Creepshow(1982 アメリカ)

監督:ジョージ・A・ロメロ

脚本:スティーブン・キング

製作:リチャード・P・ルビンスタイン

製作総指揮:サラ・M・ハッサネイン

撮影:マイケル・ゴーニック

特殊メイク:トム・サヴィーニ

音楽:ジョン・ハリソン

出演:E・G・マーシャル、テッド・ダンソン、レスリー・ニールセン、ジョー・ヒル、トム・アトキンス、ハル・ホルブルック、エイドリアン・バーボー、スティーブン・キング、エド・ハリス

 

①2大ホラーの帝王揃い踏み…だけど。

本作は1982年公開の、オムニバス形式のホラー映画。

監督は「ゾンビ」「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」などのジョージ・A・ロメロ

脚本は「シャイニング」「IT/イット」などのスティーブン・キング

正真正銘、2大「ホラーの帝王」揃い踏みです。まさに最強タッグ

だからこれはもう、最強のホラー映画ができるはず!と誰もが期待したのです…が。

 

本作に関しては、キングの悪い面が全開になっちゃってますね。

キングって、基本的に悪趣味なB級をこよなく愛する人なんですよね。キングの小説も、あえてチープな、本来ならまじめに取り扱われないような、子供じみたテーマを取り上げていることが多い。

それを、超弩級の文章力と創造力で、人間の本質まで届くような分厚い小説に仕上げてしまう…というのが、小説家スティーブン・キングの作風で。

 

だから本作でオリジナル脚本を書くにあたって、キングはそれこそ張り切って、悪趣味とB級に全力投球しているようです。

キング原作の他の映画にも言えることですけどね。小説なら書き込みで分厚くなるからいいんだけど、映画だと本当にただただB級に終わっちゃうんですよね。

 

そのために選んだモチーフが、1940年代に流行したホラーコミック。怪物や犯罪をテーマに、血生臭い残酷さや俗悪さを呼び物にした漫画雑誌です。

各エピソードを、雑誌に掲載された漫画に見立て、アニメーションで間を繋いでいく。その構成は独特で、面白いんですけどね。

 

ショックシーンのたびにガガーン!とバックに効果線が出て、漫画のコマになるのはなあ…。

やっぱりチープだし、ふざけてるように見えるから、怖さはまるでなくなっちゃうんですよね。悪ふざけの冗談ムードに呑まれちゃう。

まあ、そこが本作の持ち味で、突き抜けた独自性とも言えるんですが。

 

②スティーブン・キングのノリノリ演技

プロローグは、少年がお父さんに漫画雑誌を捨てられる話。ゴミ箱に捨てられた雑誌がめくれて、各エピソードへと入っていきます。

ビリー少年を演じているのはスティーブン・キングの実子ジョー・キング。この人は長じてジョー・ヒルの名前でホラー作家になってます。

 

第1話「父の日」は死んだ父親が墓から蘇って家族を襲う、シンプルなゾンビ話。

生前も死後も嫌われ者である父親の醜悪っぷりが、キングらしい毒で描かれてます。

これは、キングはあえて古典的な、ステレオタイプなホラー状況を選んでいるようです。「昔のホラー漫画ってこんな感じ」というように。

家族の一人で、若き日のエド・ハリスが出てますね。まだ髪が長い!

 

第2話「ジョディ・ベリルの孤独な死」は、隕石を拾った農夫の体から草が生えてくるブラックコメディ。

主人公の農夫をスティーブン・キング自らが一人芝居で大熱演…大怪演してます。

本作は本当に、キング大暴走の映画です。

 

「メン・イン・ブラック」でヴィンセント・ドノフリオが演じた農夫のエイリアンは、明らかに本作のキングが元ネタですね。

キングはずっと後の「IT/イット THE END」でも楽しそうにノリノリで演技してます。ノリがいい人なんだなあ…。

40年近くの年月を超えて、見比べるのも一興。

③せめぎ合う「低俗」と作家的ツイスト

第3話「迫り来る潮流」は残酷な復讐譚。レスリー・ニールセンが妻とその浮気相手に復讐するサディストを演じてます。

浮気の代償などで、残酷な拷問を受けるハメになる…というのもキングの得意なパターン。

砂浜に首まで埋められて、満潮を待つ…という残酷さは、いかにも作家的アイデアで印象に残ります。

ちょっと残念なのは、後半が凡庸なゾンビの復讐モノになっちゃうところかな。第1話とかぶってるんですよね。

 

第4話「木箱」は、人を食う怪物が入った木箱をめぐる騒動。怪物の造形が秀逸で、5本の中でも見応えあるエピソード。

ただのモンスターものに終わらず、恐妻家が悪妻を怪物に食わせて始末しようとするブラックな話にしているのがキングらしいところです。

皮肉なユーモアという点で、この辺りでようやくロメロらしさを感じるところもありますね。

 

ここがね。両面あるところだと思うんですよね。

短編小説的なツイストがあって、面白いという面もありつつ、純粋に怪物の恐怖を味わいたいホラーとしては、興味が違うところに逸れていっちゃうもどかしさもある。

怪物の怖さより、ブラックジョークの面白さが前に出てしまうのを、面白いと見るか、残念と見るか。

 

この辺、脚本書いてるキング本人も、読み捨て漫画雑誌的な低俗を狙う部分と、作家的にツイストを効かせちゃう部分とが、自分の中で整理し切れてないんじゃないかな…という気がします。

④そして悪趣味の極地へ

で、第5話「這い寄るやつら」です。コレの印象が強烈で、良くも悪くもそれまでの印象が吹っ飛んじゃう感があります。

これはもう、何より、映画でこれほどの大量のGが映し出されたことは前代未聞だし、この先もおそらくないんじゃないかな…という。

これもロメロより、キングのニヤニヤした顔が目に浮かびますね。映画で出来る限りの悪趣味を極めてやろう、お上品な奴らに悲鳴をあげさせてやろう…という。

 

「スタンド・バイ・ミー」で、「ゲロ吐きで復讐する少年の話」が出てきたじゃないですか。アレですよね。

これはもう、ホラー映画云々以前に生理的にダメな人が大勢いそうだし、もし今間違って映画館でやって、デートとかで観に行ってしまったら、破局するカップルが大量に発生しそうです。

 

エピローグはビリー少年が再び登場して、漫画を捨てた父親に復讐。

ゴミ清掃人で、トム・サヴィーニが出てます。サヴィーニも出るの好きですね。

キングといい、サヴィーニといい、どうしてこうも底辺ブルーカラーみたいな役が似合うんでしょうね。キングなんて超セレブだろうに。素晴らしい。

 

印象に残る音楽のジョン・ハリソン「死霊のえじき」でも音楽を担当してますが、ロメロとの縁の最初は俳優としてで、「ゾンビ」「耳にドライバーを差し込まれて絶命するゾンビ」を演じています。これもなんか凄いな。

 

というわけで、キング親子が悪ノリ暴走して、とことん悪趣味を極めつつ、でもどこか作家的なひねりも効かせてしまっていて、ロメロらしい皮肉なユーモアも漂いつつ、時代のヒーローだったトム・サヴィーニが活躍して、ジョン・ハリソンもいい仕事をしている…という、ある種ごった煮のような、独自性という面ではピカイチの作品に仕上がっている本作です。

こうやって、割と辛辣に書いているようですが、なんのかんの言いながら何回も繰り返し観てしまっているんですよね。ある種の偏愛映画と言えるのかな。

 

「Gの件」があるので、うかつに勧められる映画じゃないですが。

ヘンなもんが見たい人は、一度試してみてもいい…のではないかな。