第1段階: 何らかの方法で糖を得る
第2段階: 糖を発酵させて、エタノールを生成する。エタノールは水溶液として得られ、その濃度は10%程度である。
第3段階: 濃度10%程度のエタノール水溶液を蒸溜し、濃度90%以上のエタノールを得る。
第4段階: さらに脱水(蒸溜?)し、濃度100%近いエタノールを得る。
こういうことですね。
で、前回2番目の記事によると、この第3段階と第4段階で、「燃料エタノールに含まれるエネルギー量の55%」を費消する、というわけです。
仮に蒸溜と脱水だけでしかエネルギーを投入する必要が無いとしても、エネルギー収支は「1:2」弱にしかならない、ということです。
えらいことですね。蒸溜と脱水がボトルネックになっているわけです。
2番目の記事によると、とうもろこしから製造するエタノールの場合、「生産に使った分を差し引いて新たに得られるエネルギーが製品エタノールに含まれるエネルギーの20%」ということです。
ということは、エネルギー収支が「1:1.25」ということです。
これは、私がきかされている、corn ethanol のエネルギー収支とだいたい一致します。
ウェブサイト上をあさっていると、「1:1.2」あるいは「1:1.34」という数値が出回っています。
ま、どちらにしても、かつかつ1を上回っているにすぎません。
やっかいなことに、この「1を上回る分」のほとんどは、「エタノールを搾り取った後に残る絞りかすに含まれる家畜飼料としてのエネルギー量」だそうです。
ですから、液体燃料としてだけみると、とうもろこしから液体燃料を作っても、投入したエネルギー量とほぼ同じエネルギー量しか得られないわけです。
何やってんだか、わからなくなってしまいますね。
日経産業新聞 2006年12月18日(月) p17
(Quote)
バイオエタノール装置を導入
【釧路】 十勝圏振興機構(とかち財団)は研究用のバイオエタノール蒸留装置=写真=を導入した。JA北海道中央会が早ければ二〇〇九年度の開始を目指すバイオエタノール生産などに向けた研究に活用する。
まず規格外小麦などを昨年度に同財団が導入した装置でエタノール分が約一〇%になるまで発酵。それを新たに導入した蒸留装置で九〇%以上の濃度とし、さらに水分を除いて一〇〇%近い無水エタノールにする。蒸留装置は新たな資源循環システム研究のため、北海道農業研究センターが中心となり購入した。 ...(後略)... (Unquote)
次に、この記事を読んでいただきましょう。
日経産業新聞 2007年3月14日(水) p11
(Quote)
自動車燃料用生産に弾み エタノール濃縮効率化
食総研・東大が新技術 センサーにも応用
【つくば】 農業・食品産業技術総合研究機構の食品総合研究所と東京大学は、低濃度のエタノールを効率よく濃縮する技術を開発した。濃度が高くなると溶液を通す膜を開発、エタノールだけを通す膜と組み合わせて濃縮する。自動車燃料などとして期待されているバイオエタノールの効率的な生産につながるほか、センサーなどにも応用が見込める。
開発したゲート膜は、ポリエチレン膜に開いた微細な穴にエタノール濃度が高くなると縮む特殊なポリマーを塗布。濃度が低い間はポリマーが穴をふさいでいるが、一定の濃度以上になるとポリマーが縮んで溶液を通す。ポリマーの成分によって穴が開く濃度を調節できる。
食総研と東大の中尾真一教授らのグループは、エタノール濃度が八%を超えると穴が開く膜を試作。実際にエタノールを含む溶液が通ることを確認した。エタノールだけを通す透過膜と組み合わせれば濃度九〇%前後に濃縮できる。従来の蒸溜による濃縮に比べて必要なエネルギーを三割以上減らせ、透過膜だけだとエタノール濃度が低くなりすぎて発酵効率が悪くなる問題も防げる。
現在、バイオエタノールは二段階の蒸溜によって、燃料として使える一〇〇%近い濃度に濃縮する。この工程にエタノールから得られるエネルギーの五五%に相当するエネルギーが必要で、さらに材料の作物栽培にもエネルギーがかかる。生産に使った分を差し引いて新たに得られるエネルギーは、トウモロコシの場合でエタノールの持つエネルギー全体の二〇%にとどまるという。
新しい濃縮技術は一段階目の蒸溜の代わりに利用可能。発酵が進んでエタノールの濃度が一定以上に達したら新開発の膜で濃縮すればよく、新たに得られるエネルギーの割合を高められる。また、従来バッチ式で実施していた発酵を連続してできる可能性があり、生産コストの引き下げにもつながる。 (Unquote)
発酵させた後、どういう工程が待ち受けているか、整理してみましょう。
昨年8月22日に投稿した#68で、燃料としてのエタノールを製造する工程について説明しました。
その説明が足りなかったことにあらためて気づかされましたので、ここで補足します。
(砂糖作物や穀物から製造する場合)
発酵
↓
蒸溜
↓
脱水(蒸溜?)
(セルロース系原料から製造する場合)
前処理
↓
加水分解
↓
発酵
↓
蒸溜
↓
脱水(蒸溜?)
発酵してできた生成物を蒸溜するという重要な工程があったんです。
どうしてそんなに重要なのか、これからみていきましょう。
先月、ようやくこの本が出てくれました。
「投資銀行家が見たサウジ石油の真実(マシュー・R・シモンズ著、日経BP社刊)」
原題は "Twilight in the Desert" です。
この本は大変勉強になります。非常にお薦めです。サウジアラビアについてだけでなく、石油の探索・掘削・地質構造などの一般論についても色々と知識を仕入れることができます。
サウジアラビアは天然ガスを増産したいと述べています。私の場合この本を読んだ後では、そういう報道もどちらかというと警戒すべきニュースだと考えるようになりました。
これまで書いてきたことから、私は以下のように考えています。
① 2006年1月から、サウジアラビア国内のどこかの(超?)巨大油田で急激な減産が起こっている。その油田は重質油を産する油田(私はサファニアではないかと疑っています)
② アラムコは2006年半ばまで回復努力をしたが、結局どうにもならなくなった。そこで、状況を以下のようにして糊塗することにした
・ 当分可能な限り手元在庫を輸出して契約を守り、その一方で2006年の頭から生産が減少したとは公式には言わないこととした
・ 重油を輸入し備蓄しておいて、重質油を精製して多く得られる重油の国内・国外需要に充て、重質油不足をある程度隠蔽した
・ 10月のOPEC定例会議で状況を他国に説明し、OPEC全体での減産量のみ公開することにしてもらった。また、減産を11月から始めたという建前で押し通すことにした。こうすることにより、2006年初からサウジアラビアのみで急激に減産している様子を当面隠蔽できる
今のところ、この推定が正しいかどうかはまだ検証できません。
しかし、「カルテル内で1カ国だけが大幅に減産している」というのは不自然です。儲けるチャンスを1国だけ喪うのを受け入れているわけですから。
これだけなら、「サウジアラビアは従前同様 swing producer なのだ」と考えることもできますが、そう考えると、「2006年1月からOPEC全体として減産する」という展開にしなかったのはなぜなのか? という疑問が残ります。
新聞に出てきたのはイランとアラブ首長国連邦だけです。
ま、それは仕方ありません。サウジアラビア(31%)、アラブ首長国連邦(25%)、イラン(11%)の3カ国が、日本の3大原油輸入国ですから。この3カ国で3分の2です。
記事(12): 日本経済新聞朝刊 2006年10月27日(金) 31面
「原油供給削減を通告 UAE、11月積み3-5%」
記事(13): 日本経済新聞朝刊 2006年11月18日(土) 25面
「OPEC DD原油 減産姿勢 そろわず イランなど、契約量通り サウジ、供給削減を実施」
記事(14): 日本経済新聞朝刊 2007年3月9日(金) 27面
「4月積み原油契約通り供給 アブダビ」
まとめると、こうなります。
(ア) イランは供給量をほとんど削減していない
(イ) アブダビは11月積み・12月積み・1月積み・2月積みについて供給量を削減した。削減率は11月積みは3~5%(他は不明)
(ウ) アブダビは3月積みからは供給量を元の契約量通りに戻した
この様子から、サウジアラビア以外はわずかしか減産していないらしい、という推定が可能です。
前回#310の(d)と整合してますね。
「大きな問題」とは、「減産が2006年1月から始まっている」ということです。
昨年の前半、OPECは協調減産していません。少なくとも建前は。
読み取れることは、
(a) 2005年の後半は日量2810万バレル程度でずっと横這い
(b) 2006年1月から減産が始まった
(c) OPEC全体では、2006年の減産率は年率3.5%。減産量は日量100万バレル
一方、The Oil Drum 3月2日の投稿のグラフによると、サウジアラビアの生産量は
2005年年末頃: 日量940万バレル程度
2006年年末頃: 日量870万バレル程度
∴ 2006年1年間の減産量 = 日量70万バレル (減産率は年率7.5%程度)
ということは、次が言えます。
(d) OPEC全体の2006年の減産量の大部分は、サウジアラビアの減産によるもの。
すなわち、こういうことだと私は考えています。
(A) 2006年1月から始まっているOPEC全体の生産量の減少は協調減産とは言えない。1国だけが大幅減産している。
(B) 2006年10月のOPEC総会での「協調減産の決定」は、サウジアラビアがすでに大幅減産していた現状をカルテル全体が追認したことを意味している。
次は、他のOPEC加盟国の動きを見てみましょう。
#306で参照した「記事(8)」(日本経済新聞朝刊 2006年12月20日 29面)には、「米原油先物相場とOPEC生産量」という題がついたグラフが載っています。
また、日本経済新聞夕刊 2007年3月13日 7面 には「WTI原油価格とOPECの生産量」というグラフが載っています。この記事を「記事(11)」としましょう。
「記事(8)」と「記事(11)」から、OPEC生産量の推移を書き出します。
目盛りが大雑把なので大体の数値ですが、そこはご了承ください。
2005年 7月: 2820万バレル
2005年 8月: 2810万バレル
2005年 9月: 2810万バレル
2005年10月: 2810万バレル
2005年11月: 2810万バレル
2005年12月: 2810万バレル
2006年 1月: 2780万バレル
2006年 2月: 2790万バレル
2006年 3月: 2770万バレル
2006年 4月: 2750万バレル
2006年 5月: 2750万バレル
2006年 6月: 2760万バレル
2006年 7月: 2780万バレル
2006年 8月: 2800万バレル
2006年 9月: 2750万バレル
2006年10月: 2770万バレル
2006年11月: 2740万バレル
2006年12月: 2710万バレル
2007年 1月: 2700万バレル
ん? まず、「11月から日量2630万バレルに削減」というのは達成できてないですね。
報道されている通り、「削減の実施率=50%」というのは、概ね合ってますね。2006年10月と2006年12月を比較すると。
しかし、大きな問題がありますね。
4月22日(日)に掲載した1月12日付「記事(3)」には、こういう記述があります。
(Quote) ...(前略)... 供給削減は昨年十一月積みから四カ月連続。重油の精製比率が高く価格の安い重質のアラビアンヘビーについては、二〇-三〇%の削減を通知された石油会社もある。 ...(後略)... (Unquote)
他の記事も概ね「重質油の供給量を削減し、軽質油の供給量は契約どおり」と書いてあります。
これは何を意味するのか考えたあげく、そして4月に入ってからの West Texas Intermediate と Dubai の価格逆転現象を見て、#302で書いた次の仮説を立てたのです。
「サウジアラビアの油田で、昨年から中重質油の生産がうまく行かなくなった」
まず思い出されるのは、このニュースです。
↓
Asharq Alawsat 2006年9月2日 "Saudi Aramco Buys First-Ever Fuel Oil Cargoes" (Reutersからの引用)
http://aawsat.com/english/news.asp?section=6&id=6235
同じ記事は Energy Bulletin にも掲載されています。
↓
http://www.energybulletin.net/19997.html
サウジアラビアが昨夏に重油を輸入したわけです。史上初めて。
それから、#271で参照したこの2つも思い出しましょう。年率8%の減産、という分析です。
The Oil Drum 2007年3月2日
http://www.theoildrum.com/node/2331
The Oil Drum 2007年3月8日
http://www.theoildrum.com/node/2325
まとめるとこうなりますね。
(A) サウジアラビア1国で、全体として2006年は年率8%の減産
(B) 史上初めて石油・石油製品を2006年に輸入(重油)
(C) 2006年11月から重質原油の輸出を削減。重質原油に限ると減少率は20%程度?
(D) OPEC全体としては、2006年10月時点で日量2750万バレルあった生産量を、11月から2630万バレルに削減
(E) 2006年12月時点の生産量からさらに日量50万バレルを削減
さて、そこで、#306の記事(8)を見てみましょう。重要なグラフがあります。
ここで書き込んでくださった方々です。
↓
http://ameblo.jp/mattmicky1/entry-10027304897.html#c10045767762
ウェブサイトはここです。
↓
http://www4.ocn.ne.jp/~sai10u/#
4月21日(土)のセミナーに私は出席しました。
話題はバイオ燃料というよりバイオプラスティック(ポリ乳酸)でした
関係者の問題意識がすっきり認識できたのが収穫でしたね。
(1) 現状では石油系競合製品にコスト面で対抗できない。どうやって対抗するか?
(2) 原料をどうやって調達するか? 特に日本で調達するにはどうしたらよいか?
(3) 自前の製造技術を育成できるか? (今のところアメリカ企業が強い)
(4) 糖 → 乳酸 → ポリ乳酸 → 再乳酸化 → ポリ乳酸 と、リサイクル系を成立させられるか?
(5) 温暖化ガス排出量やエネルギー投入量などの統計データが圧倒的に不足している。世論形成に必要な議論に耐えられる統計データを整備できるか?
全く、正論ですね。機会をとらえてここでも考えていこうと思います。