Christine(1983 アメリカ)
監督:ジョン・カーペンター
脚本:ビル・フィリップス
原作:スティーヴン・キング
製作:リチャード・コブリッツ、ラリー・J・フランコ
製作総指揮:カービー・マッコレー、マーク・ターロフ
撮影:ドナルド・M・モーガン
編集:マリオン・ロスマン
音楽:ジョン・カーペンター、アラン・ハワース
出演:キース・ゴードン、ジョン・ストックウェル、アレクサンドラ・ポール、ロバート・プロスキー、ハリー・ディーン・スタントン
①スティーヴン・キング+ジョン・カーペンター
映画化作品が多いスティーヴン・キングの小説ですが、非常に個性的な映画監督に恵まれてる印象があります。
ブライアン・デ・パルマ、トビー・フーパー、スタンリー・キューブリック、デヴィッド・クローネンバーグ、ジョージ・A・ロメロ……。
カルト人気が高い監督の多くが、一度はキング作品の映画化をやっている。特に初期はそんな印象が強いですね。
上記の中でも、デ・パルマの「キャリー」、キューブリックの「シャイニング」、クローネンバーグの「デッドゾーン」は傑作に数えられていると思います。
そんな人気監督による映画化の一つに数えられるのが、ジョン・カーペンターの「クリスティーン」ですね。
「クリスティーン」は1983年出版の、キングの8作目の長編小説。
出版以前から映画化が動き出していて、小説出版と同じ年にはもう映画が公開されています。
ジョン・カーペンターとしては、「ニューヨーク1997」(1981)、「遊星からの物体X」(1982)に続く作品。
キングのネームバリューが優先の企画だと思うけど、しっかり「John Carpenter's Christine」というタイトルになっていて、タイトルフォントや音楽の面でもジョン・カーペンター印の映画になってるのはさすがです。
なかなかいい時期の映画だと思うんだけど、それほど顧みられることは少ない…目立たない作品であるのは否めないのかな。
「車が意思を持って襲ってくる」という原作のプロットは小説としてはなかなか派手なんだけど、映画にしてみると車が人に突っ込んでくるシーンばかりになっちゃうので。
ホラー映画としては、ビジュアル的な派手さに欠けるところがあるのかもしれません。
②何よりもクリスティーンの魅力!
スティーヴン・キングは特に初期には、「非常にB級的な、古典的なホラーのアイデアを、現代のプロットと詳細な書き込みでリアリティを持たせて、蘇らせる」というコンセプトのものが多くなっています。
超能力、吸血鬼、幽霊屋敷、世界の終わり、死者の蘇り、動物パニックモノなど。
そこから、あらゆるモンスターが集合して初期の集大成となる「イット」に向かっていくわけだけど、その過渡期にあたるのが「クリスティーン」でしょうか。
「クリスティーン」もアイデアは古典的。悪霊が取り憑いて、オーナーに不幸をもたらす呪われた自動車……という、怪談話でよくあるタイプのネタですね。
1958年型プリマス・フューリーが意思を持って人を襲うという、ほとんど一発ネタみたいなアイデアを、若い高校生の生活の枠組みの中で分厚く描いていて、青春小説の魅力のある作品になっています。
恋愛、車、ロックンロールという、アメリカの青春モノの定番要素。そこに、ボコボコになっても自動復元して襲ってくる車という、ある種マンガ的な恐怖をぶっこんで、エンタメとして盛り上げてくれる。この時期のキングらしい、豪快な小説になっています。
原作は例によって詳細なディテールまで書き込まれて長大なんですが、カーペンターはざっくりと刈り込んで、身の丈にあった「B級ホラー」の枠組みの中に落とし込んでいます。
劇中で大雨の中のドライブインシアターが出てきて、誰も映画なんか観てなくて車の中でペッティングに没頭…というシーンがありますけど、そういう上映にも似合いそうな、極めてシンプルでストレートなホラー映画。
人間ドラマの部分は正直あまり盛り上がらないんだけど、焦点が当たってるのはやっぱりタイトルロールでもある車、クリスティーンなんですね。
主人公アーニーが惚れ込む、赤いボディのクリスティーンの美しさを、まさに女性を撮るように艶めかしく撮っていく。
そして、ヘッドライトを目のように光らせて、闇の道路を突っ込んでくるビジュアルの魅力。
ボディをボコボコにすることも少しも躊躇せず突っ込んで、狙った相手を押しつぶす。
そして、そのボコボコになったボディが、ひとりでに復元していく面白さ。
白眉は、ガソリンスタンドでチンピラたちを追い詰めるシーン。炎に包まれたクリスティーンが、ボーボーと燃え盛りながら闇の中を突進してくる!
まさに、ヘビメタのジャケットなんかでありそうな、地獄の車!
このシーンの怖さ、美しさはなかなかオリジナルなものがあると思います。
ホラーとしては、そんなに残酷なシーンがあるわけでもないし、「車に襲われる」というのも見せ場が作りにくい感もあって。(車が入ってこれない逃げ場はいくらでもありそう)
でも本作に関しては、物言わぬクリスティーンの「金属」の魅力。へこんだバンパーがバン!と戻って金属の光沢を取り戻すような、金属フェチとも言えるディテールが、やはり独特の魅力なんじゃないかと思います。
③歪んだ成長の寓話、でも焦点はあくまでも車
プロットの基本も、そうしたフェチ的な感情になってますね。
主人公アーニーがクリスティーンに魅了され、偏愛してしまうのは、もう理屈じゃない。ただ、一目惚れとしか言いようのない感覚。
理屈じゃないから、始末も悪いわけですが。死や不幸を撒き散らしても、それでもそこから離れられない。
序盤で分厚いメガネをかけ、マザコンでおどおどし、いじめっ子にも抵抗できないアーニーは、廃車状態のクリスティーンに出会って、それを手に入れるために、初めて親に反抗することになります。
それまで自分の意思を持たなかった少年が、何かに魅了され、激しく打ち込み、一つのことに熱中して、そして自分自身も変わっていく。
だんだん自信を身につけていって、見た目にもかっこよくなっていき、彼女もできて、イケてる男になっていく…。
それ自体は、決して悪いことじゃないんですよね。なよなよしていた少年が、本当にやりたいことを見つけて熱中し、努力し、やり遂げて、成長する話だから。
観ていても、アーニーの方に感情移入するようになっている。親の支配下にあった少年が、自立することを応援させられるんですね。
でも、そこで終わらないのがキングの意地悪なところ。
せっかく見つけた「本当にやりたいこと」が、致命的に間違っているということも、世の中ままある話であって…。
親の支配をやっと脱して自立したと思ったら、もっとタチの悪い性悪女に捕まってしまってる。クリスティーンはそんな構図ですね。
親友も、家族も、彼女も、何もかもさておいて、夢中になって身を持ち崩してしまう。本作はそういう寓話ではあります。
…なんだけど、基本的にはアーニーの悲劇にも淡白な描かれ方なんですよね、本作は。
クリスティーンが多くの人を殺していく過程にもまるっきり関与しないし、クライマックスでもアーニーは気がついたらいつの間にか死んでる感じ。
常に焦点が当たるのはクリスティーン!ということで、あくまでも車が主役の映画でした。
あ、あとはハリー・ディーン・スタントンがいいですね。いつもの通りではあるんだけど!