二重人格なの?
本日は個人的に結構楽しんでいるエントリーモデル考察の第6弾です。
取り上げるのはMinority’s Choice の好きなブランドランキング上位のショパールです。
L.U.Cという非常に優れたコレクションを持つマニファクチュールであり、昨年発表したラグスポモデルのアルパインイーグルも人気のショパールですが、エントリーラインはちょっと違う所に位置しています。
まずはいつも通り、エントリーモデルに求められる要件(私見)を再掲しておきます。
1. ブランドの魅力を十分に伝えている
2. 納得感のあるコスト低減が図られている
3. 中核モデルに対して有意に安価である
Mille Miglia Classic Chronograph / CHOPARD
Ref:168589-3002
ケース径:42.0mm
ケース径:42.0mm
ケース厚:12.67mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:サファイア・クリスタル
ベルト素材:ラバー
バックル:ピンバックル
防水性:50m
価格:605,000円(税抜)
現在ショパールでメンズモデルのエントリーを担うのはミッレミリア・クラシック・クロノグラフです。
ミッレミリアはショパールの代表作として名の知れたコレクションですが、同社のほかのコレクションと比べると異彩を放っています。
「世界一美しいレース」と評されるクラッシックカー・レース、ミッレミリア。イタリアのブレシア-ローマ間を往復するクラシックカーの祭典として有名なこのレースにメインスポンサーとして参加するショパールは、そのコラボレーションモデルをラインナップしているのです。
現在のオーナー家のカール・フリードリヒ・ショイフレ氏がクラシックカーの愛好家だった事がきっかけで誕生したもので、いかにも華麗なる一族によるファミリービジネスの産物らしいコレクションです。
丸みを帯びたコロッとしたケースにタイヤを模したラバーベルトというデザインは、確かにクラシックカーを彷彿とさせます。
サンレイ仕上げの文字盤に下三つ目のクロノグラフ、アラビアン・インデックス、そして文字盤中央上よりの赤い1000 Miglia ロゴがスポーティな印象を与えています。
その一方でリューズやプッシャーはオールドファッションであり、クラシックカーレースのイメージ通りのエクステリアといえるでしょう。
大胆なデザインのラバーベルトと合わせて、その雰囲気はショパールの他のコレクションから得るイメージとはかけ離れたものですが、確かにブランドを象徴する立場を築いています。
42.0 x 12.67mmというサイズは今時のスポーツウォッチとしてはごく普通ですが、個人的にはクロノグラフであっても39mm以下を望みます。しかし厚さは12mm台に抑えられているので、そこはグッドです。
型番:ETA 2894-2
ベース:ETA 2892-A2
巻上方式:自動巻
直径:28.0mm
厚さ:6.10mm
振動:28,800vph
石数:37石
機能:スモセコ3針デイト、クロノグラフ
精度:COSC認定 (日差 -4/+6秒)
PR:42時間
搭載するのはETA 2892-A2にクロノグラフモジュールを積んだETA 2894-2。あまり他に見ない機械ですが、じつはValjoux 7750よりも遥かに優れたサイズ感です。
薄型の2892をベースにしている事もあり、28 x 6.1mmというサイズは名機エルプリメロ(30 x 6.6mm)やデイトナのCal 4130(30.5 x 6.5mm)よりも薄く小さいのです。
サイズだけで全てを語る訳にもいきませんが、自動巻クロノグラフを薄く小さくするのが容易でないことは好事家なら皆知っている通り。
エボーシュとはいえ流石にショパールともなればそれなりの機械を選択してきます。さらにCOSC認定を通しているあたりも彼等のこだわりの一つでしょう。
とはいえ8振動/秒で42時間パワーリザーブ、エタクロン緩急装置というスペックはハイブランドの現行モデルという観点では物足りないと言わざるを得ません。
このモデルが税抜60.5万円というのはどうでしょう?今やL.U.Cキャリバーを擁してマニファクチュールとして業界でも確固たる地位を築いているショパールですから、エントリーの価格帯が60万円を超えても不思議ではありません。
一方でミッレミリア自体は旧式化したエボーシュモデルですし、仕上げも驚くべき技巧が込められている訳ではありません。
更にはデザインコードもミッレミリアはかなりスポーティで独自性が高いです。L.U.Cとは全く異なるキャラクターで、同じブランドとは思えないほどです。それこそ二重人格ですか?的な。
そう考えると、ミッレミリアは自社製キャリバー中心の他コレクションとは別腹と考えた方が納得がいきます。
ショパールはレディースラインにもハッピーダイアモンドというダサい名前の人気コレクションがありますが、これもまた独自色が強く、そのせいで全体としての統一感に欠ける印象さえあります。
ミッレミリアを買って、L.U.Cのエッセンスを感じることは出来ません。そういう意味では少なくとも私の中では冒頭に述べた優れたエントリーモデルの条件を満たしているとは言えません。
ミッレミリアは、それ自体が魅力的だと感じる人のためのコレクションと考えるべきです。
モータースポーツにインスパイアされたクロノグラフは星の数ほどありますから、そのジャンルにおけるショパールの提案という捉え方をした方が、このコレクションを正しく評価出来るでしょう。
そう考えて、タグホイヤーのカレラや、ロレックスのデイトナなどと見比べると、確かにクラッシックカーの趣を持つノスタルジックな表情が際立ってきます。
そこにはやはりショパールらしいプレステージ感があると言えるでしょう。このジャンルで敢えてミッレミリアを選ぶというのは渋い選択です。
<Mille Miglia GTS Automatic>
同コレクションには近い価格帯(税抜665,000円)に自社製キャリバーCal 01.01-Cを搭載した3針モデルも存在します。
こちらはよりモダンなフェイスデザインになり、サイズも43mmと大きいですが、ムーブメントに語るべきポイントがあるというのは魅力です。
Minority’s Choice としてはショパールといえばL.U.Cのイメージなのですが、あれは実は1996年に誕生したまだ歴史の浅いコレクションです。
ミッレミリアは1980年代から続くコレクションなので、ある意味ETA全盛時代の香りを残すモデルです。
マニファクチュール化を進めてエボーシュモデルなんて無かったことにしよう、というメーカーが増えている中で、ミッレミリアが命脈を紡いでいるのは、ブランドとしてこのコレクションを大切にしているからでしょう。
お陰で比較的手を出しやすい価格帯にこうしたキャラクターの立った選択肢があるというのは、時計好きとしてはありがたい事です。
<Mille Miglia GTS Azzurro Power Control>
ミッレミリアのようにサテライト的なコレクションがエントリーモデルとなっているブランドは珍しくありません。
将来的に中核モデルへ誘導するための戦略モデルとしてはさほど機能しませんが、そんなの関係ねえ!とばかりに独自性の高いコレクションを投入しているブランドは面白いです。
ミッレミリアに関してはオーナーの趣味というだけで存続している感すらありますからね笑
しかし物づくりとは本来それで良いのかも知れません。自分が楽しいと思える物を真剣に作って、共感を得る。そんなパッションを感じるコレクションを手にするのもまた時計道楽の楽しみ方の一つですね。