石油化学産業で中間原料として使われているプロピレンを、エタノールから製造する方法が開発されました。
日経産業新聞 11月7日(火) p10
[概要]
・東京工業大学がエタノールからプロピレンを製造する触媒を開発
・触媒は、酸素・アルミニウム・珪素・燐から成る直径0.43ナノメートルの微細な空洞が多数空いたもの
・触媒を石英製の反応管に詰め、反応管の上部からエタノールを流し込み、反応管を400℃に加熱すると、触媒の空洞中で水とエチレンが生成する
・触媒の空洞中でエチレン同士が結合して種々の炭化水素を生成するが、空洞の直径がより大きな炭化水素は空洞から外へ出られず、分子の直径が小さいプロピレンのみが抽出できる
「400℃」ってのが今ひとつと思えます。もっと低い温度で反応する割安な触媒を見つければ、石油高騰時代に使えるのではないでしょうか。エネルギー投入量をなんとか減らす側で研究してほしいものです。
ナンヨウアブラギリという植物があるそうです。
熱帯に広く分布し、荒地でもよく育つそうです。種は有毒で食べられないそうですが、油の含有率が高いそうです。
で、この種からバイオディーゼルを製造し、発電に使うとのこと。
九州電力、インドネシアの地方政府(西ヌサントゥガラ州)、三菱総合研究所、バンドン工科大学が共同で研究開発したのだそうです。
荒地でも育つ、というところがパームヤシより優れているのでしょうね。
出典は、日刊工業新聞11月6日版1面です。
#132の続きです。
SGWさんとこなどでも取り上げられていますが、11月2日の新聞報道以来この話が盛り上がってきましたね。先月はバイオエタノール関連の記事が急に増えました。
基本的な私の見解は#132で述べた通りで今でも変わりません。
付け加えることとしては、「エタノール派(農林水産省、環境省)」と「ETBE派(石油業界)」の対立をしばらくは観察しているしかなさそうだ、ということですか。
色々記事を読んでいると、経済産業省は基本的には石油業界側に立っているのですが、どうも不明確なところがある感じが私にはします。
私は、長い目で見るとETBEが負けてエタノールがガソリンの添加剤として勝ち残るのではないか、と思っていますが、当面(来年?)はETBEがとりあえず東京近辺ではお目見えするのかもしれません。
この問題はなかなか興味深いので、関連する記事の概略でなく、その全文を載せていこうと思います。
まずは、その端緒となった記事から。
日本経済新聞朝刊 11月2日(木) p5
(Quote)
バイオ燃料 首相、普及促進を指示 - ガソリン消費の1割目標
安倍晋三首相は一日、首相官邸で松岡利勝農相と会談し、植物資源を使った国産バイオ燃料の普及を促進するよう指示した。ガソリンの年間消費量の一割にあたる約六百万リットルをバイオ燃料で賄うことをめざす。農林水産省を中心に関係省庁を集めた推進会議を近く新設し、目標の実現に向けた工程表を来春をめどに取りまとめる。
首相は同日、官邸で記者団に「地球環境、地域活性化や農業の活力の観点から、ガソリン使用量の中のバイオ燃料の比率を上げていくべく、政府として取り組んで行きたい」と語った。首相は所信表明演説でもバイオ燃料の利用加速を打ち出している。
バイオ燃料はサトウキビなどの植物や廃木材をもとに生産。主要な燃料であるバイオエタノールは自動車向けとして、ガソリンに混ぜて使う。政府は全国六カ所でバイオ燃料の試験生産に取り組んでいるが、二〇〇五年の生産量は三十キロリットルにとどまり欧米諸国に比べ大きく劣っている。
バイオ燃料の利用が広がれば、石油消費量の抑制や地球温暖化の防止のほか農業振興にもつながる。まず北海道と沖縄を実用化の拠点とし、農家などでの生産体制の整備などを急ぐ方針だ。 (Unquote)
石油消費量が抑制されるかどうか、地球温暖化を防止するのに役立つかどうか、農業振興を促進する効果があるかどうか、は別にして、何はともあれ、
・首相が農林水産大臣に指示した
・推進会議が農林水産省中心の会議となる
ことは、この記事からは間違いなさそうです。
後日記事を掲載しますが、石油業界の業界団体はこの件について強く反対意見を出しています。しかし、この記事に書いてある情報が間違っていると主張してはいません。石油会社の主管官庁たる経済産業省も同様です。
「首相がバイオエタノール利用を推進しろと命じたとは聞いていない」というところまでは、石油連盟の会長が発言しているんですけどね。それ以上言わないところを見ると、それ以上言えない事実があるんでしょうね。
さて、そういうことになりますと、推進会議の事務局を農林水産省の官僚が牛耳り、経済産業省ひいては石油業界の意見が通りにくくなる事態が予想できますね。
「遠い将来」を連載中ですが、この連載は隔週で掲載することにします。
ですから、12月4日(月)~9日(土)は、「遠い将来」は掲載しません。いつものバイオ燃料ねたを投稿します。
そうしないと、「未来予測ブログ」になってしまいますので。 (^^;)
別に風力発電や水力発電でなく、太陽電池でもエタノール精製工場でも良いのですが、全く石油や天然ガスなどの化石燃料の投入が直接にせよ間接にせよなされていないという代替エネルギーは、いまのところ存在しません。
だから、代替エネルギーをエネルギー源の主力とするのって大変なんですよ。「太陽光社会」とか、「風力社会」とか、そういった社会への道のりは長いです。
これは、それだけ石油が便利な資源であることを意味しています。あまりに便利なので、生活のあらゆる局面に入り込んでしまっているのです。
というわけで、「朝起き抜けに顔を洗う」というただそれだけのことをした時点で、もうすでに石油に依存してしまっているのです。我々の生活はそういうものになっています。
「起き抜けに顔を洗う」行為についての石油への依存は、電気エネルギーに対するものだけではありません。
蛇口にはパッキングが入ってますね。パッキングはゴムで出来ています。
中には天然ゴムで出来ているパッキングもあるかもしれませんが、大半は合成ゴム、そう、石油由来の物質のはずです。
水道管もそうですね。プラスティックで出来ている部分が少なからず存在します。
排水が流れていく下水管にもプラスティックが使われてますね。
このように、動力源だけでなく、物的な存在、素材としての石油の利用も、朝起きたときから始まっているわけです。
ご飯と味噌汁の朝ごはんを食べたとしたら、少なくとも「天然ガスから作った化学肥料を栄養源として石油から作った農薬に守られて出来た白米」を口に入れていることになります。ひょっとしたら、その白米を「石油から作った器」に入れ、「石油から作った細長い棒(プラスティック製の箸)」でその器から口に運んでいるかもしれません。
朝ごはんの後に歯を磨いたら、「石油から作った中性洗剤」を「石油から作った樹脂製の細長い毛の束」に載せて口の中に入れているわけです。
こういう「石油起源の ~ 」というリストは延々と続きます。みなさんも考えてみてください。近代的な生活のほとんど全ての局面で、我々は石油や天然ガスの助けを借りています。
風力発電の例も挙げましょう。
風力発電も、一般の認識とは異なり、「現状では『石油を使わず二酸化炭素を排出しない、純粋な意味でのクリーンエネルギー』だとは言えない。今のところ石油にある程度依存している存在だ」と私は考えています。
風力発電機を製造する段階で組立工場の機械を作動させるのに石油を消費しますね。
その前に、風力発電機を構成する部品や素材の製造にも石油を消費しますね。プロペラなんか炭素繊維強化複合プラスティックで出来てますから、石油の塊みたいなものです。
その部品や素材をそれらの工場から組立工場へ輸送するのにも石油を消費しますね。
風力発電機が工場である程度完成したら、その発電機を設置する場所(建設サイト)へ輸送しますが、それにも石油を消費します。細長いタワーやプロペラを船やトレーラーに載せて運ぶんです。
建設サイトへ運んだら、クレーンを使って設置します。クレーンを動かすには石油(軽油)が要りますね。
送電線も、水力発電所ほどの重装備ではありませんが、必要です。ここでも石油を消費します。
少なくとも、これくらいは必要です。
ま、でも、水力発電所ほどには要らないようにも思えます。データがありませんのではっきりしたことは言えませんが。
電力供給が始まったらそれでメデタシメデタシかというと、そうでもありません。
しばらくはいいんですけどね。
どんな機械、設備でも、保守点検それに修理が必要です。
大型の水力発電所を保守点検修理する、というのは、高層ビルのような大きな建造物を保守点検・修理するってことです。
自家用車の修理とは違うんですよ。
特に問題になるのは、ダム本体のコンクリートが劣化してきた場合の補修でしょうね。「補修」と名がついているとちょこちょこっと作業するように思われるかもしれませんが、実際には再び建設工事をするようなものです。もちろん、そうそうめったにあることではありませんし、工事の規模も最初に更地に建てるよりははるかに小さいでしょうけど。
最初の建設工事に比べてずっと少ないとはいえ、また石油を使うことになります。
せき止めた河川に土砂が堆積してくるのも大きな問題です。ダムがせき止めてできた湖が、次第に埋まってくるわけです。
ダムがせき止めてできた湖が、幸い巨大な湖であれば、土砂の堆積が問題化するまでの時間をかなり稼げます。そういう場所はまだ良いのですが、日本に多くあるような比較的小型のダムですと、20年くらい経つと問題化したりすることがあります。
中国の黄河に建設されたダムなんかでは、事態は深刻だそうです。
土砂が堆積し過ぎないよう時々浚渫しなければなりません。浚渫にまた石油を使います。
浚渫した土砂をどこかに廃棄処分しなければなりませんから、トラックか何かで土砂を輸送することになります。また石油を使います。
もっとも、ダムの構造によっては、溜まった土砂を洗い流せる構造になっていることもあります。上述した黄河にかかるダムでは、こういう構造が最初から組み込まれています。こういう場合は、土砂の処分にあたって石油の消費はわずかで済むでしょう。
もっとも、下流に土砂を流すことの影響に注意を払う必要は出ます。洪水の危険性が上がりますから。
ここで一つおたずねします。
下流に土砂を流すことによって土砂災害の危険性を高めることと、化石燃料を浪費することと、あなたならどっちを取りますか?
これって結構本質を突いている問いかけだと思いますよ、私は。エネルギーを人間が使うのは、人間の生活を便利で快適にするためなんですから。災害防止の努力も「人間の生活を便利で快適にする努力」の一環でしょう?
そういう尊い努力も、見方によっては「エネルギーの浪費」かもしれないわけです。
水力発電は「クリーンで二酸化炭素を排出せず、再生可能エネルギー源なので石油や天然ガスが枯渇しても利用できる」と思っていませんか?
「再生可能エネルギー」というところだけはその通りですが、その他の点については現状では必ずしもそうとは言えません。
よくよく考えて見ましょう。
水力発電所は河川をせき止めるダムに併設します。水力を利用するためには、河川をせき止めることが必要です。
河川をせき止めるためには、土木工事が必要です。
土木工事をするためには、建設機械と建設資材が必要です。(労働者も必要ですが、ここでは無視します)
さっき原発について述べたのと同じことが当てはまります。
まず建設機械と建設資材の製造のために石油を消費します。
製造された建設機械と建設資材を工事現場に輸送するのに石油を消費します。
工事現場にそれらが輸送されたところで土木工事を行いますが、その土木工事の作業それ自体が石油を消費します。
ダムと水力発電所だけではなく、送電線の建設も必要です。電気エネルギーの消費地は都会ですからね。
これについても、建設機械と建設資材の製造、その工事現場への輸送、工事現場での施工作業、と3段階で石油を消費します。
こうしてやっとこさダムと水力発電所と送電線が完成し、電力供給を開始できることになります。
前回「生活における『全て』が化石燃料に依存している」と書きました。
この「全て」という表現は決して誇張ではありません。
例を挙げてみましょう。
朝起きたとき、洗面台で顔を洗いますね。そのとき、たとえ洗面所の電球を灯さなかったとしても、湯でなく冷たい水で顔を洗ったとしても、あなたは間接的ではありますが化石燃料に依存しています。
上水道はポンプで圧力をかけてあるからです。ポンプの動力源は電気エネルギーです。
電気エネルギーは火力発電所・原子力発電所・水力発電所・風力発電所などで生産されます。
火力発電所なら、間違いなく化石燃料のお世話になってますね。
原発は一見化石燃料のお世話になっていないように見えますが、そうでもありません。今のところ化石燃料の供給が全く無い世界で機能する核燃料サイクルは存在しません。
まずウラン鉱石を採掘しなければなりませんね。採掘する時点でパワーショベルなどの道具を使用し、石油を消費しています。
採掘した鉱石を精錬します。精錬所を稼動させる時点で化石燃料を消費しています。
例えばカナダで鉱石が採掘されたとします。
普通は一旦フランスで精錬しますから、カナダからフランスに鉱石を輸送することになります。船が石油を燃料として消費してしまいますね。
フランスでウラン燃料を精錬したとして、それを日本まで運ぶのにまた船を使います。また石油を消費します。
船が日本に着いたら、港で荷揚げします。クレーンを使ったら、直接か間接かは別にして、また石油を消費します。
陸揚げしたウラン燃料を加工して燃料棒を製造します。また石油を消費します。
燃料棒を原子炉に組み込みます。機械を動かすのでまた石油を消費します。
原子力発電所ではたくさんの作業員が働きます。彼らは放射線防護服を着ています。防護服の素材には石油由来のものが当然使われています。ここでも石油を消費してしまってますね。
そもそも、その燃料棒を組み込む原子炉を建設する時点で建設機械や資材輸送用の自動車などを動かすのに石油を消費しています。
それらの建設機械や建設用資材を製造する時点でも石油を消費しています。また製造された建設機械や建設用資材を原発の工事現場に運搬するのにも石油を消費しています。
なんだか気が遠くなってきましたね。もう少し我慢してください。
原子炉が稼動し、燃料棒が古くなったら、燃料棒を取り出し、再処理工場に運びます。また石油を消費します。
再処理工場で再処理し、使えるウラン235やプルトニウム239を抽出します。また石油を消費します。
色々な事柄が連鎖して複雑になってきましたね。そうなんです。エネルギーの供給と消費は社会のあらゆるレベルにまたがっていて、大変複雑な連鎖が出来上がっています。
私自身、この2月から真剣に調査し始めましたが、調査すればするほど、その連鎖が膨大で、実に様々なことを検討しなければならないことに改めて気づかされています。
このまま話を続けると膨大になってしまいますので、とりあえず原発の話はこのあたりで切り上げて、水力発電に移りましょう。
以前#127で述べましたが、化石燃料、特に石油は以下の目的で利用されています。
(1) 自動車やストーブや発電機など、人間が作った人工的な道具の動力源として
(2) プラスティック・化学繊維・洗剤・医薬品など、化成品の原料として
(3) 間接的な意味での人間の栄養源として(窒素肥料のこと)
これはつまり、人間の生活における「全て」が化石燃料に依存している、ということです。