相方は30年前以降ベッドなのだが、私も10年弱前、布団からまともに立ち上がるのがやゝ困難になったので、已むなくベッドに切り替えた。

 

他方、子供たちには幼少からベッドに寝かせ、阪神淡路大震災の時は、倒れてきた本棚がベッドの端に乗り、事なきを得た。布団かベッドかのどちらがいいとは言い切れない事情を抱える。

 

もうマットレスには戻れない…外国人記者が「ニッポンの布団」を大絶賛するこれだけの理由
ベッドを手放し、最高の睡眠を手に入れた
2023/03/14  PRESIDENT Online

https://president.jp/articles/-/67265

 

外国人記者が日本の布団に心を奪われた

日本で寝具と言えば、ベッド派と布団派に分かれるところだろう。

しかしながら、昔ながらの布団の魅力も捨てたものではない。ベッドが圧倒的に主流となっている欧米でも、日本の布団を試す人々はおり、やみつきになったとの体験談が聞かれる。

ニューヨーク・タイムズ紙の系列サイトや、米大手健康情報サイトの記者たちは、日本式の布団を1年以上愛用したうえで、「断然最高のベッド」「間違いなく忘れられない眠りになる」など太鼓判を押している。

畳んでスペースを有効活用できる合理性に惹ひかれて購入し、その後、予想外の眠りの質の良さに記者たちは驚いているようだ。

ニトリの布団を買ったアメリカ人女性
ニューヨーク・タイムズ紙は、「断然最高のベッド、すなわち日本の布団(The Absolute Best Bed: A Japanese Futon)」との見出しで系列サイト「ワイヤーカッター」の記事を紹介した。ベッドと長所と比較しながら、日本の布団を全面的にもてはやす内容だ。

記事は、寝具担当のコートニー・シュリー上級エディターによるもので、彼女自身の日本での体験を通じ、布団への愛を強調している。「日本の布団ほど、よく眠ったことはない」とシュリーさんは言う。

 


シュリーさんは夫と3人のまだ幼い子供とともに、米東海岸の住み慣れたフィラデルフィアの街を後にし、日本の東京で1年間暮らすことになったという。2LDKの新居を急いで整えようとしたシュリーさん一家だが、「でも、絶対に買わないと心に決めていたものが1つありました」という。「それは、ベッドです」

一家が重視したのは、スペースの問題だ。2LDKに夫婦と子供3人という暮らしは、狭すぎるというほどではないものの、できることなら室内の余裕は残したい。そこでシュリーさんは、「代わりに人気で安価な家具店であるニトリに直行し、布団とフォームマットレスのセットを300ドル以下で購入しました」という。

低反発のマットレスよりは硬いが、よく眠れる
こうして入手した布団セットだが、その寝心地は予想を超えたものだったという。

彼女は語る。「布団の表面は柔らかくて心地よく、詰め物とその下の固い床が、完璧な強さで(身体を)サポートしてくれました」「背中が心地良いんです。おそらく、布団にはクッション性と硬さの両方が備わっているためでしょう」

シュリーさんはアメリカの読者向けに、日本の一般的な布団には十分なクッション性があり、かつ低反発のマットレスよりは硬さのある寝具だと紹介している。

布団は日本を含むアジアでよく使われている寝具だが、欧米の人々のなかには硬すぎるとの先入観があるのか、実際に寝てもよく眠れなかったという声も聞こえる。

しかしシュリーさんの場合、硬軟が組み合わさった適度な素材感がいたく気に入り、どのベッドでよりも熟睡できる結果になったようだ。

いまはアメリカに戻り、寝具担当の編集者として活躍する彼女だが、ニトリの布団を本国へ持ち帰れなかったことが心残りのようだ。

 

仕事でさまざまなマットレスを試しているが、「けれど本当に正直なところ、日本の布団が心の底から恋しいんです」とこぼす。

西洋式のマットレスにはもう戻れない…
日本式の布団に心酔するのは、シュリーさんだけではない。

アメリカのジャーナリストであるヒラリー・ルボウさんは2021年、米CNETの親会社による大手健康情報サイト「ヘルスライン」に、「ベッドを捨てた:今は人生最高の睡眠を手に入れた」との記事を寄稿している。

きっかけは率直に言って、予算の問題だったという。ルームシェアを解消して初めての一人暮らしに挑んだ彼女だが、家賃の高騰するカリフォルニアで、広い贅沢ぜいたくな部屋は望めない。

「切手サイズよりもちょっとだけ大きな部屋」とルボウさんが苦笑するマンションは、正直なところかなり手狭だった。机も置きたいし、ヨガのスペースも確保したいという彼女の願望は、どうやら叶かなえられそうにない。しかし、突然のひらめきが訪れた。「待って、ベッドは必要?」

ルボウさんは、「それまでは必需品だと思っていたベッドが、急に無駄なスペースに感じ始めたのです」と振り返る。生まれてこのかた、ベッドで睡眠を取ってきた彼女にとっては、目からうろこのアイデアだったことだろう。

実際に布団での生活を始めてみると、沈みすぎない適度な硬さなどが幸いし、初日からぐっすり眠ることができたという。

 

「敷布団で過ごした最初の夜、私は人生で最も深い眠りに誘われました」とルボウさんは語る。

「わたしは2年以上もこうして寝ていますし、もしかすると西洋式のマットレスにはもう戻らないかもしれません。夢中になってしまいました」

不眠症の外国人記者も布団でぐっすり
布団はまた、日本を代表する旅館文化の象徴的存在でもある。自宅で試したとまでは行かずとも、日本滞在中に旅館で布団に寝泊まりし、その魅力を実感したという声は多く聞かれる。

旅行ジャーナリストのローナ・ソーンバーさんは、ニュージーランドの大手ニュースメディアである「スタッフ」に寄稿し、京都府南丹市は美山を訪れた際の体験談を綴つづっている。

山里にひっそりと佇(たたず)む、かやぶき屋根の一棟貸し宿に宿泊したという彼女は、地元の人々と一緒に作る料理体験や温泉などのアクティビティをひととおり満喫したあと、床に布団を敷いて眠った。

ソーンバーさんは「私は慢性的な不眠症なのですが」と打ち明けつつも、「その夜は重ねた布団のうえで、人生最高のひとつに数えられるほどの睡眠をとり、窓の半透明の障子越しにかすかに差し込む朝日で目を覚ましました」と振り返る。

 



欧米から旅行に訪れる多くの人々にとって、床や畳にほぼじかに眠る敷布団のスタイルは馴染なじみの薄いものだ。半ば尻込みしつつも、同時に興味の対象にもなっている。

 

旅行情報サイトの「トラベル」は、「ホテルよりも伝統的な日本旅館を予約する10の理由」のひとつとして、布団で眠る体験ができることを挙げる。

同サイトは、布団の感触が「最初はちょっと不思議な感じがするかもしれません」と前置きしつつも、「多くの人々が、布団は驚くほど柔らかく、(身体をしっかりと)支えてくれることに気づきます。間違いなく忘れられない一夜の眠りとなることでしょう」と述べ、布団での一夜を試してみるよう勧めている。

布団だから感じられる日本のおもてなし精神
ほか、旅館での布団体験は、さまざまな訪日客を魅了している。言わずと知れた旅行ガイド誌の『ロンリープラネット』は海外旅行者向けに、「日本の神髄を一度に味わいたいなら、旅館に泊まるのに勝ることはありません。そこでは日本の究極のおもてなしを体験することができるのです」と説く。

お茶や懐石料理とならび、食事に出ているあいだに布団が部屋に用意されている手際の良さが海外の関心を惹いているようだ。同紙に寄稿した豪旅行ライターのジェシカ・コートマンさんは、「ディナーに出ているあいだに、布団が魔法のように敷かれている」と舌を巻く。

ニュージーランド・ヘラルド紙も同様に、旅館の障子や畳などが醸し出す風情に加え、「ふかふかの布団が毎晩敷かれること」を旅先の優雅な体験のひとつに挙げている。

昼夜で異なる部屋の使い方に合わせ、タイミングよく上げ下げされる布団は、旅館のきめ細かな気配りを肌で感じるきっかけになっているのだろう。

外国人が布団に魅了される3つの理由
旅館での新鮮な布団体験はもとより、欧米でも一部の人々は、前掲のようにあえて布団を日常生活に取り入れている。布団愛用者の人々は、どのような点に魅力を感じているのだろか。実際の利用者の声に耳を傾けると、ベッドとは異なる3つのポイントが訴求しているようだ。

1点目は、眠りの深さだ。日本で1年間布団を愛用したシュリーさんも、もう2年も布団で眠っているというルボウさんも、そして里山で布団に寝泊まりした不眠症のソーンバーさんでさえ、人生で最高の眠りを味わったと口を揃そろえている。

カリフォルニア州ニューポートビーチの神経外科医であるアリ・メシワラ医師は、ヘルスラインに対し、布団は硬く、なおかつ身体をサポートする力があると説明している。このため、体圧が偏り不快な圧迫点を生じることが少なく、背骨が自然な状態に並びやすいのだという。

さらに、体圧の分散とは別に、体温の調整にも利点があるようだ。米女性向け雑誌のウーマンズ・ワールドは、日本の敷布団には春夏で枚数を調節できる利点があり、さらに床に接することから、余分な熱がこもらない利点があると説明している。

自然と眠りに落ちるためには、深部体温がある程度低くなっている状態が理想とされる。この点、床にじかに敷かれる敷布団は、熱の発散に優れるようだ。


2007年10月8日、箱根園周辺の旅館にて。和室に敷かれた二揃の布団2007年10月8日、箱根園周辺の旅館にて。和室に敷かれた二揃いの布団(写真=Micha L. Rieser/Wikimedia Commons)

上げ下げの手間は掛かるが、ベッドよりも衛生的
布団が欧米でも愛好者を生んでいる理由の2点目として、手入れがしやすく衛生的に保ちやすいことが挙げられる。

日本で1年間布団を愛用したシュリーさんは、ベッドと異なり上げ下ろしが必要な布団について、「むしろ、手入れがしやすいんです」と語る。

彼女は記事を通じ、アメリカの読者向けに、日本では布団をベランダの手すりに掛けて干す文化があると紹介している。シュリーさん自身も日本滞在中に実践し、夫と一緒に毎週のように布団を干していたのだという。

「手間ではありますが、なんだかんだ言っても、甘い香りとフレッシュな感触のベッドでくつろげることを考えると、その価値はあります」

ヘルスラインも同様に、「こうすることで太陽により繊維が乾き、細菌やダニを駆除することができます」と解説している。重さ数十キロにもなるベッドのマットレスを干すことはかなり難しいため、手軽な天日干しは布団ならではの利点と言えるだろう。

衛生面ではもうひとつ、ベッド下にホコリが溜たまらないという利点がある。家の死角に溜まるホコリの塊は、ふわふわのウサギに例えてアメリカで俗に「ダストバニー」と呼ばれる。

シュリーさんの場合は布団での生活中、ベッド下から漂うダストバニーを目撃することがめっきりなくなったとして満足していたようだ。

熟睡、清潔、空間活用の3拍子がそろっている
せまい日本の住宅で古くから愛用されている布団は、スペースを有効活用できるという強みもある。これが3つ目の利点だ。日中は和室を皆が集うリビングとして活用し、夜になると寝室に早変わりという技が可能だ。

欧米でもベッドに占領されたスペースを何とかしたいという意識はあり、「マーフィーベッド」と呼ばれる変わり種ベッドが開発されている。日中はベッドを跳ね上げ、壁面に固定しておくという手の込んだ解決策だ

しかし、あまり広く市民権を得るには至っていない。高価になりがちなことに加え、構造上の強度にも不安が残ることなどから敬遠されているようだ。

これに対して布団は、折りたためる寝具を床に並べるというシンプルな造りだ。それでありながら、熟睡でき、身体の安定性に優れ、適度に熱を逃がし、そして清潔かつ空間も有効活用できるメリットがある。

こうした利点から、ベッドが主流のアメリカなどでも、布団が寝具の選択肢のひとつとして成立しているようだ。

布団の天日干し中写真=iStock.com/Kayoko Hayashi※写真はイメージです

海外で「布団派」がじわり広がっている
ベッドと比較してメジャーな存在とはまでは決して言えないまでも、小売り大手のウォルマートでも豊富な品数が揃う。日本の敷布団と同等の商品から、厚みからしてややマットレスに近いものまでを含めると、その数は優に100種類を超える。

まだまだ床に寝ることに抵抗感があるという人々も多いなか、好みや体格によっては、むしろ布団の方がよく眠れると気づく人々がいるのだろう。

布団がベッドよりも一様に優れているというわけではないが、長くベッドに親しんできた欧米の人々のなかにも、自身のスタイルには布団の方がぴったりだと感じる人々が出ているようだ。

 

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