この記事は、
の続きです。
これは、「IT/イット THE END ”それ”が見えたら、終わり。」について、映画の時系列に沿って、細かい枝葉の部分をあれこれ検証する記事です。従って、結末までネタバレしています。
記事の性格上、前編の「IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。」のネタバレもしています。また、原作小説との比較も行なっているので、原作のネタバレもあります。それについても、ご了承ください。
ニーボルト・ストリートの家
シルヴァーでニーボルト・ストリートの家に着いたビルは、一人で乗り込もうとします。しかしそこにべバリー、ベン、リッチー、エディ、マイクが駆けつけます。
ビルは「来るな」と言います。「僕がまいた種だ。僕が皆を荒れ地に誘ったせいで、みんなの呪いが始まったんだ」
皆は「ルーザーズは一つだ」と言って、ビルと一緒に行くことを示します。
これによって、全編に起こったルーザーズ・クラブの仲間割れが27年ぶりに解消され、全員の意志が一つになりました。
リッチーの決め台詞は、「Let's kill this fucking clown./このくそったれピエロを殺そう」。
家に入った6人は、ドアによって分断されます。
ベン、マイク、べバリーと、ビル、リッチー、エディ。
ベンが痛みを訴え、腹を見ると、ヘンリーが刻んだ「H」に続いて血の文字が刻まれていきます。
刻まれたのは「HOME AT LAST/やっと帰ってきた」
鏡を見ると、ペニーワイズがナイフでベンの腹を切り刻んでいます。
べバリーが鏡を割るとペニーワイズは消え、ベンの傷も消えます。
ビル、リッチー、エディは、冷蔵庫の中から子供時代のスタンの生首が転がり出てくるのを見ます。
スタンの首は、「僕の死はきみのせいだ」とビルに言います。
「冷蔵庫にスタンの首」は、原作にもあるシーンです。皆が図書館のマイクの部屋に集合した際、飲み物を出そうと冷蔵庫を開けたマイクは、スタンの首が入っているのを見ます。
しかし、この後に続く強烈なシーンは映画オリジナルですね。
映画ではスタンの生首はメキメキと足を生やし、スパイダーヘッドとなって自ら走って襲いかかってきます。
これは「遊星からの物体X」。悪名高いノリス・モンスターのシーンの完全再現です。
アンディ・ムスキエティ監督は「ジョン・カーペンター監督からは大きな影響を受けた」と語っています。
「遊星からの物体X」のノリス・モンスター
スタンのスパイダーヘッドは天井へ逃れ、頭上から飛びかかってリッチーの顔面に絡みつきます。
今度は、「エイリアン」ですね。天井から落ちてきて、顔に食らいつくのはフェイスハガーです。
ビルがスタンを引き剥がそうとし、エディに落ちているナイフを拾うよう求めますがエディは怯えてしまって動けません。
じきにベンが飛び込んで、スタンをリッチーから引き剥がします。スタンのヘッド・スパイダーは廊下を逃げていきます。
ビルはエディに「見殺しにする気か!」と叫びますが、エディは「怒らないでビル。怖かったんだ」としょんぼりです。
このエディの状況は、最後の彼の行動への伏線になります。
給水塔の下
地下室から井戸を下り、一行は地下水道に入っていきます。
そして、前編でペニーワイズと対決した給水塔の下へ。前編にあった大量の死体や、サーカスの小屋のようなものはなく、下水の湖の中央に島がぽつんとあるだけです。
島へ向かう途中、べバリーが魔女に襲われ、水中に引きずり込まれます。
皆が助けに次々飛び込みますが、エディだけはまた動けません。これも、前のシーンと同様ですね。
べバリーを助け、6人は島の上へ。
島の中央には、丸い木の扉があり、そこには奇妙な赤いマークがあります。
これは原作に登場する印で、イットの最後の巣窟への扉に描かれているマークです。
これは原作では、見る人によって違うものに見えるという特徴を持っています。
子供時代の7人には、以下のように見えました。
ビルには、紙の船に。
スタンには、鳥、たぶんフェニックスに。
マイクには、フードをかぶった顔(たぶんブッチ・バワーズ)に。
リッチーには、眼鏡の奥にある二つの目に。
べバリーには、拳を握った手に。
エディには、感染症にかかったホームレスの顔に。
ベンには、ぼろぼろになった包丁の山…彼が見たミイラ男が巻いていたもの…に。
大人時代になると、そこにたどり着いた5人(原作ではマイクがヘンリーにやられてリタイアしているので)にはこう見えます。
ビルには、妻オードラの切断された首に。
リッチーには、ポール・バニヤンの顔に。
べバリーには夫トムの顔に。
エディには、毒薬の印のドクロマークに。
ベンには、ヘンリー・バワーズの顔に。
マークの扉を開けると、更に下へと穴が続いています。
マイクから順に入っていきますが、エディは、自分が行けば足を引っ張ると尻込みします。
リッチーは「前回奴を倒したのは? ヘンリー・バワーズを倒したのは?」とエディを元気付け、べバリーは「これで化け物を倒せる」と鉄の棒を渡します。
「本当に?」「ええ。そう信じれば」
チュードの儀式
扉から更に下に降り、狭い割れ目の洞窟をくぐると、いよいよ最後の部屋。イットの巣窟にたどり着きます。
それは、マイクがビルに見せたインディアンの「チュードの儀式」のビジョンに出てきた光景です。
何かが落ちて跳ねた飛沫のような形の岩が、円形に並んでいます。
そして頭上には不気味な歯のある襞のような割れ目があって、その向こうに3つの輝く死の光……イットの真の姿があります。
数百万年前から、この場所は街の下にあったとマイクは語ります。
隕石もしくは宇宙船の落下とともにイットはここに落ちて居座り、その上にデリーとなる場所が作られていったのでしょう。
足元には頭蓋骨が転がっています。これは、この場所までやってきてイットと戦い、そして敗れたもの……シャカピワー族の亡骸なのでしょう。
飛沫型の岩の中央にシャカピワー族の壺を起き、皆でそれを取り囲んで、チュードの儀式が始まります。
「奴が正体を現した時にだけ倒せる」とマイクは言い、リッチーは「ポメラニアンがいいな」と言います。ポメラニアンはしばらく後に登場します。
マイクは中華レストラン「JADE OF ORIENT」のマッチで火をつけ、一同は、散歩ツアーで手に入れた「大事な思い出の品」をシャカピワー族の壺に入れて燃やします。
ビルは紙の船。
べバリーは贈られた詩のポストカード。
ベンはべバリーにサインしてもらったサイン帳。
リッチーはゲームセンターのコイン。
エディは吸入器。
マイクは石合戦の石。
最後に、スタンが残した紙の帽子をエディが入れます。
一同は「光は闇になる」と唱え、イットの死の光は回転しながら降りてきて、シャカピワー族の壺の中に吸い込まれます。
マイクがすかさず蓋を閉めて、儀式は成功…と思いきや。赤い風船が膨らみ、破裂して、巨大なペニーワイズが現れます。
ペニーワイズは儀式が失敗した理由を教えてくれます。
「あれは偽薬だ」とペニーワイズは言います。「マイクは彫刻の第4面を見せなかった」
シャカピワー族の壺の、儀式を描いた絵の4つ目。それをマイクは、皆に見せる前に消してしまっていました。そこには、儀式が失敗してシャカピワー族が全滅するさまが描かれていたからです。
「敗因は勝てると信じなかったことだ!」とマイクは言います。「僕たちには拠り所が必要だった!」
でも、みんな怒ってますね。そりゃそうだ。
映画でのマイクはちょっと、いろいろ強引なところが目立ちますね。
壺からは再び死の光が舞い上がり、ペニーワイズは力を得て巨大化します。
「この27年、お前らを夢に見た」とペニーワイズは言います。「悲しかった。会いたかった。この時が来るのを待っていた」
これはもう、ペニーワイズのルーザーズ・クラブに向けてのラブコールですね。
もうほとんど、熱烈に愛していると言ってもいいような言葉です。
ペニーワイズは前編で子供時代の彼らに撃退され、その復讐をすることを待ちわびていた…わけですが、ここでの言葉にはそれ以上に強い感情を感じます。
簡単には倒せない好敵手を得て、ペニーワイズは本気で喜んでいるようです。「本気で、力いっぱい遊んでくれる」相手として。
そして今こそ、ペニーワイズは待ちに待った「ルーザーズ・クラブとの遊び」を開始しようとしています。
ペニーワイズ、遊ぶ①3つの扉
ペニーワイズが襲いかかり、一同はまたバラバラになります。リッチーとエディ、ベンとべバリー、ビル、そしてマイク。
リッチーとエディはペニーワイズに追われて逃げた通路の先で、3つの扉に出くわします。
前編にも出てきた、「NOT SCARY AT ALL/全然怖くない」「SCARY/怖い」「VERY SCARY/めちゃ怖い」の3つの扉です。
前編では、「怖くない」から開けていました。今回は裏をかいて、「めちゃ怖い」から開けてみます。
「私の靴はどこ?」という声。向こうから駆けてきたのは、下半身だけの女の子でした。
これは前編で行方不明になったベティ・リプサムの下半身。前編では、ベティの上半身だけが扉の向こうに出現していました。それとセットになるシーンですね。
リッチーとエディは「怖くない」の扉へ。そこにいたのは、小さなポメラニアンの子犬です。
かわいい子犬は、案の定グロテスクな犬の化け物に変身して、リッチーとエディは逃げ出します。
犬のモンスターは、「遊星からの物体X」に登場したドッグ・モンスターを思わせる造形ですね。
「遊星からの物体X」のドッグ・モンスター
ペニーワイズ、遊ぶ②ビルとジョージィ
ビルは子供時代の家の地下室へ。あの日の雨で、地下室は浸水してしまっています。
階段を降りてきた子供時代のビルと、暗がりに立つ死んでしまったジョージィを、ビルは見ます。これは、前編にあったシーンの繰り返しです。
ジョージィは、ビルを告発します。「ビリーのせいだ。本当は病気じゃなかった。遊びたくなかったから、仮病を使った。お前の嘘で、僕は死んだ」
原作では、ビルは確かに風邪をひいていたはずです。
映画では、どうやらビルはただ弟と遊ぶのが気が進まず、仮病を使ってしまったようです。確かに、よくある話でしょうね。仲のいい兄弟でも、時にはウザい時もある。
でも、ちょうどその時にジョージィが死んでしまったら。ビルの感じる責任感は、原作以上に厳しいものになりそうです。
排水口でのペニーワイズの言葉…「お前がいなかったせいだ、ビリー」はそういう意味だったんですね。
ビルはマイクの屠殺銃でジョージィの頭を撃ちます。これも、前編と同じ描写です。
ジョージィはペニーワイズの正体を現し、ビルは水中へ逃れます。
ペニーワイズ、遊ぶ③血のトイレと、土のクラブハウス
べバリーは、小学校のトイレに閉じ込められます。
前編で、グレッタのいじめを受けたトイレです。
ドアがノックされ、グレッタやミスター・キーン、ヘンリー・バワーズ、父アルビンらが次々とドアの隙間から顔を覗かせます。
「中から悪臭がする」とグレッタ。「ロイス・レインと同じ匂いだ」というのは、前編でビルたちがベンの治療キットを万引きするために、ミスター・キーンを引きつけた時の会話ですね。
べバリーがミスター・キーンの眼鏡をおだてて「クラーク・ケントそっくり」と言い、ミスター・キーンは「君はロイス・レインそっくりだ」と言ってました。ロイス・レインはクラーク・ケントの彼女ですね。
ヘンリー・バワーズは「Here's Johny!」と言ってますね。「ジョニー参上!」
これは「シャイニング」(1980)の超有名なシーン、ポスターやソフトのジャケットにも使われてる、「ジャック・トランスが斧で破ったドアの割れ目から顔を覗かせるシーン」で叫んでる言葉です。
普通に字幕で「シャイニング」を観てると、ジャックなのになんでジョニーやねん、と思ってしまいます。実はこれはアメリカの人気テレビ番組「The Tonight Show」で、司会者ジョニー・カーソンが登場する時の決め台詞なんだそうです。
また、ジャックという名前は元はジョンの愛称だったそうなので、「ジョニー参上!」で間違ってなくもないわけですね。
「Here's Johnny!」のシーン
ちなみに、原作者のスティーヴン・キングはスタンリー・キューブリックの映画「シャイニング」を忌み嫌ったことで有名です。
キングはことあるごとにキューブリック版映画への悪口を繰り返したので、「映画へのバッシングを自重する」ことを条件に、自身の脚本でテレビドラマ化を行いました。そのテレビドラマ版は高い評価を得ることはできなかったのですが。
アンディ・ムスキエティ監督によれば、キングも大人になって、今はキューブリックの映画も原作とは別物として認めているとのことです。
トイレには血が流れ込み、べバリーは全身血まみれになってしまいます。
まるでブライアン・デ・パルマ監督「キャリー」(1976)のシシー・スペイセクのように。「キャリー」はキングの処女長編です。
アルビン・マーシュが顔を覗かせ、「まだ俺のものだよな」と言います。べバリーは「違う!」と叫んでアルビンを蹴り出します。
ベンは、クラブハウスに閉じ込められます。壁が崩れて土が流れ込み、ベンは生き埋めにされようとしています。
落とし戸から見下ろすペニーワイズは、「出世して腹筋も手に入れた。でも中身はルーザーのままだ。孤独に死ね」と言います。
ベンは「冬の火」の詩を叫び、その声はべバリーに届きます。
べバリーがトイレのドアを蹴破ると、その先にはベンがいました。
べバリーは手を伸ばして、土の中からベンを助け出します。
ベンが詩の作者であったことを、べバリーはようやく思い出します。
イットの正体?
一同は再び、地下のイットの巣窟に戻ってきます。
マイクが襲われていますが、リッチーは「真実か挑戦か」ゲームでイットの気を引きます。
「お前の正体を知ってるぞ!」とリッチーは叫びます。「お前は真性のクズだ!」
イットはリッチーに正体=死の光を見せ、リッチーは自失状態になって「浮かんで」しまいます。
原語では、リッチーは「You're a sloppy bitch!/お前はだらしないビッチ(メス)だ!」と叫んでいます。
イットがメスであるのは、原作でその正体が「卵を持った蜘蛛」だったからですが、映画ではそれは削除されているので、リッチーがどうしてその「真実」を見抜いたのかは謎です。
リッチー大ピンチ。そこでエディが……というところで、あともう1回だけ。