「ホールに入る」の定義は破綻している
2024年7月7日
1 ゴルフ競技では,球がカップに入ったか否か重要です。ゴルフ規則は球が「ホールに入る(Holed)」と規定して厳格な定義とカップに入りかかった球について,その処置方法を定めていました。2018年以前の定義と2019年以後の定義を見てみましょう。
2018年以前のゴルフ規則(以下旧ゴルフ規則という)では次のとおり定義されていました。
ホールに入る(Holed) 球がホール内に止まり,球全体がホールのふちよりも下にあるとき,その球は「ホールに入った」という。
2019年以後のゴルフ規則(以下近代化されたゴルフ規則という)では次のとおり定義しています。 ホールに入る 球がストローク後にホールの中に止まり,球全体がパッティンググリーン面より下にあるとき。
旧ゴルフ規則と近代化されたゴルフ規則に共通して「ホールに入る」の要素としていることを分解すると:
⑴ 球がホールの中で停止していること。
⑵ 球全体がパッティンググリーン面より下にあること。
⑶ 球がホールの底に接している必要はない。
以上は旧ゴルフ規則と近代化されたゴルフ規則の定義であることに注意してください。
ゴルフ競技歴が数年ある人ならご存じのとおり,旧ゴルフ規則17-3.のc.に次のとおり規定されていました。
「プレーヤーの球は次の物に当たってはならない。球がパッティンググリーン上でストロークされた場合で,ホールの中に立っていて人に付き添われていなかった旗竿」
旧ゴルフ規則が適用されていたときは,プレーヤーの球が旗竿に当たる事例は,ホールインワンとかパッティンググリーンの外からストロークした球が旗竿に当たる位でした。また,稀にですが球が旗竿に寄りかかり,ホールの中に沈み込まないことがありました。そのような状況になった場合,「ホールに入る」の定義が,球全体がホールのふちよりも下にあるときと規定されていたので,旧ゴルフ規則は,プレーヤーの球が旗竿に寄りかかっている球について,その後の処置をどうすべきか,次のとおり厳格に規定していました。
「プレーヤーの球がホールの中の旗竿に寄りかかって止まっていてホールに入っていない場合,プレーヤーかプレーヤーの許可した人が,その旗竿を動かすか取り除くことが出来る。その際に球がホールに落ち込んだ場合,プレーヤーの球は最後のストロークホールに入ったものとみなされる。ホールに落ち込まなかった場合(ホールから飛び出してしまった場合),球が動かされたとき,球は罰なしにホールの縁にプレースされなければならない(そしてストロークをする)。」
旧ゴルフ規則の「ホールに入る」の定義を素直に読めば,以上の旧規則17-4. 旗竿に寄りかかっている球の処置の規定には十分な理由があると思います。
2 R&Aは,2019年に「近代化されたゴルフ規則」を作成するという触れ込みで大幅な規則改正を実施しました。その一つが規則13.2a「旗竿をホールに立てたままにする」の⑵の規定「球がホールに残してある旗竿に当たっても罰はない。」です。R&Aは,旗竿を取り除いても,旗竿を立てたままでもホールに入る確率に大差はなく,また同伴プレーヤー全員の球がパティンググリーンに乗らなくても用意の出来たプレーヤーから旗竿を立てたままパッティングストロークができるので,大幅なプレー進行の促進が可能となると考えたものと思います。
その一方,旗竿をホールに立てたままパットをすると,球が旗竿とホールの内側に挟まりホールの底に落ちない場合が,旧ゴルフ規則によってプレーしていた時より格段に多く起こることも事実です。
本来なら,球が旗竿に挟まりホールの底に落ちない場合,旧ゴルフ規則17-4.旗竿に寄りかかっている球と同じように,プレ-ヤーが,その旗竿を動かして球をホールに落ち込ますのも一方法ですが,いちいちそのような処置を求めていたら,プレー進行の促進のために考えた規則が台無しとなります。
R&Aは,近代化されたゴルフ規則13.2cで,次のとおり規定したのです。
「プレーヤーの球がホールに立てられたままの旗竿によりかかって止まっている場合: 球の一部がホールの中のパッティンググリーン面より下にある場合,球全体がその面より下になかったとしても,その球はホールに入ったものとして扱われる。(そのままの状態で球を拾い上げて良いということです)」
R&Aは,前記の状況を球がホールの中の旗竿寄りかかって止まっている特別なケース(参照 定義 ホールに入る)と捉えたのです。しかし,これはホールに入る(Holed)という先ほど申し上げたゴルフ規則の定義と矛盾なく説明できる改定ではありません。
確かに,球の一部が,ホールの中のパッティンググリーン面より下にある状況であるなら,旗竿を動かせば球は99.99パーセントの確率でホールに入るでしょう。
3 2023年日本女子オープンゴルフ選手権3日目,パー3で球がホールの側面に突き刺さり,球の一部がパッティンググリーン面より上にあるという状況があったそうです。ほとんどの人は,ホールインワンと思ったでしょう。しかし,審判員の判定は,ホールの側面に食い込んだケースは,ホールに入ったことにはならないとのことでした。
審判員の判定は,ホールインワンにはならない理由は,球がホールの側面に食い込んでホールの縁を広げてしまったからだということを理由にしているのではないでしょう。1メートルのパッティングストロークでもホールの縁は観念的には広げられていること明白です。球がホールの中の旗竿に寄りかかって止まっている場合ではないので,ゴルフ規則13.2cの適用がないというのでしょうか。それなら審判員の判定にも一理ありそうです。
しかし,近代化されたゴルフ規則13.2cは,「プレーヤーの球がホールに立てられたままの旗竿によりかかって止まっている場合,球の一部がホールの中のパッティンググリーン面より下にある場合,球全体がその面より下になかったとしても,その球はホールに入ったものとして扱われる。」と大改定したのです。
もし,球がホールの側面に突き刺さり,ホールに立てられた旗竿がよろけて立てられていたため,球と旗竿が接触していて,且つ球の一部がパッティンググリーン面より上にあるという状況があった場合どう判定しますか。さすがのR&Aでも,前記の状況では,球がホールの中の旗竿寄りかかって止まっている特別なケースであると認めざるを得ないでしょう。世の中,起こり得る可能性のあることは起こるのです。
この旗竿に寄りかかって止まっている前記の状況は,近代化されたゴルフ規則13.2cに規定する球がホールの中の旗竿に寄りかかって止まっている特別なケース以外の何物でもありません。
しかし,ホールインワンを認めない審判員は,したり顔でこう言うでしょう。
「ゴルフ規則には,プレーヤーの球がホールに立てられたままの旗竿によりかかって止まっている場合と書いてあるでしょう。この状況は,プレーヤーの球に旗竿が寄りかかっているのです。」
失礼しました。いくらホールインワンを認めない審判員でもそうは言わないでしょう。しかし,「ホールに入る 球がストローク後にホールの中に止まり,球全体がパッティンググリーン面より下にあるとき」という本来の定義を,近代化されたゴルフ規則13.2cの特別なケースを十分に吟味しないで新設したことによって,両立することが出来ないほど破壊してしまっているのです。ゆえにかような馬鹿々々しい議論となるのです。
2023年日本女子オープンゴルフ選手権の審判員は,ホールの側面に食い込んだケースは別で,ホールに入ったことにはならず,オフィシャルブックにも記載されていると述べていますが,たまたま,旗竿と球が接触していなかったので審判員の判断は正しかったのかもしれません。
私は確認していませんが,聞くところによると,オフィシャルブックには旗竿と球が接触していても,同じくホールに入ったことにはならないとあるそうです。近代化されたゴルフ規則のもとでは,当該オフィシャルブックの記載は,明文化されたゴルフ規則13.2cの「球が旗竿に寄りかかって止まっている場合:………その球はホールに入ったものとして扱われる。」との規定に違反しています。オフィシャルブックに何て書いてあろうと,ゴルフ規則に違反した下位のオフィシャルブックの解説です。オフィシャルブックの解説がゴルフ規則に違反していないというなら,R&Aは誰もが納得するような論理的説明をすべきです。それがないから,審判員が混乱して「この状況は,プレーヤーの球に旗竿が寄りかかっているのだ」,あるいは「球がその勢いでホールの縁を広げてしまったからだ」と咄嗟に気が付いたような言い訳をせざるを得ないのです。
4 R&Aは,近代化されたゴルフ規則13.2cの特別なケースを規定したとき,ホールに入る(Holed)について,その定義と特別なケースの相関関係について,あらゆる状況を想定したうえで吟味していないのです。つまり,「ゴルフ規則のホールに入るの定義」と「ゴルフ規則13.2cの規定」そのものが,両立出来ない矛盾した規定となっていることにR&Aの規則委員は気付いていないのです。
ゴルフ規則13.2cの特別なケースは,パッティンググリーン上からストロークした場合に,より多く生じる状態です。しかしながら,100ヤード,200ヤード先から高速で飛翔する球でも適用になります。そのような場合,球の一部がホールの中のパッティンググリーン面より下にある(球がホールの側面に突き刺さる)場合が当然考えられます。その時,球と旗竿が接触していれば,規則13.2cの特別なケースが適用され球をそのまま拾い上げることが出来て,球と旗竿が接触していなければ,ホールに入った(Holed)ことにならないということになります。
球と旗竿が接触しているか否かという偶然性の高い事実をもってホールドしたか否かを判定することの妥当性について検討していないのです。R&Aは,13.2cの特別なケースを新たに規定すれば,大幅にプレーの進行を促進できると考えていただけだったのです。R&Aの規則委員が頭で想像していたことは,13.2cの特別なケースの発生は,パッティンググリーン上からストロークした場合だけだったとしか思えません。
2007年頃プロゴルファー,ビジェイ・シンがバンカーをならした違反で過少申告となり失格し,R&Aは,慌てて旧ゴルフ規則13-4.例外3を追加したものの,極めて不完全な改訂であったため,その数年後にスチュアート・シンクが,同じような事例で過小申告となり失格となったのと同じです。規則全体に目が行き届くよう,多くの意見を聞かないと規則の改定などできません。
「詳しくは本ブログ内の(私がゴルフ規則に興味を持った経緯)を参照してください。」
R&AとUSGAは,ゴルフ規則の近代化の指針として,改訂はすべてのゴルファーの存在を念頭において評価されるべきである。プロフェッショナルだけではなく,初心者,倶楽部ゴルファーにとっても,世界中のすべてのレベルのプレーにおいて規則が理解し易く,適用し易いものとなるようにすると表明したのに実態はこのざまです。
以上