☆多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における治療戦略 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、世界保健機関(WHO)のGroup 2性機能障害における治療戦略をメタアナリシスにより解析したものです。なお、WHO-Group 2性機能障害の多くは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)です。

 

BMJ 2017; 356: j138(オーストラリア)

要約:WHO-Group 2性機能障害のRCTに関して、2016年4月までに発表された57論文8082名が抽出されました。治療方法として、クロミッド、フェマーラ、グリコラン(メトホルミン)、クロミッド+グリコラン、タモキシフェン、HMG/FSH、卵巣ドリリング、プラセボ/無治療を比較しました。卵巣ドリリング以外の薬物療法は、無治療と比べ排卵率と妊娠率が有意に高くなりました。クロミッド単独と比べ、フェマーラ単独およびクロミッド+グリコランは、排卵率(1.99倍、1.55倍)と妊娠率(1.58倍、1.81倍)が有意に高くなっていました。また、クロミッド単独と比べフェマーラ単独で、出産率(1.67倍)が有意に高くなりました。クロミッド単独と比べ、フェマーラおよびグリコランは、多胎率(0.46倍、0.22倍)が有意に低くなっていました。

 

解説:世界保健機関(WHO)は、性機能障害(排卵障害、月経異常、無月経)を下記の7つに分類しています。

Group 1 視床下部・下垂体機能不全(E2低下、LH・FSH低下):中枢性第2度無月経 (視床下部性・下垂体性) 、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症など

Group 2 視床下部・下垂体性機能異常(E2正常、LH ・ FSH正常): 第1度無月経、無排卵周期症、黄体機能不全、希発月経、多嚢胞性卵巣症候群、肥満、軽症の視床下部性など 

Group 3 卵巣機能不全(E2低下、LH・FSH高値):卵巣性無月経、早発卵巣不全(POI)など
Group 4 先天性または後天性の子宮腔の異常:E2投与を繰り返しても消退出血なし

Group 5 視床下部・下垂体領域に占拠性病変のある高プロラクチン血症

Group 6 視床下部・下垂体領域に検出可能な占拠性病変のない高プロラクチン血症 

Group 7 視床下部・下垂体領域に占拠性病変があり、プロラクチン異常のない無月経 

なお、Group 1とGroup 2が論文にしばしば登場します。日本ではそれぞれ第2度無月経と第1度無月経に相当し、数字が逆転していますので、ご注意ください。

 

本論文は、WHO-Group 2性機能障害(=PCOS)の方には、フェマーラが排卵率、妊娠率、出産率、単胎率ともに、最も優れていることを示しています。なお、日本でフェマーラが第1選択にならないのは自費の薬剤であるからです。

 

下記の記事を参照してください。

2015.9.22「☆PCOSでのメトホルミン治療:Cochrane review

2015.3.8「☆PCOSの第一選択はフェマーラ

2014.11.6「PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ!