No.3 クヴェードリンブルクの町家:制作2004年12月、銅板24㎝×18㎝
クヴェードリンブルクは、ドイツ中部のザクセン=アンハルト州に属する人口2万3千人ほどの街である。筆者は1997年9月、当地を訪問した。ベルリンから鉄道で行き、州都マグデブルクで乗り換えて、約3時間半を要した。
イギリスをはじめ、フランスやドイツの諸都市(例えば、ドイツではブラウンシュヴァイク、ハーメルン、ツェレ)には、建物の外観に柱、桁、梁、斜材の骨組みを露出させ、柱間を煉瓦、石材、あるいは漆喰仕上げの土壁で充填した町家が見られる。ハーフティンバー(half timber、ドイツ語でFachwerk)と呼ぶ構法であり、半木骨造とも訳す。
クヴェードリンブルクには、14世紀にまで遡れるこの種の家屋がある。それは2階建てで、土台から軒桁まで通し柱を用い、壁を漆喰で仕上げたものであった。15世紀中頃からは各階を柱と桁で組み、下階に上階を積み重ねる構法が広まった。これにより、3階建て以上の高層化が可能になるとともに、上階を張り出させた家屋が現れた。上階を大きくして居住面積を広げたのは、1階にかけられていた税金への対策だとされる。また、上階の張り出し部分(出し桁)とその上の腰壁に、繰形(クリカタ)や木彫を施した飾りが付けられ、町並みに独特な華やぎを添えていった。
当地には、近代までの過去6世紀の間に建てられた約1300棟もの町家が残り、ハーフティンバーによる様々な構法と意匠の歴史を、通時的に体験できるところに大きな価値がある。
なお、この作品では影の部分をアクアチントで処理している。それは、松脂の細粒を銅板面に降り、裏面から熱して溶解させた後に腐食する技法で、均質な陰影面を造るのに適している。