中国共産党が喧伝する「穀物自給率98%」の真っ赤なウソ
欧州も日本もエルニーニョ現象で熱帯と化しているが、殊更、中国には新たな危機が訪れている。それは、洪水と渇水である。中国がこれほどまでに渇水にもがいているとは決して知られてはならないことである。以下、中国管轄の日本のマスコミでは決して報道されない中国の現状を知る。習近平政権は「水危機」で静かに弱体化している…中国共産党が喧伝する「穀物自給率98%」の真っ赤なウソ8/1(土)プレジデントオンラインhttps://president.jp/articles/-/116801?page=1習近平の長期政権を脅かすものは何か。新刊『習近平は何を恐れているのか?』(ビジネス社)を上梓した評論家の白川司さんは「首都北京、中国共産党の中枢、人民解放軍の総司令部、そして最大の産業集積地が、水リスクを抱えている中国北部に集中していることだ」という――。AIより水インフラの整備が急務2026年4月28日、中国共産党中央政治局会議は、「六つのネットワーク」の整備を打ち出した。水網、新型電力網、算力網、次世代通信網、都市地下管網、物流網である。7月に新華社が配信した解説記事では、これを「治水の偉業」として誇ったが、この実質的な宣伝記事は、実は意図せずして中国の最大の弱点を晒したものになっている。中国北部は慢性的な水不足に悩まされており、南部の長江の水を北部へ送り込む巨大プロジェクト「南水北調」が進められてきた。長江の上・中・下流から取水する「西線」「中線」「東線」の3ルートで構成され、このうち東線は2013年、中線は2014年に通水している。一方、青蔵高原東部を通る最難関の西線は、技術的・環境的な困難からいまだ着工に至っていない。新華社は、この南水北調の東線・中線一期による累計送水量が892億立方メートルを超え、沿線48の大中都市・約1億9500万人が恩恵を受けたと伝える。華北の治理区では、2025年末時点で、2020年比で浅層地下水位が3.76メートル、深層が7.65メートル回復したとしている。これらの数字を信じれば、北京の水道水の7割以上が南水北調のルートから来ており、天津中心部はほぼ全量を南方の水に依存している。重要なことは、基幹インフラ計画で水がAIや通信より上位に置かれた点だ。これは水問題が今後の国家運営にとって大きな制約になることを、中国政府が自ら暴露したようなものである。水資源の割合は「南部8:北部2」中国の水問題の根本は、水資源において南北に極端に分断されている点にある。中国国家発展改革委員会の調査報告(2009年)によれば、長江以南は国土面積の36.5%で水資源量の約81%を占め、淮河以北・西北地区は国土面積の63.5%を占めながら水資源量は19%にとどまる。耕地で見ればさらに深刻だ。北部の海河流域と淮河流域は、全国の耕地面積の4分の1を抱えながら、水資源はわずか4%しかない。※姜美松「北京市の水資源管理対策の現状と課題――流域ガバナンスの視点から――」(『名城論叢』2013年9月)上記のデータはやや古いが、この基本構造は変わっておらず、全体から評価すればむしろ悪化していると考えられる。これはつまり、北部の水不足地帯のど真ん中に、北京(約2200万人)、天津(約1400万人)、石家荘(約1100万人)といった重要都市が並んでいるのである。共産党の中枢も、人民解放軍の総司令部も、中国最大の産業集積地もここにある。北京の一人当たり水資源量は国際平均の数十分の1に過ぎない。中国はわざわざ水リスクが高い場所に国家の心臓部を置いているのだ。最大の穀倉地帯を支える「化石水」水不足は都市の問題にとどまらない。より深刻なのは農業である。全水使用量の約6割を農業用水が占め、その多くが地下水の汲み上げで賄われる。とりわけ華北平原は中国最大の穀倉地帯だが、生産を支えるのは持続不可能な地下水の大量採取だ。冬小麦と夏トウモロコシの二毛作は灌漑なしに成立せず、年間降水量のうち冬季に得られるのはわずか30%しかない。地下水には、雨が補充する浅い帯水層の「流れている水」と、補充されない深い帯水層の「たまっている水」の大きく二種類がある。華北平原では浅い層が枯れ、深井戸で後者を汲み上げるのが常態化した。現在使われているのは数万年から数十万年かけて蓄積した「化石水」であり、一度失えばもとには戻らない。NASAの重力観測衛星GRACEのデータを解析した研究によれば、2003年から2010年にかけて華北では年間約83億立方メートルの地下水が失われ続けた。地下水位の低下速度は年2.2センチに達する。地下水位はその後、実際に回復に転じている。ただしそれは、南部から水を回してもらい、農地を減らすという大きな代償を伴っている。※Wei Fengほか「Evaluation of groundwater depletion in North China using the Gravity Recovery and Climate Experiment (GRACE) data and ground-based measurements」(『Water Resources Research』2013年)※Di Longほか「Unprecedented large-scale aquifer recovery through human intervention」(『Nature Communications』2025年)■「自給率98%」という数字のトリック 習近平は「中国人の飯碗は中国人自身の手でしっかり握らなければならない」と繰り返しており、実際、公式統計では2024年の食料生産量は過去最高の7億トンを突破し、三大主食穀物の自給率は98%台を維持しているという。 この数字にはカラクリがある。 中国語の「食糧安全」は文字どおり「穀物の安全」で、米・小麦・トウモロコシだけを指す。つまり、飼料用穀物や食用植物油、畜産品は計算に含まれないのである。 では、実態はどうか。大豆の自給率は2000年の62.4%から2020年に16.6%へ激落した。大麦は17.6%、ソルガムは18.8%。食用植物油の輸入依存率は約70%で、原油の輸入依存度に匹敵する。 米外交問題評議会(CFR)の報告によれば、食料自給率は全体として2000年の93.6%から2020年に65.8%へ低下した。中国は2004年に食料の純輸入国に転じ、2021年には世界最大の食料輸入国となっている。しかも、うわべの数字を維持するために、農業生産の拠点を水が足りない北部へシフトさせているのである。 ※COUNCIL on FOREIGN RELATIONS「China Increasingly Relies on Imported Food. That’s a Problem.」(2023年1月25日)※ChinaPower「China’s Food Trade with the World」■水の足りない北部を耕し続けている 衛星データの分析によれば、華北平原では2001年から2013年までに都市が1万4000平方キロ拡大し、農地は2万1000平方キロが失われた。その穴を埋めたのが、東北平原と新疆(しんきょう)の開墾である。水の足りない場所で都市が農地を食い、さらに水の乏しい場所を新たに耕している。 ※Chao Wangほか「Spatially differentiated trends in urbanization, agricultural land abandonment and reclamation, and woodland recovery in Northern China」(『Scientific Reports』2016年) 水の豊かな南部の農地を減らして、水の足りない北部の農地を増やすというのが、中国の農業政策の実態である。 水のない場所で農産品を増産すれば、いつか地下水は枯れることになる。それでも止められないのが、中国の問題先送り体質の厄介さである。 2022年夏、長江流域は1961年の統計開始以来、最も長く高温が続いた。降水量は例年より4割減り、長江の水位も1961年以来の低さとなった。直撃を受けたのが四川省である。同省は電力供給の8割以上を水力に依存しており、猛暑で電力需要が25%増加する最中に、水力発電能力は半分以下に落ち込んだ。 ※AFP「中国四川省、60年ぶりの高温と干ばつで深刻な電力不足に」(2022年8月20日)https://www.afpbb.com/articles/-/3419858 国有電力会社・国家電網有限公司の四川電力コントロールセンターでエンジニアを務める周剣氏によりますと、四川省の電力供給の8割以上は水力発電によるもので、今年は高温と干ばつで各河川流域の水量が急速に減少し、主な水力発電所の発電量は既に最低レベルまで下がって、全省の水力発電能力は5割以下に減少したということです。(c)CGTN Japanese/AFPBB News■水力発電に依存する四川省の惨状 この干ばつで四川省政府は8月15日から、省内のほぼ全域の工場に操業停止を要請した。当初は20日までの予定が25日まで延長され、フォルクスワーゲンやBOE(京東方科技集団)を含む省内ほぼ全ての工場が約2週間止まった。 トヨタは成都工場の完成車生産を停止し、EV電池世界最大手のCATL(寧徳時代)も宜賓市の主要リチウム電池工場を止めた。隣接する重慶市ではパナソニックやデンソーが操業を休止し、テスラの部品調達にも支障が出た。 ※JETRO「四川省、電力制限を緩和、工場などが順次再開」(2022年9月1日) 習近平指導部はこの反省から再エネ拡大と原子力増設に舵を切ったが、原子力は冷却水を大量に必要とする。沿岸部は海水を使えるが、内陸部の原発は河川水に依存する。渇水が深刻化すれば、原子炉もまた稼働制限を迫られうる。水危機から逃れるための電源が、水危機に人質を取られているのである。■氷河が消え、水源が喪失している チベット高原は「アジアの水の塔」と呼ばれ、長江・黄河・メコン川など主要10河川の水源である。その氷河が急速に失われつつある。ヒマラヤの氷河は今世紀に入ってから、それ以前の25年間に比べ2倍の速さで融解している。 ※ダイヤモンドオンライン「『水爆弾だ…』中国が進める“世界最大級ダム”建設で、日本が直面する3つの深刻リスクとは?」(2025年8月22日) 中国が2025年に公表した「第三次氷河編目」によれば、1960年代から2020年にかけて国内の氷河面積は約26%縮小し、約7000本の小氷河が完全に消滅している。さらに、「第二次編目」(2008年前後)と比較すると、2008年から2020年の12年間だけで約6%が失われている。中国側も認めているとおり急速な後退期に入っている。 つまり、南水北調という「自転車操業」の補給源そのものが細りつつある。北部の地下水は枯れ、南部からの補給も細る。取水元の漢江の水量も近年は減少傾向にあり、2025年春には水が豊かとされる長江中下流域でも異例の水位低下が観測された。南部に負担を押しつけて北部を維持する構図は、南部の余裕が消えた瞬間に成立しなくなる。 しかも今年、その振れ幅はさらに大きくなりうる。香港天文台は2026年6月末、現在のエルニーニョ現象が「超強」レベルへ発達し、観測史上最強となる可能性があると発表した。洪水と渇水が交互に襲えば、既存の水利インフラの設計思想そのものが前提を失う。■「対症療法」しか選べない習近平の事情 問うべきは、なぜ中国政府がこの問題に正面から取り組まないのか、である。 北部の水危機に対処するには、水を大量消費する作物からの転換、産業廃水の規制強化、節水技術の普及といった地道な積み重ねが必要だ。乾燥地帯のイスラエルは点滴灌漑や廃水の農業利用、海水淡水化を駆使し、農業用水を劇的に削減しながら食料生産を拡大した。水危機は技術と政策で乗り越えうる課題なのである。 だが、中国政府が選んできたのは、一貫して巨大インフラによる対症療法だった。南水北調然り、三峡ダム然り、チベット自治区のヤルンツァンポ川で進む世界最大級のダム建設然りである。総工費約24兆円、三峡ダムの3倍の発電量を持つとされるこのダム事業を、李強前首相は「世紀のプロジェクト」と呼んだ。 習近平指導部はなぜいつも対症療法しか打てないのか。それは習近平の独裁体制では政策の誤りを認められないからである。■貴重な水を汚し、「使えない水」に 農業生産量を下げれば「食料安全保障の失敗」になる。地下水採取を制限すれば農民の収入が打撃を受ける。電力を節約すれば経済成長が鈍化する。どの選択肢も、過去の政策判断が誤りだったと認めることになる。 だが、習体制において、それは不可能に近い。独裁体制ゆえに「政策の失敗=習近平の失敗」になり、ぜったいに認められない。習に逆らえないマスコミが糾弾することもなく、政策の失敗は「存在しないもの」として扱われる。 水質汚染も同じだ。生態環境部の2018年データでは、河川流域の地表水の6.9%が「あらゆる用途に不適」、18.9%が「農工業用のみ可」とされる。とりわけ深刻なのが海河流域で、河北省と天津の工業地帯を抱えるこの流域は中国の主要流域で最も汚染がひどく、地表水の半分以上が飲用に適さない。 ※ChinaPower「How Does Water Security Affect China’s Development?」 なんと、ただでさえ足りていない水を、わざわざ汚して使えなくしている。愚行と評価するしかない。■習近平が恐れる水問題の「臨界点」 現在のペースが続けば、華北平原の地下水は数十年以内に農業用途として利用不可能な水準まで低下するという研究もある。 衰退が徐々に進むなら、大規模化や機械化で対策の余地がある。だが地下水は、水位が下がっても汲み上げ続けられる限り生産量を維持できてしまう。深井戸を掘れば、しばらくは同じ収穫が得られる。 だが、「限界」に達した瞬間に生産性が急落する。中国政府はこの「断崖崩落型」のリスクになりがちだ。 その予兆はすでに出ており、2024年には広東や四川で水不足をめぐる小規模な抗議がネット経由で報告され、SNS上では「水貧民」「水分配の不平等」といった言葉が拡散されている。 干ばつに起因する飢饉が中国17王朝のうち少なくとも5つを倒したと言われる。指導者たちがそれを知らないはずはない。だが、目の前の権力闘争と忠誠競争に精一杯なのだろう。■中国資本が日本の水源を買い漁る理由 この問題は対岸の火事ではない。中国の水危機は、少なくとも三つの経路で日本に波及する。 第一に、食料調達コストである。世界最大の食料輸入国である中国の買い付けが国際市場を直撃すれば、日本は同じ市場で競合することになる。 第二に、サプライチェーンだ。2022年の四川渇水が示したように、中国の電力不足は日本の製造業を直接止める。トヨタの成都工場停止は、その予行演習だった。 第三に、人と資本の移動である。北海道のニセコや倶知安など水源近くの土地が中国資本に相次いで取得されてきた。観光開発目的と説明されるが、水不足に直面する国の資本が水源に強い関心を示す構図を、リスク管理の観点から無視するのは合理的ではない。 そして最も警戒すべきは、この制約が中国の対外行動を過激化する可能性だ。水問題で国家運営が危機に瀕して「時間は中国の味方ではない」と認識したとき、何が起きるか。 冒頭で紹介した2026年4月の政治局会議は、中国が水網を自らの制約として認識していることを示す。だが、認識することと解決できることは別である。誤りを認められない体制は、認識した問題にすら正面から取り組めない。 崩壊しないまま長く弱っていく大国と、その弱さゆえに危険になっていく隣国と、どう付き合うか。日本がいま直面しているのは、そういう厄介な課題である。----------白川 司(しらかわ・つかさ)評論家・千代田区議会議員国際政治や日本論など幅広いフィールドで活躍。(以下省略)m