No.53 西翁院淀看席:制作2003年3月、銅板24㎝×18㎝

 

   本ブログにおける茶室の紹介は、三溪園の春草盧(No.10)、大徳寺の茶室忘筌(No.33)に続いて3作目となるが、制作年では、この西翁院淀看席(サイオウイン ヨドミノセキ)が最初の作品である。

   淀看席(澱看席とも)は、京都市左京区黒谷町に位置する金戒光明寺(コンカイコウミョウジ)の塔頭(タッチュウ)西翁院に設けられた。文化庁の国指定文化財等データベースによると、1684~1687年頃に建てられた国の重要文化財である。千宗旦の弟子藤村庸軒(1613~1699)の作になる。

   淀看席の室内は、2畳の客座と1畳の点前座(テマエザ)から成る3畳敷であり、客座に間口4尺の床(トコ)を設置する。本作品は点前座の光景であり、画面右手に見える半円形の出入口(火灯口と呼ぶ)に隣接して客座がある。

   この点前座の正面と左手に、それぞれ壁下の小舞(コマイ)を現した下地窓があり、正面の左上に一重棚が付く。また、この障子窓の戸当たり付近に竹を添え、棚も同様に竹で吊る。なお、淀看という名は、画面左の下地窓から淀方面を遠望できたことに由来する。

   茶室を選んだのは、堀口捨己編『茶室』(日本の美術 第83号、至文堂、1973年)掲載の淀看席の図版が目に留まったからである。それは白黒写真であり、濃淡を伴う陰影が茶室の持つ素材感を、カラー写真以上にうまく引き出しているように思えた。そして、このモノクロームによる表現は、そのまま一色刷りのエッチングに通じるのである。したがって、本作品では、エッチング技法でこの茶室の素材感にどこまで迫れるかを課題とした。

 壁の表現には、陰影に留意しながら土壁特有の質感を、壁下部の腰張りには、和紙が放つ柔らかな光沢をそれぞれ追及した。棚を吊る竹と窓脇のそれは鈍く光り、畳表には外光がほのかに反射する。そして、障子窓には小舞が影絵のように映る。20年前に制作した本作品で、茶室における侘びの表現は、まさにエッチング向きであることを実感した。

参照:堀口捨己編『茶室』(前掲書)