The Boogeyman(2023 アメリカ)
監督:ロブ・サヴェッジ
脚本:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ、マーク・ハイマン
原案:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ
原作:スティーヴン・キング
製作:ショーン・レヴィ、ダン・レヴィン、ダン・コーエン
撮影:イーライ・ボーン
編集:ピーター・グヴォザス
音楽:パトリック・ジョンソン
出演:ソフィー・サッチャー、クリス・メッシーナ、ヴィヴィアン・ライラ・ブレア、デヴィッド・ダストマルチャン
①キングの原作を元にした秀作!
母を亡くし、悲しみに沈む女子高生のセイディ(ソフィー・サッチャー)と妹のソーヤー(ヴィヴィアン・ライラ・ブレア)。セラピストである父ウィル(クリス・メッシーナ)はある日レスターという男の訪問を受け、子供たちが次々と変死を遂げたという話を聞かされます。その夜、ソーヤーがクローゼットに潜む怪物を目撃します…。
「クローゼットに潜む怪物」という、アメリカの伝統的な怪談を真っ向から取り上げたホラー映画。
なかなかストレートな、王道のホラー映画でした。面白かった!
原作はスティーヴン・キングの初期短編。
1973年発表というから、デビュー長編「キャリー」(1974)の前ですね。本当に最初期、習作と言える時期の短い作品。
「子取り鬼」のタイトルで短編集「深夜勤務」に収録されています。
なので、名を借りただけで、あまり原作に関係ない感じかな〜と思ったんですが。
(キングの場合そういう映画も多いので!)
意外としっかり原作準拠でした。映画の中では、父ウィルがセラピストとしてレスターの話を聞く部分が原作。
セイディなどのキャラクターはオリジナルで、映画の大部分は原作を元に自由に膨らませたものになっています。
②原作エッセンスの活かし方
映画の大半は自由にエスカレートして展開するのだけど、原作のエッセンスの活かし方が上手いと感じました。
原作小説は、精神の均衡を崩したレスターの語りで語られます。
なので、話の中に出てくるブギーマンは本当とも、妄想ともつかない感じになっています。
ていうか設定自体がカウンセリングなので、いかにも妄想のように聞こえるのですが。
キングの迫真的な筆力によって、もしかしたら本当かも…ブギーマンは本当にいるのかも…と思わせるのが、ゾクっとさせるこの短編のミソと言えますね。
そういう構造なのだけど、もう一度ひっくり返して、やっぱり妄想かもしれない…自分の子供を次々殺したのはこの父親なのかもしれない…と思わせる含みも作ってあって。
「本人も気づいていないかもしれない狂気の深さ」も垣間見えるんですよね。そちら側でも、ゾクっとする。
その辺は後の「シャイニング」にも通じるところですね。超自然の怖さと人間の怖さが、絶妙なバランスで提示される。
映画でも、だんだんお父さんのウィルが怪しく見えてくる。
妻の死を受け入れられず、娘たちに心を閉ざしている…という背景もあって、彼を焦点としたサイコホラーにも見えてくるんですよね。
ミステリ的な趣もあって、上手く気分を導入する牽引力になっていました。
③モンスターバトルの満足感!
そういう深読みができる奥行きが、キングの小説に深みをもたらしているところですが。
一方で、それに終わらないのもキングらしさなんですよね。文学的には終わらない。
この最初期の原作短編も、虚実あやふやな展開を吹っ飛ばすような急展開の超自然ホラーのオチが来て、なんじゃこれと思わせてくれます(褒め言葉)。
映画も、途中から一気にモンスターホラーに舵を切ります。それはもう、潔いくらいに。
美少女が妹を守って闇に潜むモンスターと戦うバトルものの楽しみで、後半はどんどんエスカレートしていくことになります。
ブギーマン、結構強敵なんですよね。何者だかよくわからない、情報が少ないので。
あまり物理的な存在でないふうなんだけど、結構物理攻撃してくるのでね。タチが悪い。
言葉は通じないし、躊躇なく殺しに来るし、弱点も特にないように見える。
モンスターが強いので、しっかりと怖い。
途中まではJホラーとか幽霊モノみたいな感じなのだけど、最後の方はほとんど「クワイエット・プレイス」みたいな感じになって。
クライマックスは力技の真っ向バトルで、爽快感も味わえます!
④不満だったのは…
ドラマ的な部分では、セイディの学校生活が描かれるのですが。
これがなかなか胸糞悪いものになってます。
あの友達ヅラしてるいじめっ子たち、すげえムカつきましたね。お母さん死んだのに笑うとか、相当殺意が湧きましたよ。
セイディはなんでか、友達に恵まれてなくて。
あの親友って感じの子も、かなりタチ悪いんじゃないかなあ…と思いました。あの子が元凶になってることが多い!
中盤、ケイティがわざわざいじめっ子たちを自宅に呼んでパーティーするところが、かなりキツかった。見てられなかったです。
女の子があんな感じで「歩み寄りを強いられる」ことが、向こうの学校だと多いのかな。
いじめっ子連中、あの親友ぶってる子も含めて、全員ブギーマンに血みどろにされろ!と思いながら観てたのだけど。
そうならなかったのが、本作最大の不満点でしたね。せっかく見せ場のチャンスだったのに、なんで殺さないんだブギーマン!
原作短篇はこの文庫に収録ですが…絶版みたいですね。
↓まさに玉石混淆のキング原作映画たち。