No.54 神社本殿の木彫:制作2008年5月、銅板18㎝×24㎝

   

   本作品は、都久夫須麻(ツクブスマ)神社本殿の板壁に施された木彫の一部である。同本殿は、琵琶湖に浮かぶ竹生島(チクブシマ)にあり、国宝に指定されている。

   この本殿は、永禄元(1558)年の焼失後、同10(1567)年に再建された。その後の慶長7(1602)年、ここに伏見城の遺構を移して、同本殿の身舎(モヤ)部分が造り直された。

   筆者は、竹生島を訪れたことはない。『日本の意匠(デザイン)第5巻』(京都書院、1984)掲載の同本殿の図版「芙蓉尾長鳥木彫」に出会ったときに、一目ぼれした。

   これまで、茶室等の木造を作品の対象とすることが多かったこともあり(本ブログNo.10, 33など)、木目をはじめとした材質の表現を習得したかったことが、この「芙蓉尾長鳥木彫」をエッチング作品として写し取りたいという気持ちにさせたのである。

   ここには、芙蓉の花と枝葉の群生する中に、2羽の尾長鳥が、片や止まり、片や飛翔する姿で彫られている。芙蓉の花姿は、古来から美人の形容に例えられ、尾長は、縁起の良い高貴な鳥として、建物の欄間彫刻に見られるほか、芙蓉、梅、松、牡丹などと組み合わせて絵画に描かれた。

   都久夫須麻神社本殿は、桁行3間、梁間3間の身舎の四周に庇を出し、檜皮葺きの入母屋造りの屋根の前後に軒唐破風が付く。その造りは豪壮である。

   文化庁の国指定文化財等データベースによると、この身舎は「漆塗、金蒔絵、彫刻、極彩色に鍍金金具を以って装飾し、極めて豪華富麗であり且つ手法の優秀なこと、桃山時代の代表的建築と云える。」とある。

   今回の木彫は、本殿正面の中央扉に向かって右手の板壁のもので、このほか、同本殿には、夥しい数の木彫装飾が施され、豊臣秀吉時代の栄華を今に伝えている。

 参照、『國寶都久夫須麻神社本殿修理工事報告書』(同神社境内内出張所編、文生書院、2005年)