最近、待機児童・保育園の整備を巡って非常に激しい議論が国会内外で繰り広げられています。
実は自分も、保育園でもベビーシッターでも何でも良いので、一刻も早く、東京近郊で一人でも多く子供を産み育てられるような環境を整備しなければならないと強く願っています。
それはなぜか。
他でもありません。
今のままだとこの豊かな国が持たないからです。
1.人口のブラックホール現象を紐解く。~東京と鳥取の比較から~ 前回のエントリー で「人口のブラックホール現象」なるものをご紹介致しました。
これがどのようなものか、今回は具体的に見ていきたいと思います。
まず、
総務省のデータ に基づき、比較的過疎が進んでいることが明らかな鳥取県を例に、東京都と比較してみたいと思います。
鳥取県の合計特殊出生率 は1.60。全国でも上から8番目に高い数値となっています。
他方で、
東京都目黒区の合計特殊出生率 は僅かに0.76、
世田谷区 でも0.82と1を大きく割り込んでおり、
東京全体 でも1.15と極めて低い数値になっています。
では、出生率の高い鳥取県の方が若い世代が多く存在しているかというと、もちろんそんなことはありません。グラフを比較して頂ければ一目瞭然。
左側が東京、右側が鳥取です。図を見ると東京では20歳前後から急激に人口が増加していることが分かります。これは、まさに進学や就職の時期に上京し、それ以降東京に住み続けることを意味しています。
※ このグラフはウェブサイト「人口・面積・人口密度・」 様からお借り致しました。この場を借りて御礼申し上げます。 このように、比較的高い出生率を誇りながらも、鳥取県は深刻な少子高齢化に見舞われる一方、東京は自ら人口の再生産をすることなく、地方から労働力を吸い上げることで、成り立ってきたことを実感して頂けたのではないかと思います。
でも、この東京の姿、実はシンガポールと全くダブって見えることにお気づきでしょうか。
2.シンガポールに見る、東京の未来。 シンガポールは目覚ましい経済発展を遂げている国であることは言うまでもなく、一人当たりのGDPはなんと56,000ドル(USD)と、東京の一人当たりの総生産(57,000ドル)と
ほぼ変わりません 。
そして、
シンガポールの人口ピラミッド を見て頂ければわかりますが、まさに大量の生産人口がこの国の経済を支えているといっても過言ではありません。
では、シンガポールはどこから若年労働力を調達しているでしょうか。
言うまでもありません。海外です。
シンガポールの合計特殊出生率は、僅かに1.19。
東京と同じように自ら人口の再生産を行うことができておりません。
そのため、シンガポールでは、毎年大量の移民を受け入れることで国家として生産人口を確保する施策が採用されてきました。その結果現在では
人口の43%が移民(外国人)で成り立っている 、極めて他国に依存した国家、それがシンガポールです。
いや、まだ日本はシンガポールと違って移民を受け入れていないじゃないかという反論も聞こえてきそうですが、実は本質的には全く同じです。
シンガポールは「都市」がそのまま「国家」になっているような国なので、労働力を「都市」の外から供給してもらうなら、それは「移民」とならざるを得ないだけ。
東京も、地方から労働者を大量に呼び寄せて繁栄しているわけですが、仮にここが一つの「国家」だとすれば、他の地方都市から続々と「移民」を受け入れて繁栄しているシンガポールとまったく同様の「国家」に他なりません。
そして、問題は今その東京で何が起きているか、です。
繰り返しになりますが、多くの地方都市において、極めて少子高齢化が進んでしまった結果、東京等の人口増加を上回るほど地方の人口減少が激しくなっていて、これ以上大量の若年者を供給できなくなってきています。
さて、こういう環境下でこれからも繁栄していくためには東京は、そして日本はどうすべきでしょうか。
答えは二つに一つ。
東京における出生率を高めていくか、それとも地方都市から労働力の供給がないなら、もっと範囲を広げて「海外」にまで労働力を求めていくか、しかありません。
※ ちなみに、地方だから一律に出生率が高いわけではなく、地方は地方で、出生率を上げるために、コンパクトシティの構築等を目指して再編成していかなければならないことは言うまでもありません。 参考)北海道は東京・港区より出生率低?東京一極集中是正で出生率&一人当たりGDP上昇の嘘 ※ 下記のURLのように一人当たりの生産性を挙げていくという方法もあります。確かに夢はありますが、現時点では必ずしも現実的とは言えません。 参考)自動化専門家が断言「移民よりまずはロボット」 ※ 今まで働いて来なかった方々(女性や高齢者等)にしっかりと働いてもらうという方法もあります。まさに政府が言うような「女性活躍推進」や「一億総活躍社会」はこの方向性を示しています。スローガンとしては良いですが、これが動ける人は皆働くことが強要されるような「多様性のない」社会を意味するとすれば、自分は望ましいとは考えておりません。 3.移民を受け入れますか、それとも保育所増やしますか。 ということで、結局はこの問いかけに行きつくわけです。
「移民を受け入れますか、それとも保育所増やしますか。」
もちろん移民(外国人労働者)の受け入れに関しては、国家として真剣に検討するべきだと思いますし、その際にはシンガポールの移民政策が極めて参考になります。
シンガポールでは、決して多くの方が恐れているような無秩序な移民の受け入れを行っているわけではありません。
ハイレベルな人材の受け入れを中心に行っている ためか、移民が増えていても国内の犯罪率が高くなっているという事態は生じておりません。
(もちろん、さすがにあまりの移民率の高さに不満が相当たまっているようですが。)
しかし、シンガポールの移民政策がここまで進めてこられたのは、言葉を選ばずに言えば、国家としては、経済を重視し、どちらかというと歴史や伝統的な文化というものにあまり重きをおいて来なかったからではないかと推測しています。
それにひきかえ、日本では、伝統や文化などの相互理解のもとで育まれたマナーや礼儀を、良くも悪くも前提とした共生社会が構築されてきました。
隣に住む人も、基本的には自分と同じような考えや文化を持っており、夜はできるだけ騒がない、ゴミは分別する、など当たり前の社会生活上のルールを他人が持っていることを期待して生活することができています。
その社会に突如大量の文化や風習の異なる移民が入ってきたらどうなるか。
今の日本の社会秩序が大混乱に陥ることは目に見えています。
だとすれば、「移民を受け入れる前にやるべきことがある」のではないでしょうか。
これは外国人差別でもなんでもありません。
日本において、将来的にどこかの時点でやむなく労働政策として移民受け入れの判断をするときが来るかもしれません。しかし、そのときに迫られる「日本社会の変容」を考えると、正直まだそれを受け入れるだけの国内議論が深まっているとは到底思えません。
もちろんハコモノとしての保育所を作る必要はありませんし、ベビーシッターのような制度の拡充でも良いかと思います。なんでも良いので、今やるべきは、東京やその近郊都市においてしっかりと子供を産み育てやすくすることです。
ちなみに、これは高齢者を犠牲にして若者世代を優遇せよということでは決してありませんし、世代間闘争をけしかけるつもりも毛頭ありません。そうではなく、出生率をあげることが即ち高齢者の豊かな生活を維持することにもつながるのです。
今まで後回しにされてきたように見える「待機児童」の問題をどれだけのスピードで解決できるかどうかは、まさに日本の将来がどうなるか、その未来に大きくかかわっているのです。
だからこそ、この問題に関しては、どうか党派を超えて、党利党略を超えて、国を挙げて取り組んでいただきたいと切に願うばかりです。