雄を射った弓。
その武器は後に戦乱と災厄を招いた。」

一切の反論を許さずにソラは語っていた。

「それらの武器には魂が宿る。その魂は生への執着や無念、なお深く色濃く残る憎悪に染まっている。それらが天変地異を引き起こす強大な力となる。」

聞かされた事実に言葉を失うアタシだったがソラの目は至って真面目だった。

「先ほどの巨人の大地を震わす力や俺の青い炎のような天変地異を引き起こせる力をな。」

咄嗟に巨人の斧で引き起こされた土壁と爆発を思い返した。

「そして魂が武器を作る様に魂が武器を育てる。その武器で人を殺せば力が増大する。巨人は自分の武器を育てる為にミコトの村の人間を殺したのだろう。」
「そんな、そんな理不尽があっていいの!」

怒りに言い放つとソラは諦めを含んだ声で返した。

「あってはならない。しかしある以上は仕方ない。」
「・・・ソラも自分の武器を育てるために人を殺すの?」

静かに質問するとソラは苦々しくも答えてくれた。

「そんな事はしない。いや、出来ない。」
「どうして?」
「確かに人を殺せば武器は強くなる、だが同時に呪いも強くなる。」
「呪いって、具体的に何なの?」
私が質問するとソラは辛そうに顔をゆがめながら黙ってしまった。
そしてしばらくすると細々と言葉を綴った。

「具体的には表現しにくい。あえて言うなら悪夢だ、眠れば悪夢に苛まれる。まともに寝ることはない、一番の呪いは死ぬ事が許されない。」
「えっ・・・死ぬ事を許さないって、ソラって。」

言葉を飲み込めない私にソラは事実のみを伝えた。

「不老ではあるが不死ではない、現に巨人は死んだ。そして俺も生まれてから八十はとうに過ぎている。」。

ニヤリと笑うソラに驚きの表情を向けた。

「そんなおじいちゃんには見えないわ。」

素直な感想を言う私にソラは自身の体を指差した。

「不老だからな、だが切られれば出血し、」

自身の腕を手刀で切る真似をする。

「殴られたら骨折する。」

自身の顔を殴りつける真似をする。

「ゴホッゴホッ、風邪にだって罹る。」

ワザとらしく咳き込むソラの緊張感の無さに少しの笑みを浮かべた私だったが不意にソラは言葉を濁した。

「だが、殺されるようなことがあれば、」

その次の言葉が出てこないソラに静かに聞いた。

「どう、なるの?」
「今度は自分自身が武器に吸収される。」

唐突の台詞に言葉を失った、その私に変わらぬ声でソラは語りかけた。

「延々と武器の中で憎悪にまみれ、終わらぬ苦痛に苛まれる。いわば地獄だ。」

想像も出来ない苦行を想う私にソラは自嘲気味に呟いた。

「生きているうちも眠れぬ地獄を味わい、死ねば本当の地獄が待っている。」
「・・・そんな、」

やっとの事で一言を呟くことのできた私にソラは達観したように言い捨てた。

「天変地異の力を奮う代償には安すぎるぐらいだ。」

だろ?と同意を求めるソラに何も言えなかった。

「それで何で、天壌院に?」

話の矛先を変えた私にソラは親切に教えてくれた。

「その運命を変えるためだ。」

首を傾げると大切そうにソラが一つの単語を口にした。

「禊。」
「・・・ミソギ?」

言葉の意味と理由が分からずに反芻した。

「百年に一度だけ天壌院の巫女が穢れた武器を浄化する、それが禊だ。」

丁寧な説明に無理やり納得したアタシは残るわだかまりをソラにぶつけた。

「武器を浄化するって?」
「武器は力を失って、俺も元の人間に戻る。その時に何が起こるかは解らないが。」
「そのために?」
「俺はこの悪夢から解放されたいだけだ。」

その一言がソラの、彼の本心であると確信した。

「そしてその禊の契機まであと三日、非常に身勝手ではあるが案内してくれないか?」
「いいわよ。」

最初の命令口調から柔らかくなったソラに私は快く承諾した。
それが意外だったのかソラは私の顔を見ながら聞き返してきた。

「いいのか?」
「何よ、不服なの?」

意図的かソラは顔を隠して戸惑いながら聞いてきた。

「ミコトの家族はあの巨人に殺されたんだろう?」

そう聞かれたとき、一瞬ぽかんとしてソラの顔をまじまじと見やった。
何も言わない私に同情に満ちた目を向けていた。それを見てソラが勘違いしていることに気付いた。
座りなおして私は強く燃え続ける焚き火を見つめた。

「・・・この村に私の家族はいない。」

言うとソラは驚いて目を見開いてもかまわずに話を続けた

「十六の時に売られちゃったから。だから家族もそうだけと私にとって大切な人はいないから。」
「そう、なのか。」

言ったアタシよりも聞いた彼のほうが気まずいように焚き火をいじっていた。先程の勇ましい戦闘と違った子供らしさに微笑んだ。

「村が潰されちゃって当ても無いし、ソラと行ったほうが楽しそうだしね。」
「なら。もう寝たほうがいい。行くのなら明日は大変だからな。」
「うん、解った、ソラ。」

アタシが微笑むと困ったようにソラは目を逸らして横になった。