不妊夫婦のお子さんの健康状態について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、不妊夫婦のお子さんの健康状態について調査したものす。

 

Fertil Steril 2024; 121: 853(欧州)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.017

Fertil Steril 2024; 121: 793(米国) doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.013

要約:英国(1991〜1992年)、ポルトガル(2005〜2006年)、アムステルダム(2003〜2004年)で単胎妊娠で出産したお子さん14,609名の健康及び発達について、それぞれ26歳、12歳、13歳まで追跡調査し、両親の不妊症の有無で比較しました。なお、妊娠までの期間が1年以上の場合を不妊症と定義しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

            2群間の差の修正オッズ比(95%信頼区間)

BMI:25歳まで増加       1.09kg/m2(0.68~1.50)

拡張期血圧:25歳まで増加   1.21mmHg(-0.003~2.43)

LDL:25歳まで増加       4.07%(-0.79~8.93)

HDL:25歳まで減少       -2.78%(-6.99〜1.43)

腹囲:17歳で最大         1.05cm(0.11-1.99)

収縮期血圧:17歳で最大     0.93mmHg(0.044〜1.81)

 

解説:不妊でない女性と比べ不妊症女性は、BMI高値、腹囲高値、トリグリセリド高値、HDL低値、糖尿病率が高いことが知られています。また、不妊症男性は肥満と高血圧になる可能性が高いことが報告されています。不妊症夫婦から生まれたお子さんに関する研究のほとんどがBMIにのみ焦点を当ていて、そのほかの健康状態に関する検討はされていませんでした。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、不妊夫婦の子供は、BMI、血圧、LDLが高く、HDLが低くなることを示しています。つまり、心血管疾患のリスクが増加する可能性を示唆しています。

 

コメントでは、有意差が出ているとはいえ、BMI差は25歳でわずか1kg/m2の違いあり、しかも肥満のカットオフ値(BMI 30)を下回っているため、肥満率が高いとは言えませんし、お子さんの健康状態の変化が、不妊治療によるものなのか、不妊症であること自体(もともと持っている特性)なのかは不明だとしています。また、これらの違いが両親のどちらによるものかも不明です。

 

BMIについては、下記の記事を参照してください。

2023.4.19「☆BMIと妊娠予後

2023.3.29「☆PCOSにおけるBMIと体重減少の効果

2023.3.3「☆母体BMIと周産期予後:自然妊娠 vs. ART妊娠

2023.1.12「ART治療や母親の肥満とお子さんの健康状態の関連

2022.12.14「肥満マウスの食事療法で卵子の質が改善

2022.12.13「肥満で子宮内膜のタンパク質の発現パターンが変化

2022.12.12「肥満で卵胞液中のタンパク質の発現パターンが変化

2022.10.14「☆ライフスタイルによる体重減少の効果:メタアナリシス

2022.4.25「☆女性のBMIは異常胚とは無関係

2021.12.5「BMI増加で胚盤胞発生動態は?

2021.11.21「☆BMI高値で不育症リスクが増加!?

2021.9.28「BMI高値は受精卵の染色体異常とは無関係

2021.7.21「☆女性の肥満で流産率が増加

2021.5.5「女性のBMIは卵子に影響?着床に影響?