アウトオブバウンズ・コースの境界・コースエリア

2018年12月26日

 

「近代化されたゴルフ規則」の製本されたものを,施行を間近にしてやっと手に入れることができました。全部を理解するのはとても無理ですので,近代化されたゴルフ規則(以下規則という)において改訂された,問題のありそうなテーマを順次取りあげて検討してみたいと思います。

 2018年までの旧ゴルフ規則(以下旧ゴルフ規則という)には,球がコースの何処にあるか判定する規則が極めて複雑でした。規則が新しくなっても,重要な事実であることに変わりません。

 以下規則の最初のテーマとして,規則2の「コースの境界とアウトオブバウンズ」と「定義されたコースエリア」の意味を検討したいと思います。

 

1 旧ゴルフ規則はコースについて,委員会が定めた境界の内側全域と定義していただけでした(旧ゴルフ規則定義15)。

新しい規則は,アウトオブバウンズとコースの境界を明確にしました。そして,コースを次のとおり定義しています(定義:コース)。

  委員会が設定した境界の縁の内側のすべてのプレーエリア:

   ・境界の縁の内側のすべてのエリアはインバウンズであり,コースの一部である。

   ・境界の縁の外側のすべてのエリアはアウトオブバウンズであり,コースの一部ではない。

   ・境界の縁は地面の上方と,地面の下方の両方に及ぶ。

三段目の「・境界の縁は地面の上方と,地面の下方の両方に及ぶ。」が意味するものは,この位置に規定されていることからして,インバウンズとアウトオブバウンズの境界だけについて規定しているものと思います。

 

2 規則は,以上の定義コースに続いて,5つのコースエリアを定義しています(定義:コースエリア)

   ・ジェネラルエリア。

   ・ティーイングエリア。

   ・ペナルティーエリア。

   ・バンカー。

   ・パッティンググリーン

  しかし,以上のコースエリアの定義には「・境界の縁は地面の上方と,地面の下方の両方に及ぶ。」という規定がありません。5つのコースエリアの境界の縁が地面の上方と,地面の下方の両方に及ぶか否かについては,該当する各規則に委ねる趣旨と思います。

 

3 次に,アウトオブバウンズもコースの各エリアを区切る線も,コース上に塗られた線で示されることがあります。そうなると,帯状の線の両端のいずれ側か,すなわち帯自体はいずれのエリアかという問題があります。

  規則は,アウトオブバウンズについて,

  「杭やフェンスによって定められる場合,境界線はその杭やフェンスポストのコース側を地表レベルで結んだ線によって定められ,………… 。」とし,

  「地面に塗られた線によって定められる場合,境界縁はその線のコース側の縁となり,その(帯状の)線自体はアウトオブバウンズである(定義:アウトオブバウンズ)。」としています。

  「止まっている球全体がコースの境界の縁の外にある場合にのみ,その球はアウトオブバウンズとなる(18.2a ⑵ )。」と明解に規定しております。

  ところが,ペナルティーエリアについて規則は「地面上に塗った線で定める場合,そのペナルティーエリアの縁は,その線の外側(コース側)の縁となり,線自体はそのペナルティーエリア内である。」と規定しております(定義:ペナルティーエリア)。そして規則17.1aは,球の一部がペナルティーエリアの縁や,ペナルティーエリアの日かの部分の上にある場合,その球はペナルティーエリアにあるとしています。救済を受ける場合注意しなければならない点です。

 

4 以上のとおり,アウトオブバウンズや各コースエリアの境界の縁は線ですから,当然球の一部が各エリアの両方に掛かっている場合が生じます。

  規則は,「球の一部がジェネラルエリアと特定のコースエリアの両方にある場合…………… 。」さらに,「球の一部が2つの特定のコースエリア(の両方)にある場合………… 。」と規定しております(2.2c)。

  この「両方にある場合」というのは,平易で且つ適切と思いますが次のような問題があります。

  球が地面にある場合は上から見て,あるいは,球が木の上にあるような場合は横から見ただけで、いずれのコースエリアにあるか,あるいは2つのコースエリアの両方に掛かっているかを判断して良いのでしょうか。

球は地面に置いた場合,地面との接点は球の直径より通常少ない面積となります。球が両方にある場合の頻度が高いジェネラルエリアと特定のコースエリアの境界の縁は,地面の上方と,地面の下方の両方に及ぶか否かということを問題にしなくて良いのでしょうか。

 

5 以上の問題をさて置けば,規則は球の所在について明解に規定しております。

 ⑴ 球の一部がジェネラルエリアと4つの特定のコースエリアの「両方にある場合」は,その球は特定のコースエリアにあるものとして扱うということです(2.2c)

 ⑵ さらに球の一部が2つの特定のコースエリアの「両方にある場合」は,その球は次の順番で特定のコースエリアにあるものとして扱うということです(2.2c)。

 ペナルティーエリアとバンカーは,ペナルティーエリアにあるものとして扱う。

② ペナルティーエリアとパッティンググリーンは,ペナルティーエリアにあるものとして扱う。

  バンカーとパッティンググリーンは,バンカーにあるものとして扱う

  お気づきと思いますが,2.2cは,「球の一部がジェネラルエリアと4つの特定のコースエリアのいずれかと」と規定しているにもかかわらず,ティーイングエリアがありません。

  規則は,ティーイングエリアとジェネラルエリアの両方に球がある場合は有り得るがティーイングエリアとペナルティーエリアなどの両方に球がある場合は通常有り得ないと考えて省いたのでしょうか。しかし,通常有り得なくても物理的にあり得る以上,読者はなぜティーイングエリアがないのか混乱します。R&A,USGAは余計なお世話をしてくれたのではないでしょうか。

  注意しなければならないのは,以上の規則は,球がアウトオブバウンズか,あるいは定義されたコースエリアのいずれにあるかということを明解にしただけということです。つまり,「球は常に1つのコースエリアにだけあるものとして扱う:(規則2.2c)」としているために,アウトオブバウンズや各コースエリアの境界の縁という観点から,球の所在を明確にしただけなのです。

 6 コースを構成する5つのコースエリアは,ジェネラルエリアと4つ特定のコースエリアがあるとし(2.2a),「特定の規則はジェネラルエリア以外の4つのコースエリアに特別に適用する:」としています(2.2b)。

4つ特定のコースエリアにどのような特定の規則が適用されるかというと,

   ・ティーイングエリアは,規則6.2

   ・ペナルティーエリアは,規則17

   ・バンカーは,規則12

   ・パッティンググリーンは,規則13

と規定されています(2.2b)。

  ここで注意しなければならないのは,「特定の規則は,4つのコースエリアに特別に適用する(2.2b)。」という文言です。これを不用意に読むと,前記2.2cは,「球があるコースエリアの決定」として明確にしているのですから,例えば,球が4つのコースエリアの内パッティンググリーンにあれば,当然規則13の認める,球をマークする,拾い上げる,ふくことなどが全て出来ると思います。しかし,それは大間違いなのです。

  球が,4つの特定のコースエリアにあるか否かと,4つの特定のコースエリアにおいて特定の規則が適用出来るか否かとは全く要件が違うのです。

 

7 例をあげてみましょう。

  規則13.1aは,次のとおり規定しています。

次の場合,球はパッティンググリーン上にある:

   ・球の一部がパッティンググリーンに触れている,または,

   ・球の一部がパッティンググリーンの縁の内側にあって物(例えば,ルースインペディメントや障害物)の上や中にある。

   ・球の一部がパッティンググリーン上とほかのコースエリアの両方にある場合は2.2c参照。

とあります。よく見てください「次の場合,球はパッティンググリーン上にある:」と規定されているのです。すなわち,規則は,特定のコースエリアであるパッティンググリーンに球があるか否かと,パッティンググリーン上に球があるか否かを峻別しているのです。球は特定のコースエリアのパッティンググリーンにあるが,パッティンググリーン上にはないという状況がたくさんあるのです。

  規則13の認める,球をマークする,拾い上げる,ふくことができるのは,特定のコースエリアであるパッティンググリーンに球があるだけでは適用はなく,球がパッティンググリーン上にある場合にのみ適用されるのです。

 

8 規則13.1a の1段目,2段目の要件については後日検討します。ここでは,3段目についてのみ,皆様に検討をお願いするところです。私は明らかな誤りと思っております。是非コメントを頂きたいと思います。

3段目の「・球の一部がパッティンググリーン上と他のコースエリアの両方にある場合は,規則2.2c参照。」との規定についての疑問です。規則2.2cは,1段目が「・球の一部がジェネラルエリアと4つの特定のコースエリアのいずれかと両方にある場合,」。2段目が,「・球の一部が2つの特定のコースエリアにある場合,」について規定しています。つまり,「球は常に1つのコースエリアにだけあるものとして扱う:(規則2.2c)」としているために,球が5つのコースエリアの何処にあるかを確定させる規則です。

ところが,規則13.1a の3段目の規定は,「球の一部がパッティンググリーンと他のコースエリアの両方にある場合は,規則2.2 c参照。」としているのです。

If part of the ball is both on the putting green and in another area of the course, see Rule 2.2c. 〉

既に,規則13.1a の1段目,2段目の要件に該当するから,当然球は「パッティンググリーン上にある」と判断されているのです。そうであるなら,もう規則2.2cを参照する意味も必要も全くありません。英語版が間違っていて,翻訳者がそれに気付いていないものと思います。

3段目の規定はなくても当然の解釈です。多分親切のつもりで,球の一部がコースエリアとしてのパッティンググリーンにある場合,例えば,フリンジ上に球が接地しているが,パッティンググリーンには触れておらず,球がオーバーハングしている場合を想定してください。

   「球の一部がパッティンググリーンと,ほかのコースエリア(フリンジはジェネラルエリア)の両方にある場合に該当する。従って,その球(全部)が,コースエリアとしてのパッティンググリーンにあることを規則2.2cを参照して先に確定し,それから,その球がパッティンググリーン上にあるか否か判断しなさい。」

と規定すべきところを間違えたものと思います。

もし,規則が誤りであるなら,コースエリアとしてのパッティンググリーンとパッティンググリーン上という「上」が付くか否かで全く意味の違う用語としたことに誤りの原因があるとしか思えません。

事実,規則12.1には,「球の一部がバンカーと別のコースエリアの両方にある場合は規則2.2c参照。」と規定され,規則17.1aには,「球の一部がペナルティーエリアと別のコースエリアの両方にある場合は規則2.2c参照。」と正しく規定されています。

 

9 球がパッティンググリーン上にあるか否かだけでなく,球がバンカー内にあるか否かにおいても問題となります。さらに,球が修理地にあるかについても検討の余地があります。この規定方法は旧ゴルフ規則でもほぼ同じでした。改善することが出来なかったのは残念です。

R&A,USGAは,2017年3月1日「規則の近代化への新しい取り組みの概略:として,

・すべてのゴルファーによってより容易に理解され,適用され,

・より一貫性があり,シンプルで、公正なものであり,

・より直観的で学習し易いコンセプト,手続き,結果を用い,

・プレーヤーに「罰の罠」を作り出すかもしれない不必要なコンセプトや例外を避け

  と発表していました。

  以上のような規則制定の手法,すなわち,類似し,且つ混乱し易い用語を使用したことは,果たして規則の近代化への新しい取り組みの使命を全うしたといえるでしょうか。

  私は,最初のテーマとして,この問題を順次検討していきたいと思います。

   以上