最近、いわゆる「相対的貧困」をめぐる議論が活発です。一応文化的な生活は送っているものの、現代日本の水準からするといたたまれないような「貧困」に苦しんでいる人がクローズアップされ、「富の集中」を批判するアメリカでの議論の高まりに伴い、日本でも「いかに再分配をするか」という議論に注目が集まっています。

 

実は、地元東京でも、自分の経済成長重視政策に対して、もう経済成長はいらないよ、構造改革で逆に日本は貧しくなった、もうこんなに日本は豊かなんだから「足るを知る」で行こうよ、これからの時代は経済成長なんかよりも福祉だよ再分配だよ、ノルウェー、スウェーデンなど北欧の国々のような高負担高福祉でのんびり豊かな国を作ろうよと、ご意見というか、異論を頂くことが増えています。

 

そこで、今回は、政治や経済に詳しい方にとっては当たり前のことかもしれませんが、日本の経済の現在地点はどこか、そして何を目指すべきなのか、基本に戻ってご説明したいと思います。

 

とにかく結論から申し上げれば、日本は世界の中でも有数の豊かな国だから少しくらい楽をしたって今の豊かな生活を守れると考えること自体が、率直に言えば時代錯誤。現実を正しく把握されておりません。

 

確かに日本は名目GDPでいえば2015年でもアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の経済大国です。しかし、それはあくまでも日本の人口が大きいからにすぎません。

 

内閣府のデータによれば、2014年における一人当たりの名目GDPは3万6000ドル、世界(OECDに加盟する34か国中)では第20位と半分以下。他方、北欧の国々は、ノルウェーで9万7000ドル、フィンランドで5万0000ドル、スウェーデンで5万8500ドル、デンマークで6万1500ドルと、そういう国々と比べると、一人当たりの所得で日本は≪遥かに≫低所得の国なのです。

 

一人当たりのGDPでこれだけ差がついているわけですから、どんなに再分配を頑張っても、それこそ完全に平等な社会を作ったところで、そもそも北欧のような「豊かな国」になるはずもありません。

 

間違いなく、日本は遠くない過去において非常に豊かな国でした。それこそ、20年前は一人当たりの名目GDPが世界第3位でした。しかし、この20年間でGDPがほとんど増えていないため今では20位まで後退しました。そして、先進国を含めて他の国々が引き続き経済成長している状況を含めて考えると、現在の順位でとどまる保証はありません。むしろ、ずるずると今後も下げていく可能性が極めて高いのです。

 

※ 内閣府資料より。なお、平成22年から平成24年までの3年間、一人当たりの名目GDPが上昇していますが、これはご案内の通り、当時の異常な為替相場(1ドル80円前後)の影響を受けたもので、実体経済を現したものでないことに留意が必要です。

 

※ また、先述の内閣府のデータによれば、1996年におけるGDPが4兆7000億ドルであったのに対し、2014年におけるGDPは4兆6000億ドルとむしろ減ってさえいます。これに対して、例えば少子高齢化の進んだ北欧のデンマークでは1870億ドル(1996年)から3460億ドル(2014年)、ノルウェーでは1630億ドル(1996年)から5000億ドル(2014年)と極めて順調に増加しています(出典元:世界経済のネタ帳)。為替変動の影響があるにせよ、これからますます日本と北欧の国々とで格差は開いていくばかりです。

 

ですから、再分配重視で高福祉高負担の国を作ろうとしたところで、まずは一人当たりのGDP額を上げていくことに最大の力点を置かなければなりません。

 

それにしても、東京にいる方々の中には、こんなに頑張って働いているのに、なぜ一人当たりのGDPの額が世界的に見て高くないのかと嘆かれる方もいらっしゃるかもしれません。自分の実感値と違うなと感じられる方も疑問に思われる方もいるかと思います。

 

その解は、そもそも各自治体においてどれくらいの生産性があるか、いわゆる県内総生産にあるのです。

 

以前の記事でもご紹介しましたが、東京だけでみると、2014年における一人当たりの総生産は700万円(5万8000ドル)程度あります。この額は、シンガポール(世界第10位)より高く、スウェーデン(世界第9位)の次に高い生産性をたたき出しています。

 

加えて、現在日本では都市部以外の地方自治体の財政は、その地域の税収だけでは成り立たず、地方交付税や国庫支出金などの名目で大変大きな額を国から地方へ分配しています。地方交付税だけで総額約15兆円もの金額(その多くを東京が負担しています。)で地方を支えているわけですが、もしそれだけの資金を地方に回さず、東京で使ってよいということになれば、東京で循環する膨大な資金のために、東京の総生産は現在の金額を遥かに上回ることになることは明らかです。もし地方に回している財源を減らせば、おそらく現在の「待機児童」を解決する財源は簡単に捻出できるでしょうし、もっと就労時間を減らしても豊かな生活は維持できるでしょう。

 

だからこそ、今しっかりと向き合っていかなければならないのは、高所得者と低所得者との間の「分配論」よりも、東京をはじめとする都市部と地方との「分配論」なのです。

 

「東京が稼いでいるのに一人当たりの国民総生産があがらないのは、地方が足を引っ張っているからだ」、「地方に財源を回さなければもっと楽して北欧のような豊かな生活を享受できるはずだ」、「それなら地方を切り捨てて東京が独立すればいいじゃないか」。こういう「東京独立」論は今はまだほとんど聞かれませんが、今後ますます日本が貧しくなったときにはいつまでも笑って済ませられる議論ではありません。

 

こういう議論が高まり、日本の中で東京在住者とそれ以外の方々が衝突する事態というのは極めて不幸というほかありません。そうなる前にするべきことは何か。

 

前段が長すぎました。ようやく本題にたどり着きました。

 

だからこそ、今取り組むべきは地方の活性化です。地方が稼げる状況を作ること、そのことに真剣に取り組んでいかなければなりません。

 

もちろん今まで多くの方が挑戦してきたものの、成功をしていない、それだけ困難な課題であることは間違いありません。しかし、それでも、自分自身として、この課題を最重点課題と位置づけたいと思います。

 

自分が落選してからというもの、できる限り地方に足を運んで様々な地域を見るようにしてきました。見れば見るほど、考えれば考えるほど頭を抱えたくなる出口の見えない課題であることも実感しています。

 

しかし、世界の中でもまだまだ豊かな東京も確実に疲弊してきています。疲弊しきってしまい、東京が稼げなくなってしまう前に何とか手を打たなければなりません。東京という都市を選挙区とするからこそ、この問題に目を背けることはできないと考えました。

 

東京がもっと稼げる仕組みを作るのも重要ですが、それと同じくらい伸びしろの高い地方にしっかりと稼いでもらう仕組みを作ることが極めて大事だということを改めて訴えさせて頂きます。

 

いかに経済活動を通じて東京の富を自然に地方に移転させるか、地方で生み出された富を地方の中で循環させるか、そしていかに海外から地方にお金を落とすか。このような観点に沿った施策を訴え、国会に戻った折には進めて参りたいと考えています。

 

 

前衆議院議員 三谷英弘