PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

N Engl J Medは、臨床医学会の最高峰の雑誌です。この雑誌に掲載された内容は、極めて信頼性が高く、世界へ向けて発信する力としては最大であるとお考えください。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方には、これまでクロミフェン(クロミッド)が第一選択薬とされていましたが、N Engl J Medに最近掲載された本論文は、クロミフェンよりフェマーラの方が排卵率、生産率共に優れていることを示しています。

N Engl J Med 2014; Jul 10; 371: 119(米国)
要約:750名のPCOSの方(18~40歳)をダブルブラインドによってクロミフェン群とフェマーラ群に半々に分け、最大5周期にわたり排卵率と生産率を前方視的に調査しました(多施設共同研究)。なお、卵管通過障害、子宮形態異常、男性不妊、性交障害のある方は除外しました。クロミフェン群(48.3%)と比べ、フェマーラ群(67.1%)で排卵率は有意に高くなっていました。また、クロミフェン群(19.2%)と比べ、フェマーラ群(27.5%)の生産率は有意に高くなっていました。なお、胎児異常率、流産率、双胎率に有意差を認めませんでした。クロミフェン群ではホットフラッシュが、フェマーラ群では疲労感とめまいの頻度が高くなっていました。

解説:PCOSの診断基準(ロッテルダム基準 2003)は下記の通り。
1 稀発排卵 or 無排卵
2 臨床的 and/or 検査で高アンドロゲンの所見
3 多嚢胞性卵巣(2~9mmの小卵胞が12個以上 and/or 卵巣体積が10ml以上)
上記3つのうち少なくとも2つがあった場合にPCOSと診断する
卵胞の分布、間質の輝度・面積の増加は定義には含まない
片側の卵巣のみで 多嚢胞性卵巣と判定してよい
10mm 以上の卵胞がある場合や黄体を認める場合は次の周期を待って判定する
ピルを内服してる女性にはこの基準を用いることはできない
超音波上の 多嚢胞性卵巣所見だけで PCOSと診断することはできない

一方、体外受精を考慮しない場合の治療は、下記の順でした。
1 クロミフェン(内服)
2 FSH製剤(毎日自己注射)
3 フェマーラ(内服)
4 ドリリング(腹腔鏡手術)
*以上の薬剤に追加して、メトホルミン(グリコラン)や糖質コルチコイド(いわゆるステロイドホルモン)もしばしば用いられます。

本論文は、この1番目にフェマーラが来ることを示しています。実際に、AMHが極めて高い方(20~30 ng/mL)や、1と2が全く無効な方にフェマーラが良く効くことが多いように思います。しかも、フェマーラの特徴は、単独で使用すると単一卵胞が発育しますので、多胎妊娠になりにくいです。ただ、卵胞が小さいうちに(早めに)排卵してしまうことがあるので、注意が必要です。またE2も低くなりますので、通常の感覚で対処すると失敗します。

下記の記事を参照してください。
2013.2.17「フェマーラを使用するとE2は1/4になる」