本論文は、ART治療(体外受精、顕微授精)におけるレトロゾールの影響を調査したランダム化試験です。
Hum Reprod 2023; 38: 2154(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/dead182
要約:2016〜2018年にデンマークの4つの大学病院でART治療を実施する女性(AMH 1.1〜4.5)159名を対象に、FSH製剤150単位による体外受精の刺激中に1日1回5mgのレトロゾール(80名)またはプラセボ(79名)を投与するダブルブラインドランダム化試験を実施しました(RIOTスタディ)。結果は下記の通り、全ての項目で有意差を認めませんでした。
レトロゾール群 プラセボ群 P値
吸引卵胞数 11.8個 10.3個 NS
採卵数 8.0個 7.9 個 NS
正常受精率cIVF 48% 57% NS
正常受精率ICSI 62% 64% NS
5日目胚盤胞数 1.5個 2.0個 NS
臨床妊娠率 31% 39% NS
出産率 28% 37% NS
解説:アロマターゼ阻害剤であるレトロゾールは、アロマターゼ酵素(テストステロン→E2へ変換)を阻害することでE2値を低下させます。下垂体へのE2のネガティブフィードバックが減少するため、内因性FSHが増加し、卵胞の成長が刺激されます。また、テストステロンが上昇することで、FSH受容体発現の増加をもたらします。本論文は、採卵周期のレトロゾールの影響を調査した初めてのランダム化試験であり、採卵数、胚発生、妊娠率、出産率に影響しなことを示しています。
レトロゾールについては、下記の記事を参照してください。
2023.6.4「レトロゾール周期の人工授精の理想的なE2値は?」
2023.3.28「☆レトロゾールの有無による自然周期移植」
2022.2.19「レトロゾールの有無による刺激周期採卵の違い」
2021.1.28「レトロゾールの新しい使用法」
2020.7.5「一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響は?」
2020.6.19「乳癌の方の卵巣刺激法」
2020.6.5「AMH値により人工授精の妊娠率は変わらない」
2020.5.3「hMG/FSH製剤使用の人工授精は有効か?」
2020.4.21「原因不明不妊:ASRMガイドライン」
2019.7.30「着床障害の方に対する新しい試み:リュープリン+レトロゾール」
2019.4.21「人工授精の調整前の精液所見は人工授精の予後を反映しない」
2019.4.4「☆PCOSにはレトロゾール単独よりレトロゾール+クロミッドがより有効」
2017.10.25「Q&A1621 ☆多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)でしょうか?」
2017.8.17「やはり、PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ」
2017.4.23「☆多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における治療戦略」BMJ(メタアナリシス)
2017.1.11「☆フェマーラの安全性について」
2015.9.18「フェマーラによるP4への影響は?」
2015.3.8「☆PCOSの第一選択はフェマーラ」Cochrane review(メタアナリシス)
2014.11.6「PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ!」N Engl J Med(RCT、N=750)