本論文は、粘膜下筋腫の術前術後の着床関連のサイトカイン濃度について検討したものです。
Fertil Steril 2023; 119: 504(トルコ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.11.021
要約:粘膜下筋腫(タイプ0とタイプ1子宮筋腫)21名と対照群8名の子宮内膜を子宮内洗浄により採取し、着床関連のサイトカインとして、HOXA10、HOXA11、LIF発現とNFκB濃度について比較検討しました。なお、対照群は卵管結紮術を実施する方としました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。
粘膜下筋腫タイプ0 粘膜下筋腫タイプ1 対照群
術前 術後 P値 術前 術後 P値 術前 術後 P値
HOXA10 0.77 11.1 0.01 0.83 16.3 0.01 0.54 0.58 NS
HOXA11 0.90 4.23 0.03 0.98 8.34 0.01 0.45 0.55 NS
LIF 0.66 7.63 0.01 0.96 9.38 0.02 0.29 0.33 NS
NFκB 4.22 1.33 0.01 6.44 1.65 0.02 0.54 0.48 NS
NS=有意差なし
解説:子宮筋腫と不妊症の関連は様々な要因が関与するものと考えられます:子宮内腔を変形させるもの(タイプ0、1、2=粘膜下筋腫)、子宮内膜への血流低下(タイプ3=子宮内膜に接触する筋層内筋腫)、子宮収縮をきたす、子宮内サイトカインの変化をきたす(BMPR type 2、LIF、Eカドヘリンなど)、筋腫から産生されるTGFβにより子宮内膜受容能の指標であるHOXA10低下(筋腫からの距離が近いと強く影響→タイプ0、1、2、3)、厚い筋腫皮膜の場合神経の圧排による子宮収縮、子宮内膜と子宮筋層の境界線が保たれていないものなど。HOXA10、HOXA11、LIFは、着床に必要な因子であるとされ、NFκBは子宮筋腫の発育に関連するとされています。本論文はこのような背景のもとに行われた研究であり、HOXA10、HOXA11、LIFは子宮筋腫術後に有意に増加し、NFκBは子宮筋腫術後に有意に低下することを示しています。症例数が少ないので今後の検討が必要ですが、素晴らしい研究だと思います。
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