巨人の死を看取った青年がゆっくりと刀を鞘に納める。
僅かに刀芯に残った青い炎が鞘をチリチリと燃やて消えてしまった。
今までの目を疑いたくなるような光景に言葉を失っていると青年が何時の間にか目の前にいた。

「大丈夫か?」
「は、ひ!」

後ずさる私を不審な目で見やる青年はゆっくりと確実に伝わるように質問した。

「君、天壌院の場所を知っているか?」
「へ?」

思いもよらない質問に少しの空白と脳裏に豪勢な門が浮かぶ。
返事をしない私に聞えていないのかと思ったのか青年は音量を一段上げて問いただした。

「天壌院という寺院だ、知らないか?」
「えっと、知っていますけど・・・。」

段々と声が小さくなっていく私に対して青年はジッと睨みつけた。
その視線に込められた意図に気付いて咄嗟に天壌院がある方向へと指した。
青年が指差した暗闇の先にある山を見やった。

「道案内してくれないか。」
「は?」
「できればすぐにでも行きたいのだ。」
「ちょっと待って。」

不審そうな顔をする青年に対して私は恐怖により震える声を絞り出した。

「せ、説明してよ!なんなのあの巨人は?青い炎は何?どうしてアイツは私達の村を襲ったの?」

一旦、声が出始めると自分でも不思議なくらいにスラスラと質問が湧き出る。
怒涛の質問攻めに何の反応も示さない青年と息を荒げるアタシの間に無情にも冷たい雨が降り始めた。
二人して空を見上げると、青年がボソッと呟いた。

「説明すればよいのだな?」



私と青年は唯一、火災を免れた馬小屋にいた。
肝心の馬は巨人の襲来にいち早く反応して逃げ出していた。
その中で火を起こすと廃墟と化した村から必死に思いでかき集めた食料を火で炙っていた。
青年は串にさした魚をグイッと差し出した。

「食うか?君、」
「ミコト、」

魚を受け取りざまにアタシが自分の名前を言うと青年は意図が解からないといったように顔を傾ける。

「何のことだ?」

青年の表情をそのままの言葉にして返されてもめげずに私は言った。

「私の名前はミコト、貴方の名前は?」

すると今の今まで表情らしい表情を浮かべなかった青年は戸惑いという表情を浮かべた。

「名前、・・・勝手に呼んでくれ。」

自分の中で勝手に結論付けた青年はぶっきらぼうに言い放った。

「・・・名前ないの?」

そういうと青年は黙りこくってしまった。
それを答えに受け取って青年をマジマジ観察し始めた。
青年の黒色だと思っていた髪はよく見れば深緑に近い色をしている。
顔を覆い隠そうとするかのように黒いマントで全身を包んでいて、傍から見れば浮浪者であった。
ただ青年の持つ黒焦げの刀が異様な存在感を発していた。
今、銀の刃を隠している鞘も柄も黒く焦げて使い物になら無そうに見えるものの、何か引き付けられる力を秘めているように思えた。

その刀を振りかざす青年の姿が脳裏に浮かび、その背後には先ほど見た青い炎が渦巻いていた。
その青い炎は、
そうまるで、・・・。

「ソラ。」

口から漏れ出たその単語に青年も、何より自分自身が驚いた。

「空?」

単語を反芻する青年は不思議そうな顔をしてアタシの顔を見た。
意外と端正なその顔に不意にドギマギして私は補足した。
そういえば初めて青年の顔をちゃんと見た気がする。

「貴方の名前はソラ。良いでしょ?」
「どうして?」

微かに声が震える青年はアタシに聞いた、まっすぐに。
その問いに私もまっすぐ正直に答えた。

「貴方の火が、空色だったから。・・・もしかしてイヤだった?」
「いや、別にかまわないが、」

そういうと目を逸らして焚き火をぼんやりと見つめ始めた。
一応の自己紹介を終えたと思い青年に改めて問いただした。

「それで説明してよ。貴方の青い火は何?どうしてあいつは私達の村を襲ったの?天壌院で何をする気なの?」

青年は目線も送らずに黙っていた、アタシはただ青年を見つめていた。

「説明しなければ、」
「案内しないわよ。」

強く言い切るとソラは深くため息をついた。