目的外グリーンから救済を受けなければならない

2019年1月8日

1 規則13.1fの⑴の全文を次に引用します。

 ⑴ 目的外グリーンによる障害の意味。この規則に基づく障害は次の場合に存在する:

  ・ プレーヤーの球の一部が目的外グリーンに触れている場合,またはその球の一部が目的外グリーンの縁の内側にあって,物(例えば,ルースインペディメンとや障害物)の上や中にある。 または,

  ・ 目的外グリーンがプレーヤーの意図するスタンスや意図するスイング区域の物理的な障害となる場合。

    後段の要件は,球の所在は関係なく,例えばスタンスだけが目的外グリーンに掛かる場合などでも該当します。従って,稀有な例ですが,球がバンカー内にあり,スタンスが目的外グリーンに乗る場合もあり得ます。

 

2 規則13.1fの⑴の前段は,球が目的外グリーン上にあれば,プレーヤーが障害と思うか否かは関係なく,この規則に基づく障害が存在すると看做しているのです。

  問題は,規則13.1fの⑴の後段についてです。

  目的外グリーンの存在が,プレーヤーの意図するスタンスをとった場合,あるいはプレーヤーの意図する方法でスイングをした場合,当該プレーヤーにとって物理的な障害が発生する場合は,目的外グリーンによる障害が存在するというのです。

  規則13.1fの⑴の前段は,球が何処にあるかという客観的な事実です。

  ところが,規則13.1fの⑴の後段は,なんとなく曖昧です。当該プレーヤーがどう思うかは関係なく障害となるという意味ですが,プレーヤーの主観的判断を求めているようにも思えるのです。

 

3 R&A・USGAの示す2019年版ゴルフ規則109頁,図13.1f:目的外グリーンからの罰なしの救済のイラストを見てください。

  イラストの下にある解説文に「球Aの完全な救済のニヤレストポイントはP1となり,元の球が止まった同じコースエリアでなければならない(この場合,ジェネラルエリア)。」とあります。

  後段は,前段より「または,」で接続しているので,球の所在は関係なく,目的外グリーンがプレーヤーの意図するスタンスや意図するスイング区域に入っていれば障害が存在すると看做しているのです。

  そのことは,規則13.1fの末尾に「委員会の措置,セクション8;ローカルルールひな形D-3(委員会は意図するスタンス区域が障害となるだけでは目的外グリーンからの救済を認めないローカルルールを採用することができる)参照。」とあることからも間違いなさそうです。

 

4 そもそも,障害という以上,何か不都合な事象のことです。プレーヤーにとって球が目的外グリーン上にあっても,通常,球のライにもスタンスにも不都合なことなど何もなく,プレーに障害などありません。この規則の趣旨は,ジェネラルエリアである目的外グリーン(定義:目的外外グリーン)において,ジェネラルエリアにおいて認められるストロークを許すと目的外グリーンに対し,重大な被害をもたらすからではないでしょうか。

  ゴルフ規則は従前から,ある事象が生じた場合,何々による障害が生じたとし,いわゆる看做し規定の形式をとっていました。ある事象の存在をもって個々のプレーヤーにとって障害か否かを問わず,障害が生じたと看做し,場合によって救済を受けるか否かをプレーヤーの任意としていたのです。

  例えば,規則16.1aの⑴は,「異常なコース状態による障害の意味。次の場合,障害が生じている:」としています。しかし,規則16.1aの⑴の異常なコース状態による障害と規則13.1fの⑴の目的外グリーンによる障害とは決定的に規定の意味とその効果が違います。

  異常なコース状態による障害があっても,プレーヤーが不都合はないと判断すれば,救済を受ける義務などないのです。ところが,目的外グリーンによる障害が生じたら救済を受けないと罰打が課されるのです。規則はそのことを全く考慮していないのです。例えば,目的外グリーンに菓子袋が落ちていてその上に球が止まった場合,球の一部も目的外グリーンに触れていませんが,「その球の一部が目的外グリーンの縁の内側にあって,物(例えば,ルースインペディメンとや障害物)の上や中にある。」の規定により障害が発生しているため,完全な救済のニヤレストポイントからの救済を受けなければならないのです。

 

5 旧ゴルフ規則は,25-3目的外のパッティンググリーンのa.障害の規定で,「球が目的外のパッティンググリーン上にある場合,目的外のパッティンググリーンによる障害が生じたという。プレーヤーのスタンスや意図するスイングの区域が妨げられても,それだけでは規則25-3にいう障害には当たらない。」と規定していました。旧ゴルフ規則は,新しい規則の委員会の措置,セクション8;ローカルルールひな形D-3が例示しているローカルルールをゴルフ規則にしていたのです。

  新しい規則は,旧ゴルフ規則が,それだけでは規則25-3にいう障害には当たらないとした事象を,今度は障害になるとしたのです。

それならば,目的外グリーンがプレーヤーの意図するスタンスや意図するスイング区域に掛かるという客観的事象があれば,物理的な障害が発生したと看做して,二義を許さない規定にしなければならないのです。

  新ゴルフ規則は,「完全な救済のニヤレストポイント」と改訂し定義しました。旧ゴルフ規則が「救済のニヤレストポイント」の定義に,「・・・障害がなくなる所。」としていたのを改め,更に「完全な」を頭にかぶせることにより,如何なる障害もなくなる所を意味しようとしたのではないでしょうか。

しかし,目的外グリーンが,プレーヤーの意図するスタンスや意図するスイング区域に入っていれば障害が存在すると看做すのだという明文がないのに,そう解釈しろというのはあまりにも強引で,言葉を無視しています。

 

 規則13.1fの規定は,プレーヤーにとっては,障害でもなんでもない事象が生じたというだけです。その実態はプレーの禁止です。障害だの救済だのという文言は,伝統的に使用していた為に残したものと思いますが,実態と大きく乖離した極めて不適切な用語なのです。よって,スイングプレーンが目的外グリーンの上空に掛かっても救済を受けなければならないと解釈しなければならないのです。救済のニヤレストポイントは,「完全な」救済のニヤレストポイントでなければならないからです。

  旧ゴルフ規則が,それだけでは規則25-3にいう障害には当たらないとした事象を,新しい規則は何の説明もなく今度は障害になるとしたのです。改正されても規則の連続性を全く無視することは出来ません。規則を改正した委員の考えが及んでいないことも然ることながら,R&Aは,このような改正について,世界中のゴルファーが従っているのですから,誠実にその理由について説明すべきです。そもそも「物理的な障害」という一般的な概念にゴルフ規則だけに通用する意味を持たせることが問題なので,別の用語を使用すべきです。

   以上