レトロゾールの有無による刺激周期採卵の違い | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、レトロゾールの有無による刺激周期採卵の違いについて前方視的に検討したランダム化試験です。

 

Hum Reprod 2022; 37: 309(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/deab249

要約:2016〜2018年にデンマークの4施設で、18〜40歳、BMI<35、AMH 1.1〜4.5、月経周期21〜35日の女性159名を対象に採卵周期を開始し(アンタゴニスト法、FSH製剤150単位連日投与、オビドレルトリガー)、レトロゾール使用(5mg/日orプラセボ)の有無でランダムに2群に分け、採卵周期のホルモン値及び培養成績の違いを前方視的に検討しました(除外基準:PCOS、過去の採卵で卵回収3個以下)。黄体期までのデータを確保できたレトロゾール群67名と対照群62名で検討しました。採卵成績及び培養成績には有意差を認めませんでしたが、下記のホルモン値に有意差を認めました。

 

          レトロゾール群  対照群   P値

E2 トリガー日     366  <  1176  <0.0001

E2 黄体期(AUC)  2145  <  7138  <0.0001

P4 トリガー日     0.6  >   0.4   <0.0001

P4 黄体期       37  >   23   <0.006

T トリガー日(AUC)  17  >  10   <0.0001

T 黄体期(AUC)    18  >  12   <0.0001

A トリガー日(AUC)  81  >  44   <0.0001

A 黄体期(AUC)    79  >  46   <0.0001

LH 卵胞期(AUC)   48  >  36   <0.0001

LH 黄体期(AUC)   16  >  12   <0.006

FSH CD5       13.6  >  10.9  <0.0001

FSH トリガー日    11.6  >  10.7  <0.014

*T=テストステロン

*A=アンドロステンジオン

 

解説:レトロゾールは下垂体を介した卵胞発育作用と卵巣への直接作用がある薬剤です。HMG/FSH製剤と一緒に用いることにより体外受精の卵巣刺激にしばしば用いられます。半減期は45時間E2低下作用があることが知られています。レトロゾール+HMG/FSH製剤による卵巣刺激の有効性については賛否両論があります。本論文は、レトロゾールの有無による刺激周期採卵の違いについて前方視的に検討したランダム化試験であり、E2値は有意に低下しますが、P4、テストステロン、アンドロステンジオン、LH、FSH値はいずれも有意に増加すること、採卵成績及び培養成績には影響しないことを示しています。

 

レトロゾールについては、下記の記事を参照してください。

2021.1.28「レトロゾールの新しい使用法

2020.7.5「一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響は?

2020.6.19「乳癌の方の卵巣刺激法

2020.6.5「AMH値により人工授精の妊娠率は変わらない

2020.5.3「hMG/FSH製剤使用の人工授精は有効か?

2020.4.21「原因不明不妊:ASRMガイドライン

2019.7.30「着床障害の方に対する新しい試み:リュープリン+レトロゾール

2019.4.21「人工授精の調整前の精液所見は人工授精の予後を反映しない

2019.4.4「☆PCOSにはレトロゾール単独よりレトロゾール+クロミッドがより有効

2017.10.25「Q&A1621 ☆多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)でしょうか?

2017.8.17「やはり、PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ

2017.4.23「☆多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における治療戦略」BMJ(メタアナリシス)

2015.3.8「☆PCOSの第一選択はフェマーラ」Cochrane review(メタアナリシス)

2014.11.6「PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ!」N Engl J Med(RCT、N=750)

2017.1.11「☆フェマーラの安全性について