京都の東寺を訪れた後、
奈良旅は、
春日大社に始まり、東大寺、興福寺、
そして 唐招提寺(とうしょうだいじ)、薬師寺と歩き、
最後の法隆寺となりました。
当寺に着くころには、
降り出した雨も本降りになっていました。
ここは斑鳩(いかるが)寺、法隆寺です。
最初にくぐる門、南大門です。
法隆寺は金堂や五重塔は創建当時のものとなりますが
こちらの南大門は僧侶間の争いで
火災にあっており、室町時代の再建になっています。
創建から1300年の時を経て
立ち並ぶ建造群は圧倒的な存在感です。
法隆寺は飛鳥時代、
聖徳太子によって創建された寺院で、
日本で最初の世界文化遺産に登録されたお寺として知られています。
宗派は
薬師寺や興福寺と同じ法相宗(ほっそうしゅう)でしたが、
現在は聖徳太子の霊をお祀りする
聖徳宗(しょうとくしゅう)に変わっています。
境内は広く、
現存する世界最古の木造建築物群として知られる
金堂や五重塔を中心とする西院伽藍(さいいんがらん)と、
聖徳太子の死後、
その宮跡に建てられた東院伽藍(とういんがらん)とに分かれます。
法隆寺は明治時代半ばまで、
創建以来一度も火災に遭っていない、
建立された当時から、そのまま残っている寺院だと考えられていました。
ところが日本書紀に
「670年に法隆寺が全焼し、一つの建物も残らなかった」
という記述が発見されます。
しかし、法隆寺の記録には
この火災について全く触れていないことから、
この日本書紀の記述を疑問視する声もあり、
明治以降長い間、再建、非再建論争がありました。
この有名な論争を決着させたのが、
昭和14年の
若草伽藍(わかくさがらん)という創建当時の伽藍の発見でした。
発掘調査では、
旧法隆寺の塔と金堂の痕跡が発見されています。
現代の西院伽藍は、
金堂と塔が東西に並列する、法隆寺式伽藍配置ですが、
発見された若草伽藍では、
更に古い配置の、塔の背後に金堂、講堂が並ぶ
四天王寺式伽藍配置が採用されていました。
これにより法隆寺は
607年の創建、670年に大火で焼失、飛鳥時代、天智天皇の時代に再建された
という説が、確かなものになりました。
現在、若草伽藍は非公開です。
こちらが中門ですが、
ここを抜けると法隆寺、西院伽藍になります。
日本最古の金剛力士像です。
向かって右側が阿形です。
こちらは飛鳥、奈良時代の技法、塑像(そぞう)と言う、
土で作られた像です。
左側が吽形像ですが、
残念ながら風雨にさらされていたために、
顔以外は
16世紀に木造に作り変えられています。
それにしても奈良時代に土で作られた像が、
今だに残っているという事が信じられません。
飛鳥時代の再建とされる金堂は、
昭和24年、解体修理中に火災が発生し、
国宝の壁画を焼損するという事件が起きています。
火災が発生したのは1月26日で、
この翌年、昭和25年に文化財保護法が制定され、昭和30年1月26日を、
文化財防火dayに制定されています。
法隆寺では現在もこの日に
防火訓練が行われているそうです。
東院伽藍の中心である夢殿は、
奈良時代に建てられたお堂で、鎌倉時代に大改修を受けているものの、
古材から創建時の姿に復元できるほど
奈良時代の様式を残しているそうです。
夢殿の造りは珍しい八角円堂です。
同じ八角円堂である興福寺の北円堂は、藤原不比等を弔う為に造られていましたが、
こちらはご本尊が救世観音(くせかんのん)、
聖徳太子の等身像となっていますので、
聖徳太子をお祀りしたものでしょうか。
この救世観音は秘仏となっていますので
春と秋に特別公開されます。
ちょうど特別公開されていましたので
拝観することが出来ました。
日本最古である五重塔は、
バランスの良さで知られています。
理由は逓減率(ていげんりつ)にあると言われています。
寺院の塔は上にいくほど屋根が小さくなっています。
その小さくなる割合が逓減率ですが、
五重塔では一番下の屋根に比べて、上へいくほど小さくなり、
最上階の屋根は一番下の屋根に比べてちょうど半分の大きさになっています。
その為にバランスがよく安定感のある外観になっています。
本当に美しい塔です。
法隆寺には三伏蔵(さんふくぞう)と言って3つの伏蔵があるそうです。
伏蔵とは地下にある蔵の事で、隠し蔵だそうです。
その一つが経蔵の下に。
もう一つは金堂内に、もう一つが大湯屋前の三ケ所だそうです。
法隆寺に何かあった時には、法隆寺の全てを再興できるお宝が治められているそうです。
真意のほどは分かりませんが、
凄い話ですよね。
池のほとりに正岡子規が詠んだ有名な碑があります。
「柿食えば 鐘がなるなり 法隆寺」 です。
この句の前段に、法隆寺の茶店に憩いてとありました。
この碑の傍に、茶店があった事が分かります。
雨の中、静かな境内を歩きました。
こういうお寺歩きもいいもんです。
宗教評論家のひろ さちやさんは
法隆寺について書かれた記事をこう締めくくられています。
ともあれ、寺は祈りの場である。
われわれが真剣に祈れば、きっと仏はその祈りに応えてくださる。
法隆寺で私は聖徳大子の言葉を思い出した。
世間虚仮(せけんこけ)、唯仏是真(ゆいぶつぜしん)
(この世間は真実にあらず。ただ仏のみが真実である)
そうだ、欲望に狂った現代はまちがっている。
われわれは、仏教の「少欲」の教えに戻らねばならない。
聖徳太子はそう教えておられる。
2000年九月中旬、異常に暑い日であった。
現代の日本は、
気象までもが狂っているのかもしれない。