☆不妊症と将来の癌のリスク

本論文は、不妊症と将来の癌のリスクについて前方視的に検討したNurses' Health Study II（NHSII）スタディです。

Fertil Steril 2023; 120: 134（米国）doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.02.028

Fertil Steril 2023; 120: 143（米国）コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.033

要約：1989〜2015年にNurses' Health Study II（NHSII）に登録した、登録時に癌の診断がなされていない103,080名（25～42歳）の看護師を対象に、不妊症（1年間不妊）女性とそうでない女性を2年毎に追跡調査を行い、癌の発症頻度について前方視的に検討しました（観察研究）。不妊症の有無は自己申告とし、癌の診断はカルテに基づいて行いました。癌は、肥満関連癌（結腸直腸癌、胆嚢癌、腎臓癌、多発性骨髄腫、甲状腺癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、子宮体癌、卵癌巣、閉経後乳癌）とそうでない癌（他のすべての癌）に分類しました。26,208人が不妊症であり、6,925名が癌の診断に至りました。交絡因子補正後、不妊症女性は、不妊症でない女性よりも癌を発症するリスクが有意に高くなっていました（オッズ比1.07、95%信頼区間1.02〜1.13）。この関連は、肥満関連癌でより強く認めましたが（オッズ比1.13、95%信頼区間1.05〜1.22）、非肥満関連癌では有意差を認めませんでした。特に肥満関連の生殖系癌（閉経後乳癌、子宮体癌、卵巣癌）で有意差を強く認め（オッズ比1.17、95%信頼区間1.06〜1.29）、若い女性でより強い有意差を示しました（25歳以下オッズ比1.19、95%信頼区間1.07〜1.33、26〜30歳オッズ比1.11、95%信頼区間0.99〜1.25、31歳以上オッズ比1.07、95%信頼区間0.94〜1.22）。

解説：不妊症は1年間妊娠していない場合と定義され、米国では20～25%が該当します。不妊症は、卵巣癌や子宮体癌などの婦人科系癌の危険因子であると示唆されていますが、結論は出ていません。不妊症の原因は多岐に渡り、必ずしも一定の集団ではありませんが、インスリン抵抗性、高アンドロゲン、慢性炎症などが、癌（特に肥満関連癌）の危険因子とされています。このような背景のもとに、26年以上にわたる本論文の大規模な前向きコホート研究（NHSII）が行われ、不妊症女性は、不妊症でない女性よりも癌を発症するリスクが有意に高く、特に肥満関連の生殖系癌、若い女性でより強い関連が認められることを示しています。

コメントでは、不妊症の女性における婦人科がんのリスクについては、多くの研究が実施されていますが結論は得られていないとしながらも、2019年米国癌協会は肥満とさまざまな癌との強い関係に関する最新の報告書を発表し、女性の癌の11%は肥満が原因であるとしています。本論文の問題点は、患者コホートが均一であることです（96％が白人、全員が看護師）。看護師は、連続夜勤やローテーション勤務など、ハードな勤務を要求されることがしばしばあります。10年以上の夜勤労働は乳癌リスクが増加するとの報告もあります（1.086倍、95％信頼区間1.03～1.14）。本論文は、不妊症により女性が特定の種類の癌にかかりやすくなることを示唆しています。ただし、これは単なる観察研究であり、因果関係を意味するものではありませんのでご注意ください。

Nurses' Health Study II（NHSII）から、素晴らしい研究が次々と発表されています。過去のNHSIIについては、下記の記事を参照してください。

2022.12.18「野菜や果物の残留農薬と内膜症の関係」

2022.5.23「PMSとビタミンB6」

2020.12.30「Chavarro先生と対談」

2020.11.19「子宮筋腫リスク低下には脂肪酸摂取を！」

2020.4.10「子宮筋腫リスク低下にはヨーグルトとカルシウムを！」

2019.9.29「☆大気汚染と流産リスク」

2019.3.23「夜勤で閉経が早まる！？」

2019.1.7「☆子宮外妊娠のリスク因子」

2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない？」

2018.9.21「幼少期から思春期の虐待と子宮内膜症の関係」

2018.4.29「フルーツで子宮内膜症予防？」