☆レトロゾールの有無による自然周期移植 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

レトロゾールの有無による自然周期移植の妊娠成績について質問がありましたので、論文をご紹介します(①②は無料で読むことができます)。

 

論文①BMC Pregnancy and Childbirth 2022; 22:824(日本)doi: 10.1186/s12884-022-05174-0

要約:2015〜2020年に凍結胚盤胞の単一胚移植を行った14,611名を対象に、自然周期12,700名とレトロゾール周期1,911名の妊娠成績を後方視的に検討しました。傾向スコアマッチング法(Propensity score matching=PSM)により補正後(各群1,910名)の妊娠成績は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

         自然周期   レトロゾール周期   P値

トリガー日E2値  336pg/mL >  259      <0.0001

移植日E2値    170pg/mL >  114      <0.0001

移植日子宮内膜厚 10.6mm  <  10.7mm     0.03

臨床妊娠率    50.4%   <  54.2%     0.02

流産率      22.3%      21.8%      NS

出産率      39.1%   <  42.3%     0.04

NS=有意差なし

 

多変量解析により、出産率に影響を与える因子として、女性年齢(若)、胚盤胞到達時間(短)、胚盤胞直径(大)、ICMグレード(AB)、TEグレード(A)、レトロゾール使用(有)が抽出されました。レトロゾール使用有りは無しと比べオッズ比1.156(95%信頼区間1.006〜1.329、P=0.0397)でした。なお、周産期合併症と出生児の状態は全ての項目で有意差を認めませんでした。

 

論文②F&S Rep 2021; 2: 320(米国)doi: 10.1016/j.xfre.2021.05.007

要約:2017〜2020年にレトロゾール周期による凍結胚移植を実施した217名を対象に、トリガー当日のE2値が10パーセンタイル未満(E2<91.16pg/mL)の、低E2群22名とそれ以上の正常E2群195名の2群に分け、妊娠成績を後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

         正常E2群    低E2群   ASD値

トリガー日E2値  366pg/mL >  67     1.3

移植日子宮内膜厚 8.9mm     8.5mm   0.29

臨床妊娠率    64.1%      50.0%   0.29

流産率      8.8%   <  36.4%   0.70

出産率      57.9%   >  31.8%   0.54

ASD値:0.2小〜0.5中〜0.8大〜

 

正常E2群と比べ低E2群の妊娠成績(各種交絡因子を補正後)は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

       修正オッズ比(95%信頼区間)  P値

臨床妊娠率    0.52(0.18〜1.51)     0.23

出産率      0.28(0.10〜0.81)     0.019

流産率      8.06(1.36〜47.6)     0.021

 

なお、出生児の状態は全ての項目で有意差を認めませんでした。

 

論文③Hum Reprod 2017; 32: 1244(日本産科婦人科学会)doi: 10.1093/humrep/dex066(2017.6.23「凍結胚移植におけるフェマーラの有用性」でご紹介を再掲)

要約:2012〜2013年に日本産科婦人科学会に登録された全国データを用い、凍結胚移植110,722周期におけるレトロゾール(フェマーラ周期、2409周期)、自然周期(41,470周期)、ホルモン補充周期(66,843周期)の比較を行いました。胚盤胞移植の場合に、自然周期およびホルモン補充周期と比べレトロゾール周期は、臨床妊娠率がそれぞれ1.48倍(1.41〜1.55)、1.62倍(1.54〜1.70)と有意に高く、流産率がそれぞれ0.91倍(0.88〜0.93)、0.84倍(0.82〜0.87)と有意に低くなっていました。なお、出生児の先天異常頻度には有意差を認めませんでした。

 

解説:論文①と論文③は、凍結胚移植におけるレトロゾール周期の有用性について示したものですが、論文①は臨床妊娠率と出産率が増加し流産率は変化なし、論文③は臨床妊娠率が増加し流産率は減少しています。一方論文②はレトロゾール周期の中でE2低下(E2<91.16pg/mL)の場合に、臨床妊娠率は同等ですが、流産率が増加し出産率が減少することを示しています。

 

論文③には患者背景や投与方法などの情報が一切入っていませんが、国家規模のデータのため症例数は最多。論文①は患者背景を詳しく分析していますが、単一施設での後方視的検討。論文②は症例数が少なすぎるため、参考程度。結論を得るには前方視的なランダム化試験が必要です。