本論文は、レトロゾール周期の人工授精の理想的なE2値を検討したものです。
Fertil Steril 2023; 119: 785(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.01.003
Fertil Steril 2023; 119: 792(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.03.005
要約:2014〜2019年にレトロゾール周期の人工授精を実施した2,368周期を対象に、トリガー日(HCG投与あるいはLHサージ)のE2値と出産率の関連について後方視的に検討しました。年齢、BMI、最大卵胞直径、卵胞数を補正したE2のカットオフ値別の結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
25パーセンタイル(110) 50パーセンタイル(157) 75パーセンタイル(225) 90パーセンタイル(319)
臨床妊娠率 1.43(1.08〜1.90) 1.46(1.14〜1.85) 1.32(1.00〜1.73) 1.09(0.73〜1.64)
出産率 1.53(1.11〜2.10) 1.56(1.20〜2.04) 1.46(1.09〜1.97) 1.27(0.84〜1.95)
流産率 2.18(0.88〜5.42)1.63(0.81〜3.29) 1.63(0.78〜3.42) 1.00(0.32〜3.16)
また、卵胞直径20mm以上と20mm未満で比較したところ、卵胞が20mm以上の群ではE2値が有意に高かったにもかかわらず、臨床妊娠率も出産率も有意差を認めませんでした。
解説:レトロゾールは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や原因不明不妊における卵巣刺激にしばしば使用されます。レトロゾール(フェマーラ)はアロマターゼ酵素を阻害するためE2値がおよそ1/4に低下し、そのためFSHの増加が起こり卵胞発育につながります。本論文の著者らは、E2値が回復する前に排卵が生じた場合に妊娠率が低下するのではないかと考え、人工授精のトリガー日のE2値と出産率の関連について後方視的に検討したところ、トリガー日のE2値が高いほど妊娠率や出産率が高いことを示しています(少なくとも110以上)。つまり、卵胞サイズよりE2濃度が、レトロゾール周期の人工授精における妊娠成績を左右することになります。本論文の著者らは、レトロゾールの効果が切れた後、E2値が上昇するまでトリガーを待つことで妊娠率や出産率が増加する可能性があるとしています。
コメントでは、充分の症例数で実施した本論文の結果を大きく支持しています。 原因不明不妊に対して卵巣刺激+人工授精が広く行われていますが、成功率を高めるためにE2値が上昇するまでトリガーを待つやり方は検討の余地があるとしています。
下記の記事を参照してください。
2023.3.28「☆レトロゾールの有無による自然周期移植」
2022.2.19「レトロゾールの有無による刺激周期採卵の違い」
2015.9.18「フェマーラによるP4への影響は?」